AIの隠れた個性を取り戻す鍵は「問い」にあった

今回の研究が示した最大のポイントは、「AIへの質問の仕方を少し工夫するだけで、答えの幅を大きく広げられる」ということです。
実験では、言語化サンプリング法方式によって調整前のAIモデルが持っていた創造性の約3分の2(66.8%)を取り戻しました。
一方で、従来の通常プロンプトではその4分の1程度しか引き出せませんでした。
つまり、調整の過程で埋もれていたAIの「隠れた個性」の多くを再び表に出すことに成功したのです。
そして何より、この成果を実現するために必要なのは、たった一文の指示だけという点です。
これまで似た成果を得るには、長時間の試行錯誤や複雑な設定が必要でしたが、言語化サンプリング法ではそれをシンプルに置き換えることができます。
良く言えば「プロンプトの工夫を支える新しい基礎技」、悪く言えば「既存のプロンプトエンジニアリング殺しの技法」と言えるでしょう。
では、この手法はどんな場面で役立つのでしょうか。
創作やブレインストーミングの場面では、一度の質問で多様なアイデアをAIから引き出せます。
例えば、小説のプロットを相談すれば、1パターンではなく5通りの異なる展開を提案してもらえるかもしれません。
研究応用の面でも、AIが仮説の生成や社会シミュレーションなどでより広い視点を提供できる可能性があります。
さらに、機械学習用のデータを作る際にも、言語化サンプリング法によってより多様なデータセットを得られ、学習の質を高める助けとなるでしょう。
もちろん、この手法にも注意点があります。
言語化サンプリング法はあくまで既存モデルの中にある知識を引き出す方法であり、モデルそのものを賢くしたり、新しい知識を加えたりするものではありません。
また、すべての質問に多様性が必要なわけではありません。
数学のように答えが一つしかない問題では、複数の候補を出す意味は薄くなります。
さらに、モデルによっては複雑な指示を「規則違反」と判断して拒否することもあるため、その場合はシステム設定で工夫が必要です。
それでも、この簡単な方法が示した効果は大きく、今後のAI活用の幅を広げる重要な成果だと言えるでしょう。
研究チームは言語化サンプリング法のコードを公開しており、誰でもこの方法を試すことができます。
今後は、より複雑で多様な分野で言語化サンプリング法を試し、AIが本来もつ多様性をどこまで引き出せるかを検証していく予定です。
元論文
Verbalized Sampling: How to Mitigate Mode Collapse and Unlock LLM Diversity
https://doi.org/10.48550/arXiv.2510.01171
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

