2月の勝者か、11月の勝者か——。11月1日から数日間、都心部には紺色の洋服、通称「紺服」と呼ばれる親子があちらこちらで見られる。小学校のお受験(小受)だ。少子化による子どもの数に反比例するように、小受人口は衰える気配がない。
過熱する中学受験や共働き家庭に優しい学校環境など変化があるいっぽうで、その準備や学費の問題なども上がっている。小学校受験を経験した親たちに実情を聞いた。
小学校4、5年生だと完全に出遅れで…
小学校の受験サイト「お受験じょうほう」によると、2025年の受験者数でも慶應義塾幼稚舎や早稲田実業学校初等部、東京農業大学稲花小など人気校は昨年度より受験者数が増えている。人気校の倍率は10倍を超える狭き門だ。
お受験ジャーナリストによると、受験者数が増えている背景にはある事情があるという。
「かつて、小学校受験(小受)のメインは一部の“上流階級”でしたが、今は共働きのパワーカップルなどそれ以外の層の人たちも参入するようになりました」
2016年度、全国の小学校の総数20313校中、私立は230校だったが、2025年度は総数18607校と2000校以上減少しているのに対し、私立は250校と増えている。
都市部での私立小人気にあやかり、特徴を持たせた小学校が新設されているのだ。代表的な学校は、東農大稲花小だ。
「同校は東農大に隣接していて、体験型学習に力を入れています。教育方針に人気があり、中学、高校の偏差値が高い。それだけでも十分魅力的ですが、学内にアフタースクールがあったり、入試の日程がフレキシブルに選べたり、共働き家庭に優しいんです」
間口が広がっているのは確かだが、小受の人気に拍車をかけている要因の一つとして中学受験の過熱がある。
子どもが中受を控えるAさんはこう嘆息する。
「こんなことなら、小受をさせておいたらよかった。小受は手間もお金もかかるというけど、中受と比べるとまだマシ。小受は塾通いも1年か2年だけど、中受で大手人気塾に通おうと思うと4、5年生だと完全に出遅れで、上の教室にも入れない。
ウチの小学校は受験が8割、最近都内の人気塾には中国人などの外国人も数多く通っている、中受はもう戦争ですね」
都内の中受は熾烈で、大手人気塾では、中受向けのクラスが年長から受けられるそうだ。授業料は、学年が上がるごとに増額される仕組みで、高学年になると模試や夏期講習などを入れると年間で軽く100万円を超え、それが何年も続くのだという。
小学校受験をさせるメリット・デメリット
かつて、私立小に通うことは、学校独自の教育やブランド力、生涯に渡る竹馬の友を得ることとされてきた。しかし、ここ近年では、「中受回避」というキーワードが大きなメリットとして語られているのだ。
ある名門小に娘が通うBさんは、こう語る。
「公立に通わせている友人は、毎日のように塾に通っているけど、うちは家庭教師をつけるくらい。平日はテニスや水泳など習い事に行き、週末は友だちと遊ぶ。長期休みには、家族で海外旅行。思春期に入りはじめた子どもに、勉強をさせるのはきつい。本当に小受をしてよかった」
大学の付属ではない名門小学校に子どもを通わせるCさんも、私立小に入れたメリットとして、受験のことを考えずに教育のポートフォリオをじっくり描けると語る。
「大学受験は英語のウエイトが高くなってきている。小学校のうちにある程度英語の学習を終わらせて、中学・高校は別の科目の勉強に時間を割ける」
ただ、私立小はメリットばかりではない。
まずは費用面。私立小の学費は、6年間で約800万円。ここに、受験の費用も加わる。
「小受は中受のように偏差値一辺倒ではないので、勉強が単にできる子どもではなく、学校のカラーに合った子どもが求められ、行動観察という学校ごと採点基準が異なる試験があります。
それぞれの学校で対策が変わるのは当然で、塾でも学校ごとのコースが設けられている。伝統校になると、個人塾と大手の掛け持ちする人が多く、年長になれば月30万円は下らない」(Bさん)
また、塾の送り迎えは必須。大手塾では、基本的に親が授業を参観することが推奨されている。
Bさんは娘の受験のために、勤めていた広告代理店を辞めることを選んだ。
「個人塾と大手を掛け持ちで、年長になるとほぼ毎日塾通い。幼稚園が終わって、その送迎だけで午後は潰れる。夫はお受験に興味がなく塾代は払ってくれない。仕事を辞めたため、貯金を切り崩して塾代に当てました。総額で500万円くらいはかかりました」
Bさんの娘は無事、第一志望の名門校に入学。周りを見渡すと、母親でフルタイム勤務の人はごく少数で、ほとんどが専業主や家業を手伝うなど時間に融通が効く人だった。
「保護者会など学校行事が多く、子どもに何かあればすぐに呼び出される。いつ呼ばれてもいいように、いつも紺服を着ています。伝統校は、フルタイムの共働き家庭には難しいと思います。
また、遠方だと通学時間もかかるので当然、朝が早い、5時代に起きて電車通学なんてザラですよね、近所の公立なら7時半まで寝てられたのに…」(同)
結局、小受も中受も、そう簡単には勝者になれないということだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

