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高齢者はアキレス腱が「柔らか過ぎて」バランスが悪くなっていた

高齢者はアキレス腱が「柔らか過ぎて」バランスが悪くなっていた

高齢者はアキレス腱が「やわから過ぎて」バランスが悪くなっていた
高齢者はアキレス腱が「やわから過ぎて」バランスが悪くなっていた / Credit:Canva

日本の埼玉県立大学(SPU)および人間総合科学大学(UHAS)の共同研究によって、高齢者ではアキレス腱が若者よりも柔らかくなっており、そのことが身体のバランスを保つ能力の低下と関連していることが明らかになりました。

研究では高齢者のアキレス腱の硬さは若者より約37%低く、静かに立っているときでもふくらはぎの筋肉がより短い長さで働きやすく、その変化の大きさが体の揺れと関連していることが示されました。

一般に「歳を取ると体は硬くなる」と言われますが、転倒リスクを高める原因がむしろ「体の一部が柔らかくなりすぎている」ことにあるというのは意外な発見です。

研究チームは筋肉を鍛える「筋トレ」だけでなく、腱の適切な硬さを保つための「腱トレ」という新しいアプローチにも着目しています。

この新しい視点は、高齢者の転倒予防にどのように役立つのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年11月2日に『Journal of Applied Physiology』でオンライン先行公開されました。

目次

  • 筋力低下だけではない、転倒の意外な要因
  • 37%も柔らかい高齢者のアキレス腱
  • 『腱トレ』で転倒リスクを下げられるか?

筋力低下だけではない、転倒の意外な要因

Credit:Canva

「歳をとると体が硬くなる」――誰もが当たり前だと思っていることです。

実際、年配の方から「昔より体が思うように曲がらない」「関節がぎくしゃくする」といった嘆きを耳にすることも多くあります。

ところが今回、その“常識”を真っ向から揺さぶる研究結果が報告されました。

高齢者の場合、むしろ体の一部が“柔らかくなりすぎて”いることでバランスが悪くなっている可能性が浮かび上がったのです。

これは転倒の一因が体の硬直ではなく、「柔らかすぎるアキレス腱」がバランスの低下と関連している可能性を示しています。

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)と骨(踵骨)をつなぐ太い「綱(つな)」のような存在です。

ジャンプするときにはゴムのバネのように伸び縮みして力を蓄え、私たちを上に押し上げてくれます。

しかし、日常生活でじっと立っているときにも、アキレス腱は意外なほど働いています。

私たちの重心は、実は足首の少し前にあります。

つまり、放っておくと人間の体は“前に倒れようとする”構造になっているのです。

それを防ぐために、ふくらはぎの筋肉は常に足首をつま先方向に引っぱるように力を入れています。

このとき、筋肉が骨を引っ張る「ロープ」の役目を果たしているのがアキレス腱です。

静止しているように見えても、体の内部では筋肉と腱が小刻みに伸び縮みしながら、私たちを転倒から守っています。

では、歳をとるとこの“綱”に何が起きるのでしょうか。

これまでの研究では、高齢者の姿勢のふらつきは主に筋力の低下や感覚の鈍化によると考えられてきました。

しかし、筋肉がしっかり働くためには、それをつなぐ腱にも“ほどよい硬さ”が必要です。

腱が硬すぎたり、反対に柔らかすぎたりすると、力の伝わり方が効率的でなくなる可能性があります。

言い換えれば、バランスのよい「弾力」が保たれてこそ、体は効率的に支え合えるのです。

埼玉県立大学の研究チームは、「もし高齢者のアキレス腱が柔らかくなりすぎているとしたら、筋肉の力が骨にうまく伝わらず、バランスを崩しやすくなるのではないか?」という疑問を抱きました。

この問いを確かめるため、彼らは若者と高齢者のアキレス腱の“硬さ”を比較し、さらに日常的な立位動作の中で腱がどのように働いているかを詳しく調べました。

筋肉ではなく「腱」に焦点を当てたこの研究は、これまでの「筋力だけを鍛えれば転ばない」という考え方を揺さぶる試みでもあります。

はたして、“体の硬さ”ではなく“腱の柔らかさ”こそが、私たちの足元を不安定にしているのでしょうか?

37%も柔らかい高齢者のアキレス腱

筋肉が十分に強くてもアキレス腱が柔らかいとふんばりがききません
筋肉が十分に強くてもアキレス腱が柔らかいとふんばりがききません / Credit:「アキレス腱の伸びやすさとバランス能力の関係性を解明」~高齢者はアキレス腱が柔らか過ぎてバランスが悪くなる~

アキレス腱の軟らかさが高齢者の不安定さにつながるのか?

15名の若い成人男性(平均26.5歳)と、11名の健康な高齢男性(平均73.9歳)が研究に参加しました。

まず行ったのは、アキレス腱の「硬さ」の測定です。ここでいう「硬さ」とは、筋肉が力を入れて引っ張ったときに腱がどれくらい伸びにくいかを示す特性のことです。

測定には、体の内部を映す超音波エコーという装置を使いました。これは、超音波を体に当てて跳ね返った波を映像に変換し、筋肉や腱の動きを観察できる装置です。

研究チームは、参加者がふくらはぎに力を入れたときにアキレス腱がどのくらい伸びるかを詳しく調べました。

「どれだけ力を加えると、どれだけ伸びるのか?」という関係を数値化し、若者と高齢者で比較したのです。

次に研究チームは、「立っているときの体の揺れ方」を調べました。

じっと立っているように見えても、実際には体の内部では細かい揺れが起きています。

そのため研究者たちは、足の裏に圧力センサーを敷いた特殊な台の上に参加者を立たせ、重心がどのように微妙に動いているかを計測しました。

同時に、超音波エコーでふくらはぎの筋肉がどのように縮み、アキレス腱がどのように伸び縮みしているかを観察しました。

つまり、見えない「微小な揺れ」を映像化することで、体の中の筋肉と腱の働きを明らかにしたのです。

この方法によって、直立しているだけでも筋肉と腱が細かく連携している様子がはっきりと確認されました。

研究によって見えてきたのは、従来の常識とはまったく異なるアキレス腱とバランスの深い関係でした。

その結果、アキレス腱の硬さは若者の方が高く、高齢者の方がはるかに低い(柔らかい)ことが明らかになりました。

意外なことに、高齢者のアキレス腱は若者より約37%低い値(85.8→53.7 N/mm)を示しました。

さらに静かに立っている間の筋肉と腱の動きを比べると、どちらの年代でも体が少し前に傾きかけた瞬間に、ふくらはぎの筋肉が反応して収縮し、アキレス腱が伸びるという現象が確認されました。

しかし、高齢者ではその筋肉の縮みの大きさが若者よりも大きいことがわかりました。

言い換えれば、高齢者は同じような揺れを感じたときに、若者よりも筋肉を強く縮めて支えようとしており、その結果アキレス腱の伸びも大きくなっていたのです

また、この筋肉の大きな縮みが見られる人ほど、立っているときの体の揺れが大きい傾向がありました。

つまり、筋肉の縮みの大きさと体の揺れとの間に明確な相関関係があったのです。

高齢者グループに特有の「筋肉の大きな縮み」は、わずかなふらつきへの姿勢調整の乱れと結びついていることがわかりました。

筋肉と腱は切れ目なくつながっているため、腱が柔らかすぎる(伸びやすい)と筋肉は余計に縮まざるを得なくなります。

しかし、筋肉は過度に縮んだ状態では十分な力を出しにくいという性質があります。

そのため、高齢者のふくらはぎの筋肉は腱が柔らかすぎるせいで、力を出し切れずに「空回り」している状態かもしれません。

研究チームは、アキレス腱の硬さが低下すると筋力の伝わり方が変化し、そのことが高齢者特有の姿勢の不安定さと関連している可能性が高いと考えています。

配信元: ナゾロジー

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