今、プロレス界で最もブーイングと称賛を浴びる女子プロレスラーのSareee(サリー)が、9大会目となる主宰大会「Sareee-ISM~Chapter Ⅸ」を11月10日に新宿FACEで開催する。2023年にWWEを退団し帰国。直後の5月16日に第一弾を開催して以来、毎回、チケットは即完売の沸騰興行だ。女子プロレス界のど真ん中に立ち続けるSareeeに話を聞いた。
「怒りのない闘いってつまんなくないですか?」
昨年は東京スポーツ新聞社が制定する「プロレス大賞」で初めて女子プロレス大賞を獲得した。今春からスターダムへ本格参戦し、6月21日には念願のIWGP女子王座を奪取。
ところがスターダムのリーグ戦へ参戦した直後には、観客から大ブーイングが突き刺さり、専門誌でも「Sareeeブーイング現象を考える」と題し、業界内外で波紋を呼んだ。
もはや勝敗を超越した領域でプロレス界の中心に立っているSareeeは、インタビュー中にスターダムのリングでは「私が出ていろんな賛否両論ありましたけど」とつぶやいた。その賛否の「否」とは何かを尋ねると、「ブーイングですかね」という。
最近は収まりつつある会場でのブーイングだが、スターダムファンからの「拒否」反応を、こう打ち明けた。
「正直、試合中は闘いに集中しているのでブーイングはわからないんです。あとから『あぁブーイングされていたな』って気づくんですけど、いろんな意見が私に対してあります。ファンもレスラーもムカつくことがあると思います。だけど、これはプロレスなんです。闘いなんです。
お互いが言い合うのは当たり前だと思うし、それでヒートアップしてリングでぶつかり合うのが当然で、私はその闘いを自然にやっているだけです。ファンも選手も慣れていないんだなって感じます。“当たり前のことをやっている”私はそういう意識です。私は、いつも本気で言っているだけです」
ブーイングが起きることは、それだけSareeeがファンを「本気」にさせたことの証明でもある。今、男女の枠を飛び越えてこれほどファンの感情を揺さぶるレスラーは、Sareeeがナンバーワンだろう。これほどまでにファンの心をわしづかむ理由を自身はどう捉えているのだろうか。
「ブーイングが起きたのは、私がファンを選手をそれだけムカつかせたからだと思います。だけど、“怒り”って闘いの一番の原点だと私は思います。逆に怒りのない闘いってつまんなくないですか? 私はそう思います。私は怒りから燃え上がってくるものが一番だと思っています。
私が信じる闘いをこれからもやっていきますし、私はすべてをリングでさらけだしています。リング上でウソ偽りない闘い、発言…そのすべてを見せていきます。そこが一番ファンに響くと思う。ブーイングに転がるときもあるし、応援になるときもある。そこはわからないけど、そのすべてが私自身なんです」
「私はもっともっと馬鹿になろうと思う」
プロレス界で論争を巻き起こした「ブーイング現象」について、自身の揺るぎないプロレス哲学、魂で応えた。このリアルな感情がSareeeの最大の魅力であり武器なのだ。一方でリング外ではSNSでの誹謗中傷も受けた。
「これは難しいですね。自分は大丈夫なんです。だけど、人間だから誹謗中傷を受けても大丈夫じゃない選手もいます。そういう選手がいることは理解してほしいし、気をつけてほしい。『みんな人間だよ』ってSNSに誹謗中傷を書き込む人には伝えたいですね。
私はプロレスラーとしてリングの上がすべてだと思っています。私への批判があるならその声にリング上の闘いで答えを出したいと思っています。だから、SNSに書き込んでいる人は私の試合を会場で見てから、何かを言ってほしいと思います」
Sareeeが尊敬するアントニオ猪木さんも現役時代、引退後もプロレスは「怒りが重要」と何度も説いてきた。猪木イズムをリアルに受け継いでいるSareeeに今、抱いている「怒り」を聞くと、少し考えた後にこう答えた。
「女子プロレスをもっと世間に認めさせたい。真剣に闘っている選手たちが今、こんなにたくさんいるんだぞって。それぞれの選手の生き様をみてもらいたい。命かけてやっている選手たちの闘いをみてほしい。女子だからじゃなくて男子と同じ目線で私たちの闘いを見てほしい。だから、私はもっともっと上に行かないといけないんです」
生前、アントニオ猪木さんは「馬鹿になれ!」と後輩のレスラーに説いてきた。その言葉の意味についてSareeeは「最初はわかんなかった」と正直に打ち明ける。
「猪木さんが『馬鹿になれ!』っておっしゃっていた意味が今、私の中でわかり始めています。最初は『どういうこと? 馬鹿になれ!』って…馬鹿になったらダメじゃんと思っていました。
それが最近は、『あ、こういうことか!』とわかりかけてきた気がします。馬鹿にならないとやってられないですし、この世界、馬鹿にならないと無理なんですよ。だから、私はもっともっと馬鹿になろうと思います」
現在、フリーとして「スターダム」と「マリーゴールド」のライバル団体を縦横無尽に闘う規格外の存在となった。しかし、10月13日には新日本プロレスの両国国技館大会で、朱里に敗れIWGP女子王座から陥落している。
「新日本プロレスのリングは、言うまでもなくIWGPベルトの原点、しかも尊敬するアントニオ猪木さんが創設し、猪木さんが創始したリングに上れることだけでも光栄なことでした。タイトルマッチは急遽、決まったんですが私の中では、デビューから14年目でやっとここまで辿り着いたか…っていう感覚でした」

