お化け屋敷が教えてくれる「成長」の秘密

本研究は、「なぜ人はわざわざ怖い体験をしたがるのか?」という謎に対し、新たな答えを提示しました。
ズバリ、心理的豊かさ――退屈しない豊かな人生を送りたいという願い――こそが、不快な体験を選ぶ主要な動機の一つだったのです。
心理的豊かさを追求する人にとって、恐怖や痛みは単なる嫌な感情ではなく、自分の物語に深みを与えるための大切なスパイスなのかもしれません。
あえて言うなら、痛みや恐怖は心を豊かにするための自己投資として機能しているとも言えるでしょう。
目先の快適さを手放してでも得たい「心理的豊かさ」というリターン(配当)が、人々をお化け屋敷や過酷な挑戦へと駆り立てているのでしょう。
この発見は実社会にも示唆を与えます。
エンタメ業界やマーケティングの現場では、「ただ楽しい」ではなく「ゾクゾクする成長体験」が得られることをアピールする戦略が考えられます。
実際、論文では製品やイベントの宣伝において未知の体験や視野が広がるような変化を強調することで、心理的豊かさ志向の消費者に響くと提言されています。
例えばホラーアトラクションや過酷なサバイバル旅行の宣伝では、「怖いけど成長できる!」といった切り口を打ち出せば、新しいもの好きの心をつかむかもしれません。
研究チームは今後、より現実に近い環境や多様な文化的背景でこの現象を追試し、理解を深めることが望まれると述べています。
人生を本当に豊かに彩ってくれる出来事は、必ずしも心地よいものばかりではないのかもしれません。
怖かったり苦しかったりする経験の中にこそ、私たちの心に長く残る宝物が潜んでいる可能性があるのです。
元論文
The Allure of Pain: How the Quest for Psychological Richness Drives Counterhedonic Consumption
https://doi.org/10.1002/mar.22223
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

