近年のF1はオーバーテイクするのが難しく、必然的に各ドライバーが1ストップで走り切ることを目指すことが多くなった。ピレリのタイヤが進歩し、デグラデーション(性能劣化)が少なくなったことも、これを後押ししている。
その結果F1のレースは戦略的な見どころが減り、その上オーバーテイクも少ない……退屈とさえ言われてしまうこともある。
この状況を打破するため、ピレリはタイヤのコンパウンドを「ひとつ飛ばし」にするなど、実験的な試みを行なっている。例えばソフトタイヤをC5、ミディアムタイヤをC4とした場合、通常ならばハードタイヤはC3となるが、より遅いC2とする……というような選択だ。これにより1ストップしにくい状況を生み出そうとしたわけだが、結局はソフトとミディアムの1ストップで走り切ってしまうマシンが多かった。
「チームは常に、自分たちが手にしているモノを最大限に活用する。つまり、ピットストップの数を減らそうとするんだ」
ピレリのモータースポーツマネージャーであるマリオ・イゾラはそう語った。
「ピットストップ中にミスをする可能性があり、コースに戻るとトラフィックに巻き込まれてさらに時間を失う可能性があるため、それは当然のことだ」
「チームは”ショー”のことなど気にしていない。だから常に、ピットストップの数をできるだけ少なく抑えようとしているんだ」
この「ショー」としての部分を改善するため、一部では2回のピットストップを義務付けるよう、レギュレーションを変えてはどうかという議論も行なわれている。
「我々がやっていることは、ショーとしてのF1をより良くするために、何か良いモノを作ろうということだ」
イゾラはそう語る。
「2ストップでは予測不可能性が高まるので、ショーにとってはより良いと私は信じている。しかし2回のピットストップがレギュレーションで義務付けられていない限り、誰にも強制することはできない」
■2回のピットストップを義務付けるだけでは、十分ではないかもしれない
2ストップ義務化の議論は、この数週間で勢いを増している。メキシコシティGPのドライバーズブリーフィングでもこれが話題に上がったようだ。FIAによれば、これは今週行われる競技諮問委員会(SAC)でも議題となり、F1委員会でも議論されることになると思われる。
しかし、具体的なアイデアにはまだ程遠いようだ。
「このことについては、何度か話し合った」
そうイゾラは言う。
「前回、チームからいくつかのシミュレーション結果がもたらされた。我々はFIA、F1、チームと話し合い、5つのイベントで3つのコンパウンドを選択した場合、予測される戦略は何かと尋ねた。我々にチームに対して、そのシミュレーションを頼んだのだ」
「我々が気づいたのは、5周走れるソフトタイヤ、20周に到達するミディアムタイヤ、そしてより長く走れるハードタイヤがあった場合、ほとんどのチームが同じ戦略を採るということだった。基本的に、誰もが同じ戦略だった。したがって制約を増やしても、全員が同じ方向に進んでしまうリスクがあるのだ」
ピットストップの回数が増えれば、アンダーカットを成功できる可能性が増える。しかし、必ずしも戦略の多様性が高まるわけではない。
「最高のレースとは、2ストップが優勢でも、勇敢な人であれば別の戦略も試すことができるというものだ」
そうイゾラは付け加えた。
「昨年のモンツァは、その好例だった。シャルル(ルクレール/フェラーリ)が1ストップで勝利したんだ。他のドライバーは2ストップだった。スパでもジョージ(ラッセル/メルセデス)が同じようなことを行なった。でも残念ながら、こういうことが毎回起きるわけではない」
■2ストップ義務化なら、タイヤ選択はどうなる?
F1が2ストップを義務化することにになった場合、タイヤコンパウンドの選択はどうなるのだろうか? これにはふたつの案が考えられる。
ひとつは、2ストップとなった場合、今ある異なるコンパウンドの使用義務を撤廃するということだ。
「異なるコンパウンドの使用義務を課さずに、2ストップだけを義務付けするという案も検討できる。そうなれば各チームは、好きなコンパウンドを使えるようになるだろう」
そうイゾラは説明する。
「タイヤさえあれば、ミディアム、ミディアム、ミディアムと繋ぐこともできる。後方からのスタートであれば、レース序盤のスティントを伸ばすために、ハードタイヤを履いてスタートするだろう。グリッド中盤であれば、ソフトタイヤでスタートして、ポジションを上げることを狙いたいかもしれない。様々な組み合わせがあるんだ」
イゾラはこれによって、戦略的な多様性が生まれる可能性があると示唆している。しかしこれを確実なモノとするためには、さらなる研究が必要だろうとイゾラは言う。
「個人的な提案……私はレギュレーションを定める立場ではないので、私の経験と15年の間で見てきたことを基にしてしか言えないが……将来に向けた共通の合意やアイデアがあれば、いくつかのレースを特定し、各チームにシミュレーションを依頼するということだ」
そうイゾラは言う。
「もし我々がその方法を選んだら、みなさんはどう反応するだろうか? そしてその後、彼らが別のアプローチで戻ってくるかどうかを見ることになる。そうなるのであれば、それが正しい道だろう」
■今あるモノを損なうリスクは冒さない
しかしF1が2026年シーズンに向けて準備を進める中で、考慮すべき点がふたつある。まずは2ストップ義務化の実験は、モナコでは成功を収めなかったということだ。しかしイゾラは、モナコは好例にはならないと語る。
「モナコを例に挙げるべきではないと思う。モナコはコースオフするリスクがあるからだ」
確かにモナコでは、オーバーテイクポイントがヌーベルシケインくらいしかなく、そこで強引にオーバーテイクを仕掛ければ、コースオフしてしまうリスクがあるだけだ。
一方で2ストップ義務化に賛成する立場の人は、2023年のカタールGPを例に挙げるかもしれない。このレースではタイヤに安全上の理由が発覚したため、1セットのタイヤの使用上限が定められ、必然的に2ストップが必須となった。レースは猛暑であったため、ドライバーたちが疲労困憊となったが、その一方で2ストップになったことでタイヤマネジメントの必要がなくなり、レース中は各車とも常に限界で走った。これはショーという観点からしても魅力的だろう。
ふたつ目の疑問は、レギュレーションが大きく変更されることで、2026年のマシンが今よりも接近戦ができるようになれば、そもそも2ストップの義務化など必要ないのではないかということだ。新レギュレーション下のF1マシンでは、乱流の影響は小さくなるはずだ。そうなれば、2ストップ義務化という介入の必要はなくなるかもしれない。
「そうなるかもしれないが、私には分からない」
そうイゾラは語った。
「一般的に、レギュレーション変更を検討するのであれば、予期せぬ結果を避けるために協力し合うべきだ」
「来年は全く違う状況になるだろう。何が起きるか分からないが、少しでも状況が分かれば、少なくとも対応できる可能性はある。しかし今は、良いチャンピオンシップが築き上げられている。だから、それを損なうようなリスクは冒すべきではない」
2ストップ義務化については、今後さらに議論される予定だ。関係者全員には、現段階では柔軟な姿勢で臨んでいただきたいものだ。

