いろんなことがうまくいかなくて、何に対してというわけではないが、とにかく「バーカ!」と言ってやりたい時がある。阿部史典はそうした。メインイベントに敗れ、観客と叫んで大会を締めた。
10月23日、自身が運営する『格闘探偵団』(新宿FACE)。一昨年からスタートして4回目の開催は、初の“ピンチ”に見舞われた。
これまで数々のベルトを獲得してきたタッグパートナーであり、大会を二人三脚で作ってきた盟友・野村卓矢が腎不全により無期限休業に。今大会もカードが決まっていたが出場できなくなった。
『格闘探偵団』は、1996年から2011年まで活動した団体・格闘探偵団バトラーツのリバイバル的イベント。バトラーツに憧れた阿部が野村とともに立ち上げた。ルールはKO・ギブアップによる決着で、UWFルールの流れを汲む“格闘スタイル”とも言える。
一方で場外戦もあればダウンカウントを中断させての攻撃も。プロレス的な自由度の高さも魅力だ。バトラーツの闘いを形容する“バチバチ”という言葉を「ジャンルとして確立させたい」と阿部。自分たちの試合の魅力は「金の取れるケンカ」だとも。
今回、メインイベントで阿部が対戦したのは佐藤光留。UWFに強いこだわりを持つ選手で、阿部も佐藤が主宰する『ハードヒット』で成長してきた。
『格闘探偵団』という自分の城で佐藤に勝つ。大きなテーマを持つ一戦は、予想通り、期待通りの激しく破天荒なものになった。もちろん基本は殴る蹴る。場外でも殴り合い、関節技の緻密な攻防もあり、身も心も削り合うようなプロフェッショナルのケンカ。気がつけば阿部はヨダレを垂らしながら拳を叩きつけている。激しくやり合いすぎて、思わず笑ってしまうような場面も。そこがまたいいわけだが。
削り合った末、一枚上手だったのが佐藤だ。ボディを効かせ、非情なローキック連打でテンカウント。
「近い将来、必ずお前をぶっ潰す」
敗れた阿部は言った。佐藤はこう返す。
「昔のお前は自分の負けを言葉で修飾したりはしなかった。“いつか必ず”なんて聞き飽きてんだ。お前は“今”勝てなかったんだ」
正論すぎて何も言えない。でも何か言うしかない。負けても、この場を締めることができるのは自分だけなのだ。
「野村が欠場になって、いよいよこういう時が来たのかと思って。やめようかとかいろいろ考えたんですけど。でも悔しいままじゃ終われない。自分で広げた風呂敷だから、中途半端には畳めない。
上の人からいろいろ言われたり、下からも言われたり、マジでめんどくさいのよ。お客さんもいろいろあると思う。そういう時はプロレス見て、この野郎って気持ちになって、ストレス解消してってよ」
阿部は自分のプロレスを「おつまみ」だと表現することもある。「俺の試合見て、あいつバカだなとかメチャクチャだなって言って美味しい酒を飲んでもらえたらいい」と。
観客と一緒に「バーカ!」と叫ぶ締めは、仲のいい青柳優馬(全日本プロレス)がやっていたもの。そこに阿部も共鳴した。叫ばなければやりきれない思いというやつだ。それを叩きつけるのが『格闘探偵団』という場なのだろう。
野村の不在は阿部にとってもファンにとっても大きい。だけど阿部は大ごとにしたくないと考えている。欠場にあたって、支援するためのエイド(グッズ販売など)も行なっていない。復帰前提で話をすること、待っているぞと励ますことが変なプレッシャーになってもいけないという細かい気遣いだ。
「それぞれが持ち場で頑張ればいい。野村も今(闘病という)自分の持ち場でやってるので。待ってるよとか頑張れとか、他の人が言うようなことは言わないです。俺はやる、それだけです。いろんなものと闘っていきますよ。体張ってやっていく。いや体張ってじゃねえな。それは仕事なんだから当たり前。仕事します、生きていくために」
バチバチというジャンルを世間に突き刺す。そのために当たり前に体を張る。欠場中の盟友に、あえて「待ってる」と言わない。阿部史典が敗れてなお『格闘探偵団』には独自の熱が充満していた。規模はまだ大きくないが、中毒性が高い興行だ。
取材・文●橋本宗洋
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