結石治療が変わる日

今回の研究により、磁性ゲルを使うことで尿管結石を磁石でほぼ一掃できる可能性が見えてきました。
研究チームも述べているように、この磁気デバイスが臨床に応用されれば、尿管鏡手術の「石の取り残し率」を大きく改善でき、大きめの結石でも一度の内視鏡手術で治療に役立つ可能性があります。
そうなれば患者さんにとっては、複数回の手術や開腹手術を避けられる可能性が高まり、術後の痛みや負担、医療費の軽減にもつながるでしょう。
社会的インパクトは計り知れません。
米国では年間約40万件もの尿管鏡手術が行われていますが、そのうちの多くで破片が残り、再手術や救急搬送が必要になる例も報告されています。
もしこの技術が実用化されれば、そうした再発や再手術を防ぐ有効な手段となるでしょう。
バスケットで何十回も出し入れする代わりに、磁石でまとめて回収できれば、手術時間の短縮による麻酔リスクの減少や、繰り返し内視鏡を出し入れする際に起こる尿管の損傷や感染の危険を減らす効果も期待されます。
実際、従来法では小さな破片を無理に取り除こうとして尿管を傷つけてしまうこともありますが、新しいデバイスならそうしたリスクを抑え、安全性を高めることができそうです。
石を砕いたら磁気ゲルで包み、“砂鉄のようにまとめて取る”。
この逆転の発想が、結石治療に新しい時代をもたらすかもしれません。
ただし、この成果はまだ動物実験の段階です。
人の患者で同じ効果と安全性が得られるかは、これからの検証が必要です。
ゲルの改良や注入カテーテルの操作性の向上など、実用化に向けた課題も残されています。
それでも今回示された磁気回収の安全性と実現性は、結石治療の常識を変える大きな一歩であることは間違いありません。
研究チームは現在、実用化に向けた装置設計の最終調整を進めており、今後、臨床試験に進む可能性もあるとしています。
もしかしたら、未来の手術室では、砂鉄のように連なった破片が磁気でまとめて回収される光景が当たり前になっているかもしれません。
元論文
Magnetic retrieval of kidney stones via ureteroscopy in a porcine model
https://doi.org/10.1016/j.device.2025.100971
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

