森の中に広がるのは、学生たちの手で生まれた“木のアート”。
子どもたちが登ったり、大人が腰かけて木漏れ日を感じたりできる温かな空間が、栃木県さくら市の「喜連川ファミリーキャンプ場」に誕生しました。そこにあるのは、単なるアート作品ではなく、自然と人をもう一度つなぐための「場所」です。
この取り組みを進めているのは、東京電機大学・共立女子大学・北海学園大学の建築学科の学生たち。地元・栃木県産の木材を使い、デザインから構造、安全性の検討、製作までを自分たちで手がけています。完成した作品「こもりん」は、自然の中で遊ぶことや休むことを通して、木のぬくもりや森の息づかいを感じられるように工夫されています。
プロジェクトは、地球温暖化の防止や林業の活性化を目指す長期計画の一環として進行中です。学生たちは現地に泊まり込み、地域の人々や子どもたちと交流しながら、木の魅力や自然との共生を学びました。森の中にアートを育てるこの活動は、若い世代が未来に向けて自然と共に生きる力を育む場になりつつあります。
木のぬくもりで森をデザインする――3大学が挑む「Wood Structure Artの森」

栃木県さくら市にある「喜連川ファミリーキャンプ場」で、学生たちによるユニークなアートづくりが進んでいます。
この「Wood Structure Artの森」プロジェクトは、東京電機大学・共立女子大学・北海学園大学の3つの大学が連携し、地域の森で採れた木を使って“森の中にアートを育てる”ことを目指す取り組みです。
プロジェクトが始まったのは2024年。地球温暖化の防止や林業の活性化をテーマに、5年間かけて森全体をアート空間として形づくる長期計画が進んでいます。
完成を目指すのは2028年。訪れる人が自然と共に過ごし、木の温もりや四季の変化を肌で感じられる「アートの森」をつくる構想です。
使われる木材はすべて栃木県産。長く使われずにいた地域の木を、学生たちが新しい形で生まれ変わらせています。伐って終わりではなく、木を“使うこと”によって森を守るという循環の考え方が、このプロジェクトには根づいています。
木を材料にすることで、炭素を固定しながら再生のサイクルをつくる――そんな学びを実際の制作を通して体験できるのも、この活動の魅力のひとつです。
また、3大学が地域を超えて協力する点も特徴的です。北の大地・北海道から関東、そして首都圏の学生が集まり、画面越しの打ち合わせだけでなく、現地で共に汗を流す日々を積み重ねてきました。異なる大学・学年のメンバーが混ざり合い、それぞれの専門や得意分野を活かしてチームをつくる——そんな多様な連携のかたちが、プロジェクトを支えています。
森の木々や風、光、そして人の手。
それぞれが重なり合って生まれる新しい表現が、ここでは“建築”でもあり、“アート”でもあります。学生たちが描くのは、自然の中に息づく小さな建築。木と人とが寄り添う未来の森を、彼らは少しずつ形にしているのです。
手のひらの森をつくる――笹谷研究室が挑んだ“木と人が交わる空間”

東京電機大学 未来科学部 建築学科 笹谷研究室は、木の構造を専門とするチームとしてこのプロジェクトに参加しています。学生たちが手がけた作品のひとつが、木の遊具「こもりん」。
丸みを帯びた木のフレームを組み合わせたその姿は、まるで森の一部が呼吸しているかのよう。子どもたちは登って遊び、大人は腰かけて木漏れ日を感じながらくつろぐことができます。
そこには、自然と人が無理なく共存できる空間を生み出したいという学生たちの想いが込められています。
笹谷研究室の学生たちは、設計から施工までを自分たちの手で進めました。
構造解析や安全性の検討、木材の特性に合わせた設計、コスト管理、そして現地での組み立てまで、すべてをチームで分担。ひとつの作品を形にするために、技術だけでなく粘り強さと協調性が求められる作業でした。
台風の影響で雨に見舞われた制作期間中も、学生たちは手を止めることなく作業を続け、泥に足を取られながらも笑顔を絶やさずに完成へとこぎつけました。
「こもりん」は、見た目の美しさだけでなく、五感で楽しめるアートです。
木肌に触れるとやわらかく、ほのかな香りが漂い、太陽の光を受けると表面の色が少しずつ変化していきます。時間とともに呼吸するように姿を変える木材は、まさに“生きている素材”。その特性を最大限に活かしたデザインには、建築を学ぶ学生ならではの視点が生かされています。
完成報告会の日、学生たちは出来上がった作品を前に静かに見上げていたといいます。
自分たちの手で組み上げた木の構造物が、森の中で風に揺れ、光を受けて輝く——その光景は、机の上の設計図では決して得られない、確かな実感を与えてくれたはずです。
それは単なる課題制作を超えた、「自然と建築が出会う瞬間」を体験する時間でもありました。
