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日本の農家の手取りは実質175万円「儲け過ぎ」批判のあるアメリカ、手厚い補助金のある西欧と比べて極端に厳しい実情

日本の農家の手取りは実質175万円「儲け過ぎ」批判のあるアメリカ、手厚い補助金のある西欧と比べて極端に厳しい実情

第一次産業による過疎化

しかも、第一次産業の振興は過疎化につながる。まず、農業は広大な土地を使う。使い勝手のよい平坦な土地は農地で埋め尽くされる。おのずと農村地域の人口密度は低くなる。また、近年は農業技術の進歩と機械化で農作業の人手が減っている。より人口密度が低くなる。

次に、畜産業は匂いの問題がある。私の調査地域は畜産が盛んで外部者から「糞の匂いがする」とよく言われる。かつては糞の匂いなど気にしなかったのに近年は住民でさえも匂いを嫌がる。

近所からのクレームで家畜を手放す事例が増えた。現在の畜産業は人家の少ない地域でないと行えない産業だ。当然ながら人口密度が低くなる。

さらに、漁業や林業を含めて第一次産業は、その社会的役割の高さに比べて職業威信が低く生活が不安定だ。若者を惹きつける力に乏しく、若者の転出でやはり人口密度が低くなる。

つまり、どのように考えても第一次産業の振興で人口が増える訳がない。過疎地域の成長と発展を本気で目指すのなら、今すぐにでも第一次産業から撤退し、アートとサイエンスに特化した第三次産業に転換したほうがよい。

ところが、中央集権はそれを許さない。「のどかな田園風景」「美しい日本の原風景」といった文言を並べて過疎地域に食料の安定供給を求める。

それは国家として当然の行為でもある。食料の安全保障という側面で考えた場合、過疎地域の人口減少を容認して、第一次産業の推進を図るのは理に適う。過疎地域はその役割を60年以上にわたって粛々と引き受けてきた。

食料の買い占めが起こっても対応できるよう、低賃金で農地を維持している。だからこそ、読者の皆様に伝えたい。

国家を縁の下で支えている過疎地域を国民全体で守るのは当然だ。

アメリカでは「農家は儲けすぎている」と批判がある

西欧では田舎と都市部の役割の違いを国民が認識している。「都市部を支える田舎を守る」という共通認識や、「交換価値の低さを税金で埋めるのが公平だ」といった国民的合意がある。

残念ながら、私たちの社会にそのような国民的合意は存在しない。あるのは「悲惨だから救う」「困っているから助ける」という上から目線の共通認識だ。

農業経済学者の鈴木宣弘〔2021〕によれば、スイスの農業所得に占める補助金の割合はほぼ100%である。イギリスやフランスは約90%で、ドイツは約80%だ。その年の収穫量によって約10%の上下はあるが、農家は「みなし公務員」のような手厚い保護を受けている。

また、アメリカの農家における補助金の割合は日本と同じ約30%である。ただし、アメリカは株式会社化した大規模経営が主だ。地平線の彼方まで農地が続き、大型の農業機械が行き交う。

広大な土地を少人数で管理し、自然環境に適した作物を大量生産している。各方面から「農家は儲けすぎている」といった批判がされるくらいだ。

日本の農家はアメリカのような広大な農地や牧場を持たず、西欧諸国のような補助金の支給もない。過疎地域はその状況の中で、役に立たない補助金事業に依存するしかなかった。有益な補助金の使い道が他にある筈なのに、それを行えなかった。

農業は伝統文化の継承や無形文化の存続のためにあるのでは決してない。ましてや政治家や官僚のためにあるのでもない。農業は食料生産者と食料を求める消費者のためにある。私たちは今一度、補助金の有効な使い道について考え直す必要があるのではないか。

写真はすべてイメージです 写真/shutterstock

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