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エヴァのエントリープラグが最強? イグノーベル賞にも輝いた格ゲーデバイス研究者・栗原一貴教授に聞くコントローラーの未来と可能性

エヴァのエントリープラグが最強? イグノーベル賞にも輝いた格ゲーデバイス研究者・栗原一貴教授に聞くコントローラーの未来と可能性

 2023年6月に発売され、初心者でもチャレンジしやすい間口の広さを武器にファンを増やしている対戦格闘ゲーム『ストリートファイター6』(スト6)。また、現在は『スト6』ばかりが目立ちがちですが、2025年中には『League of Legends』のキャラクターが登場する基本無料の格闘ゲーム『2XKO』のリリースや、お嬢様学校の生徒たちが格闘ゲームに挑むアニメ『対ありでした。~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~』の放送も控えており、格闘ゲームシーンは今後も大きな盛り上がりをみせてくれそうです。

 そんな格闘ゲーム界において、近年特に注目を集めているトピックが「最強の格ゲー用コントローラー(デバイス)は何か」という話題。従来、レバー付きのコントローラー「アーケードコントローラー(アケコン)」と「ゲームパッド(パッド)」が主流でしたが、2019年ごろ、日本初のプロ格闘ゲーマー・梅原大吾さんが使用したことをきっかけに、いわばレバーのないアケコン『レバーレスコントローラー』が世界中に波及。コントローラーの選択肢が増えたことに伴い、ボタンやレバーを自分用にカスタムする文化が広がり、現在では様々なメーカーが格ゲー用のパーツを販売中です。

 トッププレイヤーをはじめとする多くのプレイヤーたちは、強くなるために腕を磨くだけでなく、最強の格闘ゲームデバイスを探し求めて続けているのが現状。……が、今現在、最強の格闘ゲームデバイスは決まっていません。

 こうした流れの中、一部で話題を呼んでいるのが津田塾大学情報科学科教授・栗原一貴氏が開発した通称「栗原式ボタン」。特定の状況でスピーディーかつ正確に押すことができるというこのボタンは、プロゲーマー・ときど氏のYouTubeチャンネルに取り上げられ、今では複数のプロゲーマーから問い合わせが来るほど注目のデバイスとなっています。

 現在も進歩を続ける格闘ゲームデバイス。将来的にはどんなものが生まれるのか――2012年には人の発話を遠隔から阻害する装置「SpeechJammer(スピーチジャマー)」でイグノーベル賞を受賞したマッドサイエンティストであり、斬新な発想で新たな格闘ゲームデバイスを提案する研究者でもある津田塾大学・栗原一貴氏に格ゲーデバイスの可能性について話を聞いてみました。

“フィッツの法則”を利用したボタン

――栗原先生といえばドライブインパクトを返しやすくする「栗原式インパクトボタン」。格ゲー界でも徐々に認知度が上がっているボタンですが、これを開発するきっかけはなんだったのでしょうか?

 元々、コンピューターにおいて「どういう道具を使えば人間が効率よく入力できるか」「便利になるか」を考えるのが私の専門なんですよね。この分野で昔からある“フィッツの法則”っていう「遠くにある小さいボタンは押しにくく、近くにある大きいボタンは押しやすい」という基本的な考え方があるんです。例えば、以前のWindowsでは画面の左下にスタートボタンがありましたが、この配置だからこそ左下に一気にマウスを動かせば必ずボタンの上にカーソルが来るようになる。これは要するに、左下に無限大の大きさのボタンがあるのと一緒なわけです。

※栗原式インパクトボタン:指先でボタンを上から押すのではなく、手全体で横から触れることで反応させるボタン。位置を狙って押す必要がある従来のボタンよりラフな操作で反応させられるため、咄嗟にボタンを押す場合などに有効。

 フィッツの法則は基礎の話なので、コンピューターに入力するキーボードとかマウスがどれぐらい効率的なのかを測ったり、私の研究分野ではよく出てくるんですよ。それで、最近バーチャルリアリティーの競技かるたを学生とともにやっていて……。

――競技かるたですか?

 競技かるたって、ものすごい速さで手を動かして札を取るわけですけど、その運動にも当然フィッツの法則が成り立つんです。要するに「近くの大きい札は早く取れるが遠くの小さい札は早く取れない」ということですね。

 その中でコンピュータグラフィックスの世界だけではなく、実際の札でもどれぐらい早くなるかっていうのを検証したくて、導電性プラスチックと3Dプリンタを使って、速さの計測システムを作ったんです。そこで、「これは他のことに使えそうだな」と。ちょうどその時期に、私も『ストリートファイター6』を初めて、「ドライブインパクト返せねえ……」と思って(笑)。

※ドライブインパクト(インパクト):「ストリートファイター6」の目玉ともいえる特殊攻撃システム。相手に当てると大ダメージを与えるチャンスになる一方、防御側が素早くドライブインパクトのボタンを押すと“インパクト返し”が発生し、先にドライブインパクトを撃った側が大ダメージを受ける。反射神経が衰えがちな中年のプレイヤーに撃つと効果的……とされている。

――とても良くわかります……。

 そのときに「これ、フィッツの法則とかでなんとかすればいいんじゃないのかな」ってシンプルに思ったんですよね。フィッツの法則を使えば思いっきり手を動かせば自動的に入力できるわけで。それで作ったのが「栗原式インパクトボタン」。……なんか格闘ゲームの世界は自分の名前をつけて“〇〇式”とする文化があるので、ここは言っとけと思って(笑)。

――(笑)。後世に残る可能性があるので、言った方がいいですね。

※“〇〇式”:格闘ゲームで強力なコンボ・セットプレイなどが考案された際、考案者の名前に「式」をつけることが多い。「ときど式」「F式」「エミリオ式」などが有名。中には20年以上前から使われる用語も存在する。

道具が人の行動を変える

――こういった新しいデバイスを見ると、例えば障がいがあるプレイヤー向けのものに発展する可能性なんかもありそうですね。

 はい。当初は私が救われたいという思いだけで、同じ悩みを持つ中年プレイヤーに非常に支持していただいたんですけど、反響の中には「小指が不自由なので、その小指を曲げてボタンを押すのが難しいんですが、これなら簡単に押せて非常にありがたい」という話もありました。

――バリアフリー的な観点でも、新たなデバイスを開発することには意義があると。

 「どういう人がどういう運動上の悩みを抱えてるか」という部分に関しては、私からはアプローチできないので、むしろ、そういう団体とか声があったら連絡いただきたいです。EVOにも全盲のプレイヤーが出場して話題を呼んだりしていましたし、研究としても興味があります。道具が人の行動を変えるっていうのは素晴らしいことですから。

 例えばオリンピックとパラリンピックではオリンピックに注目が集まりがちですが、パラリンピックにもすごい技術が投入されているんですよ。義足なんてまさにテクノロジーのかたまりじゃないですか。技術の最先端は、そういう部分に現れる。

――身体的なハンディキャップを理由にゲームを諦めている人は、今も居るかもしれませんね。

 そういう人が、ハンディキャップを埋められるように開発したデバイスによって、結果的にプロゲーマーより強くなってしまう可能性だってありますよね。今だって、義足の人のほうが障がいを持たない人より速く走れるかもしれない、という転換点にきていますから。

配信元: ねとらぼ

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