
1990年代の台北を舞台とした、ノスタルジックでちょっぴり痛い青春映画『ひとつの机、ふたつの制服』が10月31日(金)に公開される。名門女子校の夜間部に通う少女・小愛(シャオアイ)が、同じ机をシェアする全日制の優等生と友達になり、学校を抜け出すために制服を交換するが……。
主演は台湾映画界で最も期待されている若手女優・陳妍霏(チェン・イェンフェイ)。主演映画『無聲 The Silent Forest』(2020年)で“台湾アカデミー賞”こと金馬奨の最優秀新人賞を受賞したのち、Netflixドラマ「WAVE MAKERS ~選挙の人々~」など話題作に出演。日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』(2024年)では清原果耶とも共演した。
2000年生まれのイェンフェイは、90年代の女子高生をいかに演じたのか? 役づくりや演技論、プロとしてのキャリアや夢を、今から注目しておきたい新鋭にたっぷりと聞いた。
■自分にそっくり、だけど認めたくなかった役どころ

―はじめに、『ひとつの机、ふたつの制服』への出演を決めた理由や経緯をお聞かせください。
この映画は、きっと私にとって大きなチャレンジになると思ったんです。最初に監督とお会いして、私自身の成長過程やシャオアイという役柄、彼女に共感したところについて話しているうちに、私とシャオアイには共通点がたくさんあることに気づきました。この役を演じることで私も自分に向き合いたい、自分をもっと深く理解したいと考えたんです。
―具体的に、ご自身とシャオアイにはどのような共通点があったのでしょう?
最初は、シャオアイと私が似ていることを認めたくありませんでした(笑)。脚本を読み、「私だったらこんな行動しない、そうは考えない」と思ったほど。だけど、それは本当の私がシャオアイにそっくりだという事実から目をそらしていたからだと思います。
役のイメージを膨らませながら気づいたのは、シャオアイが頑固で強がり、だけど家族や友達、周囲の人たちを心から大切にしていること。だからこそ、シャオアイは自分をどう表現していいのかわからないんです。ありのままの姿や自分の欠点を受け入れてもらえるのか、愛してもらえるのかが心配で、他人との距離を取っている。傷つかないように安全圏に逃げ込みながら、心の底では「愛されたい、認められたい」と願っている――ここが、私とシャオアイのいちばん似ているところ。彼女の中には私がいると感じた部分です。
■役柄と自分の「安全な距離」

―それはまさしく、シャオアイという人物の核心ではないかと思います。自分と性格が近いために、むしろ演技に困ることはありませんでしたか。
じつは私は、どんな役を演じるときも「自分を投影しすぎかな、私の考え方や行動を反映しすぎかも」と不安になるんです。だからいつも、マネージャーさんや監督、共演者の方々と話し合いながら、役柄との安全な距離を探すようにしています。演じる役とは親密な関係を築きたいけれど、チェン・イェンフェイと役を区別し、撮影現場とその外側をきちんと区切らないと、いい演技はできないから。思い描いた役柄のイメージと、私自身の性格をすりあわせることはものすごく大変です。
―実際にシャオアイを演じるうえで、最大のハードルはどんなところでしたか?
やっぱり、シャオアイと私はよく似ているので……。劇中でも言われるように、シャオアイは大きな緊張感と不安を抱えていて、「自分は周囲より劣っている」という考え方が染みついています。友達との間でもプレッシャーを感じるし、勝手に気まずくなるし、自由に振る舞えなくなる。私も同じで、日常生活で自信をなくすと「早く帰りたい、安心できる場所に行きたい」と思ってしまいます。
シャオアイを本当に理解して演じるためには、私も自分自身の心の壁を突破する方法を考え抜く必要がありました。私にとってはそれが最大のハードルで、時には逃げ出したいとさえ思ったことです。
■自分を受け入れることの大切さ

―実際にシャオアイ役を演じてみて、自分自身に変化はありましたか?
そうですね(と少し考える)……私は、シャオアイを演じていた1ヶ月間、どこか安心していました。あまり自分に自信がない私が、自分自身の欠点を受け入れ、しかも安心感を得られたんです。すばらしい経験でしたし、俳優にとって自己受容はとても大事なことだと思いました。
私に限らず、きっと多くの役者が「私は上手じゃない、もっとうまく演じなきゃ」と感じているはず。自分に高いハードルを課し、大きな期待をかけると、時には目標を達成できることもあります。けれど、逆に小さなミスをしたり、期待通りの結果を出せなかったりした時には「どうしてできなかったの?」と深く落ち込むんです。
もちろん俳優だけでなく、誰もが人生のあらゆる局面で――学校の試験や大学受験、18歳や20歳になって大人になろうとしているときに――大小さまざまな困難に遭遇すると思います。そんな時は、うまくいかなかったことで自分を責めるよりも、むしろ落ち着いて、ありのままの自分を受け入れ、「私はベストを尽くした」と言ってあげてほしいんです。そうすることで、ようやく人は全力で頑張れるし、やりたいことを達成できると思うので。
■台湾最注目の若手女優、「これまで」と「これから」


―『無聲 The Silent Forest』で金馬奨の最優秀新人賞を受賞されて以来、本作は初めての主演映画です。これまでの数年間、どのようにキャリアを考えながら作品を選んでこられたのでしょうか。
映画やドラマのオファーをいただいたときは、脚本を読み、マネージャーさんや会社と話し合いながら決めています。何よりも大切にしているのは、過去の自分をどう突破していくかということ。すべての役柄でパワフルなこと、激しいことをしたいのではなく、過去に演じた役とは違うことをしたい、新しいことに挑戦したいんです。
『無聲 The Silent Forest』に出られたこと、人生で一度きりの最優秀新人賞をいただいたことは本当に光栄ですし、今でも運がよかったと思います。自分が努力したことや、それを認めていただけたことだけでなく、偶然と運のおかげだったと思うんです。だからこそ、時には「もっと頑張らないと、応援してくれる家族やファンの皆さんにがっかりされてしまう」と思います。デビューしてすぐに金馬奨をいただいた私は、この世界でとても順調なスタートを切らせていただきました。その幸運にふさわしい人間になるため、もっと努力しなければいけない……そんな声が聞こえてくることがあるんです。
―Netflixドラマの主演をはじめ、今後もたくさんの出演作品が待機していますね。
私はとっても欲張りな性格なので(笑)、これから公開される作品を全部とても楽しみにしています。早く完成品を観たくてたまらないですね。この映画と同じように、どの作品にもそれまでの自分を突破するような面があると思うので。
―いずれ挑戦してみたいプロジェクトや役柄などはありますか?
私には、映画やドラマとは別に、いつか大好きなアイドルや歌手の方と共演してみたいという夢があります。ときどき「こんな企画で共演したら?」と想像して笑ってしまいます(笑)。
―ちなみに、誰と共演したいのか教えてもらえますか?
米津玄師さん。18歳のときに米津さんを知って以来、作品も大好きで、私にとって本当に大きな存在なんです。
―ぜひ共演を見てみたいです。夢が叶うことをお祈りしています。
ひとまず頭の中でリハーサルしておきます……なんだか恥ずかしいですね、これ(笑)。
取材・文/稲垣貴俊

