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国立で光った195cm・120kgの巨漢フランカー、右腕に刻む『刎頸之交』 血を超えた“家族”を胸に戦うベン・ガンターの素顔

国立で光った195cm・120kgの巨漢フランカー、右腕に刻む『刎頸之交』 血を超えた“家族”を胸に戦うベン・ガンターの素顔

これがベン・ガンターだ。

 10月25日、雨に降られた東京・国立競技場。身長195センチ、体重120キロの28歳は、ラグビー日本代表の6番として期待に応えた。
  走者へのぶちかまし、分厚い壁へのクラッシュ、ひと仕事を終えてから次の現場へ駆けつける意識と運動量…。競技のポータルサイトである『RUGBY PASS』によると、タックル成功数は「20」で、圧倒的な一撃がカウントされるドミナントタックルは両軍最多の「3」だった。

 対するオーストラリア代表は、戦前の世界ランクで6つ上回る7位の伝統国だ。何より自身の出身地でもある。

 ガンターがこのカードに臨んだのは、ジャパンでデビューした21年10月以来2度目である。

 さかのぼってキックオフを前に、両国の国歌斉唱があった。相手側の曲が流れると、当事者は静かに目を閉じた。

「不思議な感覚でした。幼い頃は、いつかこのような場所で(オーストラリアの)国歌を歌いたいと思っていました。実際には逆の立場になり、ここに立っています。誇らしいことです」

 初来日は2015年。地元に近いブリスベンボーイズカレッジの一員として、福岡での「サニックスワールドラグビーユース交流大会」という国際大会に出た。

 そのツアーの一環で原爆ドームを見て、砂風呂を体験し、さぁ、ここからは自国でプロに挑戦だ、と、意気込んだものの、思い通りにならなかった。

 働き場であるフランカーのポジションに好選手が揃っていたためか、後のハードヒッターは「埋もれてしまっていた」。近隣地域からトップのスーパーラグビーに参加するレッズとは、契約できなかった。

 高校卒業後は、第一線で戦うのを諦めオーストラリア軍入隊を検討した。

 ここに救いの手を差し伸べてきたのが、直近に訪れていた日本の有力チームだった。

 現埼玉パナソニックワイルドナイツだ。10年代に所属していた田中史朗、堀江翔太ら日本代表勢に海外挑戦を奨めてきた国際派集団は、その頃のオーストラリアが原石揃いだと知っていた。

 ガンターもそのひとりだった。練習生を経てサインした16年、19歳6日で当時のトップリーグでの最年少出場記録を更新。段階的に主力となった。
  人生に影響を与えたのは誰か。そう問われるとまず、ワイルドナイツで出会った同じフランカーのデービッド・ポーコック、司令塔のベリック・バーンズといったオーストラリア代表経験者を挙げる。それぞれに接点での動き、ハンドリングの技術を学んだからだ。

 さらには、指揮官のロビー・ディーンズに感謝を述べる。マインドセットを矯正してくれたからだ。
 「私はものを複雑に考えがち。失敗したら深く反省しますし、パスすべきか突進すべきかをナチュラルに選べないタイプかもしれません。そんななかロビーは、本当に僕の直感、本能を信じてくれた。シンプルに教えてくれました」

 場合によっては軍人となる可能性もあったなか、故郷を離れて想定外の人生を展開してきた。

 今度のオーストラリア代表戦の約3週間前、しみじみと述べた。

「本当に後悔はない。あの時、日本に来ていなかったらこんな風にプレーできていない。人生を変えられること、いい人と出会えることは、ラグビーの魅力でもあります」

 ゲームではテーピングで隠されがちだが、右腕には約1年前から珍しいタトゥーを刻んでいる。

 列島を取り囲む海、富士山、無事を祈るお守り、いまのナショナルチームのエンブレムである桜の花びらのほか、故事成語のフレーズもあしらっている。

『刎頸之交』

 お互いのために首を斬られても後悔しないほどの強い関係性を表す。本人なりのその心は、「血は繋がっていなくても、家族である」。出生のタイに国籍があり、オーストラリアでの幼少期は父と養父母のもとで育っていた。

 諸々をひっくるめて…。

「自分の道のりを説明するものになっています」

 国立の一戦を15―19と惜しくも落とすと、次を見据えた。

「必死に食らいつき、持久力で戦いました。今回の課題は(やや劣勢だった)試合のスタートです。それ以降から終盤はよかっただけにです」

 11月までに渡欧する。ワールドカップ2連覇中の南アフリカ代表などとの4連戦を控える。生き様でぶつかる。

取材・文●向風見也(ラグビーライター)

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配信元: THE DIGEST

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