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「耳」の役割を疑う研究者たちの挑戦――そこには卵を守るバリア菌栽培ポッドがあった

「耳」の役割を疑う研究者たちの挑戦――そこには卵を守るバリア菌栽培ポッドがあった

母カメムシの「カビバリア」が意味する進化の知恵

生み落とされた卵の周りに徐々にカビバリアが育っていく様子
生み落とされた卵の周りに徐々にカビバリアが育っていく様子 / Credit:Defensive fungal symbiosis on insect hindlegs

今回の研究により、「鼓膜器官」と思われていたものが、実はこれまで知られていなかった新しいタイプの防衛用の共生器官であることが明らかになりました。

カメムシ類は以前から、消化を助ける共生細菌を体内に飼うことが知られていましたが、卵を守るためにカビを利用するという例は報告されていませんでした。

これまでの昆虫と微生物の防御の仕組みでは、細菌が抗生物質や毒素を作って敵を追い払う「化学戦」が多く見られました。

しかしノコギリカメムシは、毒を使わず、カビに物理的なバリアを作らせて敵を防ぐという、前例のない方法を進化させていたのです。

自然界の仕組みは想像以上に多様で、この発見はその創意工夫の一端を教えてくれます。

またこの防衛共生は、ノコギリカメムシで確認された現象です。

研究では日本各地で採集した個体を調べたところ、どの個体もメスの後脚に共生菌を宿し、卵に塗りつける行動を示しました。

このことから、この戦略はノコギリカメムシの仲間で早い時期に進化した適応であると考えられています。

さらに、このカビは本来なら昆虫を殺す種類の仲間ですが、カメムシにとって毒性の低い「おとなしい菌」を選んで共生していることも分かりました。

そして、このカビは幼虫に感染しないため、母親だけが環境中から新たに菌を集め直すという、一世代ごとの使い切りの関係を保っているようです。

研究チームは、「もとは卵に化学物質を塗って守る仕組みだったものに、偶然カビが住みつき、それをうまく利用する方向へ進化したのではないか」という仮説を立てています。

小さな虫の小さな足にある小さな器官に住む小さなカビの話だといって見下すことは簡単です。

しかし、日本の研究者たちはそんな小さなものに対する「なぜ」を突き詰め、大きな知恵の実りをもたらしてくれました。

参考文献

ノコギリカメムシの“耳”と思われていたのは“共生器官”だった
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20251017/pr20251017.html

元論文

Defensive fungal symbiosis on insect hindlegs
https://doi.org/10.1126/science.adp6699

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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