11月2日に行われる天皇賞・秋(GⅠ、東京・芝2000メートル)には、呪われた過去に彩られた「黒歴史」がある。思いもよらぬアクシデントにまつわるその記憶から「東京の芝2000メートルには魔物が棲んでいる」と評するオールドファンは少なくない。
最も衝撃的だったのは、1998年の秋天である。この時、圧倒的な1番人気に推されていたのは「史上最強にして最速の逃げ馬」と絶賛されていたサイレンススズカだ。鞍上の武豊が自信満々に「今回もオーバーペースで行く」と宣言していた通り、後に盾男と呼ばれることになる名手は、前半の1000メートル通過57秒4という大逃げに打って出た。
ところが、である。勝負どころの4コーナー手前に差しかかったところで「まさか!」の故障発生(左前脚粉砕骨折で予後不良)。コース内で急停止を図るサイレンススズカを避けるべく、後続馬が次々と大幅な回避行動を余儀なくされる中、3番手を追走していた6番人気(12頭立て)のオフサイドドラップが、漁夫の利を得る形で1着に飛び込んだ。
メジロマックイーンが圧倒的な単勝支持を集めた1991年の秋天も、しかり。武豊を背にケタ違いの強さで1位入線を果たしたのだが、今も鬼門とされる最初のコーナーで内に斜行し、他馬の進路を次々と妨害したことを審判部から咎められ、「まさか!」の最下位降着処分(1着⇒18着)が下された。確定した繰り上がり着順(1着プレクラスニー、2着カリブソング、3着カミノクレッセ)を見て、スタンドから悲鳴交じりのどよめきが沸き起こったシーンは、関係者席にいた筆者の脳裏に今も焼き付いている。
一方、アクシデントによるものではないが、アッと驚く大波乱決着となったのが1992年の秋天である。この年は11番人気のレッツゴーターキンが目の覚めるような直線大外一気を決め、2着に飛び込んだムービースター(5番人気)との馬連は1万7220円。
同様に2005年の秋天では14番人気のヘヴンリーロマンスが激走し、2着を死守したゼンノロブロイ(1番人気)との馬連が1万2340円の高配当となった。
翻って今年の出走メンバーを見渡すと、例えばイクイノックスやアーモンドアイ(両馬ともに秋天連覇)のような「10年に1頭」と言われる絶対的本命馬は見当たらない。出走各馬に一定の能力差などはあるものの、ハッキリ言って「どんぐりの背比べ」であり、高配当馬券が飛び出した前述のケースによく似ている。
東京の芝2000メートルには魔物が棲んでいる…。もとより悲劇的なアクシデントは願い下げだが、今年の秋天が大荒れ決着となる可能性は十分にあるのだ。
(日高次郎/競馬アナリスト)

