10月26日、牡馬クラシック三冠の最終戦となる菊花賞(GⅠ、京都・芝3000m)が行なわれ、単勝1番人気に推されたエネルジコ(美浦・高柳瑞樹厩舎)が直線、突き抜けて圧勝。手綱をとったクリストフ・ルメール騎手は本レース3連覇という前人未到の快挙を成し遂げた。
2着には最後方から追い込んだ2番人気のエリキング(栗東・中内田充正厩舎)が入り、先行した13番人気のエキサイトバイオ(栗東・今野貞一厩舎)が粘り込んだ。
一方、5番人気のゲルチュタール(栗東・杉山晴紀厩舎)は4着に粘ったが、3番人気のショウヘイ(栗東・友道康夫厩舎)は末脚の伸びを欠いて14着に、4番人気に推されたマイユニバース(栗東・武幸四郎厩舎)は13着に、それぞれ敗れた。
前日から断続的に降り続く雨のため稍重となった今年の菊花賞だったが、終わってみれば走破タイム3分04秒0は、良馬場で行なわれた昨年よりも0秒1速いという、スタミナとスピードの両方を必要とするタフな内容になった。そうした流れのなか、2着のエリキングを2馬身(0秒3)突き放したエネルジコの強さばかりが目立った淀の3000mだった。
レースはショウヘイや7番人気ヤマニンブークリエ(栗東・松永幹夫厩舎)、エキサイトバイオらが先行するなか、マイユニバースやエネルジコは後方に控え、折り合いを優先したエリキングはさらに後ろの17番手から追走した。
レースが動いたのは向正面。菊花賞の常として中盤にペースがぐっと遅くなったのを察知したマイユニバースが外から一気に位置を先団にまで押し上げると、直後にいたエネルジコもそれに連れて中団まで上がっていき、エリキングも徐々にではあるが前との差を詰めていく。このときの動きが勝負を決めた。
直線へ向いてエキサイトバイオが先頭に躍り出て、それを9番人気のレッドバンデ(美浦・大竹正博厩舎)が、さらにはゲルチュタールが追撃。しかし最終コーナーでは4番手まで押し上げていたエネルジコが爆発的な末脚を繰り出して先に抜け出した3頭をのみ込むと、馬群の大外から追い込んだエリキングを寄せ付けずに圧勝。エネルジコが上り3ハロンで叩き出した35秒0という時計は、2着のエリキングらが計時した35秒2を上回っての最速タイム。エリキングの手綱をとった川田将雅騎手が「精一杯走って、頑張ってくれましたが、(強い馬が)1頭いましたね」とコメントしたように、エネルジコの強さに他の陣営は脱帽の様子だった。 エネルジコは昨年の新馬戦を快勝すると、3連勝でダービートライアルの青葉賞(GⅡ)を制した。しかしコンディションが整わなかったため日本ダービー(GⅠ)を回避。目標を菊花賞に切り替えて、約4か月の休養を挟んで8月の新潟記念(GⅢ)に出走して古馬を相手に2着とした。そこからさらに2か月の調整期間を設け、10月の初頭に栗東トレセンに入厩して大一番に臨んでいた。
日本ダービーのあとには、一部で「幻のダービー馬」との評も上がったが、菊花賞でその見立てがあながち無茶ではなかったことを証明した。同時に、ダメージの回復に時間を要するエネルジコに十分な休養を取りながら、狙いすましたように菊花賞に万全の態勢で臨めるところまで仕上げてきた厩舎、牧場スタッフの尽力は賞賛に値する。
それにしても前人未到の菊花賞3連覇を達成し、過去10年で5勝を挙げているルメール騎手の手腕の凄まじさはどうだろう。同騎手は「エネルジコはスタートがあまり上手ではないので、今日は後ろの方で乗ろうと思いました。長い距離で時間がありますし、1周目では後ろから我慢していきました。向正面では武豊騎手の後ろで、良いポジションでした。だんだん上がっていって、最後は長く良い脚で伸びてくれました」と振り返る。
この「長い距離で時間がある」というコメントが肝で、ルメール騎手は中長距離のレースでペースに応じて道中で位置を押し上げる競馬をしばしば敢行するが、一気に勢いを付けるのではなく、じわじわとポジションを上げながらもう一度先団で折り合い、最終コーナーから再度スパートに入るというハイレベルなペース把握と騎乗馬のコントロール技術に長けていないとできない芸当だ。ファンの間では「長距離はルメールから買っておけば間違いない」との声も上がるが、それも当然のことだと言える。
エリキングは多少折り合いが難しい馬であるがゆえ、後方からの競馬を強いられるなかでここまで追い込んだのはやはりポテンシャルの高さには相当のものがあると、あらためて認識させる内容。本質的には中距離向きと思われるが、そのなかではレースの流れひとつで勝ち負けに持ち込めるだろう。これからの成長に期待したい。
3着のエキサイトバイオ、4着のゲルチュタール、5着のレッドバンデは、いずれも騎手の積極的な騎乗が目に付いた。なかでも大外枠からのスタートとなりながら、インに潜り込んで前目の位置でレースを進めた佐々木大輔騎手の好騎乗は、いまや乗れる若手との評価が定着しつつある彼の面目躍如たるものだったと言えるだろう。
3番人気で14着に敗れたショウヘイは気負った走りが目立ったが、そうした要素を含め、やはり距離適性に問題があったか。2400m戦で3着、2着としているが、そこから600m距離が延びるなかで自身の特性が露わになったのだと感じさせられた。今後は古馬との戦いのなか、中距離でどのようなレースができるのかに注目していきたい。
文●三好達彦
【動画】牡馬クラシック最後の一冠はエネルジコ
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