名越 今道さんは、NHKのアナウンサーだったそうですね。
今道 はい。大学卒業後にNHKに入局しました。京都、福井放送局などで15年間勤務しました。NHKはアナウンサーでも番組の企画に関わるので、自分が取材してつかんだネタを元にした番組が放送されたこともあります。
名越 どうしてNHKを辞められたんですか。
今道 別にテレビ業界が嫌になって辞めたわけではありません。大きな組織の中で働くよりも、個人で何か事業を起こしたいという気持ちが以前からあったので、独立しました。現在はインターネット上の文章指導専門塾を経営しています。書籍は小論文の文章術などを中心に10冊ほど書いています。
名越 改めて今回、メディアに関する本を書かれた経緯を教えてください。
今道 実は、テレビを買い替えたことがきっかけです。最近のリモコンはユーチューブやネットフリックスのボタンが標準装備されています。そのボタンを押したらすぐに繫がるので、テレビをほとんど見なくなってしまいました。以前の5分の1ぐらいですね。
名越 正直、私も以前ほど見なくなっていますが、かつてテレビ局で働いていた今道さんでもテレビから遠ざかっているのですか。
今道 そうです。このまま行くと見る人がいなくなるのではないか、今後テレビはどうなるんだろう、という疑問がわきました。
名越 フジテレビは騒動の影響でCMが激減しましたけど、地上波全体でも広告費がインターネットに抜かれたそうですね。
今道 はい。19年にインターネットの広告費は地上波を上回りました。23年には、3兆3000億円を超えて地上波の2倍に達しています。地上波は20年弱で2割ほど減少しました。スポンサーはどこに広告を出したらいちばん効果が出るのかをしっかりとリサーチしていますからね。
名越 広告費では、まず新聞がネットに抜かれ、遂にテレビも抜かれたわけで、スポンサーはテレビ広告が効果がないというデータを持っているのでしょうか。
今道 インターネットでの広告はアクセス数がカウントできますので効果がはっきりと見えます。一方、テレビ広告は、効果がわかりにくい点もスポンサーから避けられた理由の1つではないでしょうか。地上波の広告費が、かつてのように復活できるとは到底思えません。
ゲスト:今道琢也(いまみち・たくや)1975年大分県生まれ。99年、京都大学文学部(国語学国文専修)卒、NHK入局。15年間アナウンサーとして勤務ののち14年に独立し、インターネット上の文章指導専門塾「ウェブ小論文塾」を開講する。「文章が苦手でも『受かる小論文』の書き方を教えてください。」「人生で大損しない文章術」など著書多数。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)など。

