教室から広がる“とくべつ”な表現力

後半のコーナー「とくべつのふつう」では、神戸大学附属特別支援学校で行われている美術の授業と、生徒たちの作品が紹介されています。
展示されているのは、りんごや八重桜など、誰にとっても身近なモチーフ。
それぞれが感じた色や形を自由に表現した絵や立体作品が並びます。筆づかいや色づかいはどれも異なり、同じ題材であっても一つとして同じ作品はありません。そこには「決められた正解」よりも、「自分の感じたままを描く」ことを大切にする教育の姿勢があります。
美術に苦手意識を持つ生徒も、少しずつ筆を取るうちに表現の楽しさに気づき、自分らしい作品を生み出していく。先生たちは、技術指導よりも“気づき”や“楽しさ”を重視し、子どもたちが安心して挑戦できる環境を整えています。

たとえば、りんごを描く授業では、「形をそっくりに描く」ことよりも、「自分の思うりんごの印象」を大切にしています。赤だけでなく、オレンジや青、紫など多彩な色で塗られたりんごは、それぞれの感性がそのまま表れたようです。こうした表現の自由さは、作品を見る人に“個性の豊かさ”を教えてくれます。
この展示は、特別支援学校という枠を超えて、すべての教育に共通するメッセージを投げかけています。
「子どもはみんな違っていい」という前提のもと、誰もが自分を表現できる場所をつくること。
その取り組みこそが、教育の本質を静かに語っています。
誰もが“とくべつ”な存在として

展示を見終えたあとに残るのは、「ふつう」と「とくべつ」の境界が少し曖昧になるような感覚です。
どんな人にも個性があり、その違いこそが社会を豊かにしている——作品たちはそのことを静かに語りかけてくれます。
一枚の絵、一つの作品に込められた思いは、それぞれの生き方そのもの。
障害の有無や立場に関係なく、誰もが自分らしさを表現できる世界を目指す教育の姿勢が、兵庫教育大学の展示から伝わってきます。
この展覧会が掲げるテーマ「ふつうのとくべつ/とくべつのふつう」は、教育現場だけでなく、私たちの日常にも通じる問いかけです。
作品を通して感じる“ちがい”は、優劣ではなく多様性の証。
その視点を持つことで、他者を理解する目線や、誰かを尊重する気持ちが自然に育まれていきます。
アートは言葉を超えて人の心をつなぐ力を持っています。
兵庫教育大学が届けるこの展示は、そんな“つながりの原点”を見つめ直す機会です。
作品に触れることで、自分の中の“ふつう”を問い直し、「誰もがとくべつである」という温かなメッセージを受け取ることができます。
静かな余韻とともに、心の中にも小さな光が灯るような展覧会です。
『ふつうのとくべつ/とくべつのふつう ― 個性のいきる作品と個性をいかす教育』展 概要

主催:兵庫教育大学附属図書館 教材文化資料館
会期:2025年10月1日(水)〜2026年2月15日(日)
※開館時間は兵庫教育大学附属図書館に準じます
会場:兵庫教育大学附属図書館内 教材文化資料館展示室
URL:https://www.hyogo-u.ac.jp/museum/
