全く新しいデバイスが生まれる可能性は
――現在、格闘ゲームのデバイスは、レバー、パッド、レバーレスが主流です。今後、そうした枠に入らない全く新しいデバイスが生まれる可能性もあるんでしょうか。
まさにその可能性を見せつけられたのが、ガフロさんのデバイスとスピード勝負した時ですね。彼の“歯での入力”の速さには驚きました。指先よりも脳に近い歯で入力することにより神経伝達距離を縮めていると思われるわけですけど、脳から神経の伝達速度はそもそもものすごいスピードなので、脳からの距離は無視できると思っていたんです。でも、実際に計算してみると、その差は無視できないほど大きかった。
※ガフロ:『ストリートファイター5』でプロゲーマーとして活躍したプレイヤーで、現在はコントローラー開発者としても有名。異端視されていたレバーレスコントローラーをプロレベルで使いこなし、レバーとゲームパッドが主流だった当時の格闘ゲームシーンに、レバーレスという第三の選択肢をもたらした先駆者でもある。
――そうなんですか? 具体的にはどのくらい変わるんでしょうか?
運動神経の伝達スピードが概ね秒速60メートルくらいとされているようなので……1メートル伝達に約0.016秒。指先までの距離を大まかに1メートルだと仮定すれば、ちょうど1フレームですね。だからこそ、やはりフットペダルによる入力などは遅いんですよね。
※フレーム(F):ゲームにおける時間を表す単位。格闘ゲームでは一般的に60分の1秒(約0.016秒)を1Fとしている。近年の格闘ゲームでは、ほぼ全ての技をフレーム単位で分析し、その上で戦略を練ることが多く、攻略の面でも非常に重要な指標。
――トッププレイヤーは1Fをどうやって縮めるかという世界で戦っているので、その数字は非常に影響が大きいですね。……ということは、理想を言えば、全てのボタンは指先ではなく脳に近い位置にあった方がいいんじゃ……?
いや、伝達スピードだけを考えればそうなんですが、指先の器用さというのは他の器官にはありえないレベルで高いので、一つの指に複数のボタンを操作させるような動きは難しいでしょうね。ただ、特殊な状況で咄嗟に押さなければならないような、シンプルな入力には有効だと思います。
――なるほど確かに。では「脳に近い部分で操作するボタン」のアイデアなどはありますか?
私のボタンが“歯の入力”にスピードで負けたので、息で反応するデバイスを作ってみたんです。
――おお、なんか斬新ですね!
でも、作ってから気づいたんですが、「あれ……息を吹く時の筋肉って……腹筋か?」ってなって……。
――(笑)口だから脳に近いところで操作できるような気がしたけど、実はお腹の方だった、と。
あとは、例えば熱いものを触った時に反射的に手を離すように、頭で考えるよりも早く反応するデバイスも作ってみたんです。でも、熱いものを触った時に手を離すのは、脳に「熱いものを触った」という情報が届く前に出てくる反射だから速いんですよね。結局、ゲーム状況を理解してボタンを押す場合、脳を使わざるを得ないので早くならないんです。
理想のデバイスは「エヴァンゲリオン」のエントリープラグかもしれない
――将来的にゲームデバイスの未来はどういう方向に進むのでしょうか?
脳で考えたことに反応させるような方法の研究も進んでるので、それで操作できる可能性もありますね。でも、現状は脳の活動から意図を識別するまでの時間がボタンを指で押すより全然遅いので、問題はそこがどれだけ早くできるか。手より早く操作するまでには相当研究が必要です。
――……まるでSFですけど、脳波による機械のコントロールみたいなことが可能になるかもしれないわけですね。
これはゲームに限らず、コンピューターと人間のやりとり――ヒューマン・コンピュータ・インタラクションという研究分野なんですが、その分野ではそういった方法でコンピューターへ入力することは検討されています。ただ、高速化はできてない。
あと、プレイヤーが「プレイする時にどれだけ特殊な状況に慣れられるか」っていうのは興味ありますね。例えば、水泳選手が着脱にものすごい時間がかかるようなスイムスーツを着たりしてたじゃないですか。そういうのを許容してもらってパフォーマンスを良くすることもできるかもしれません。例えば……指をスライムのようなものに突っ込んで、少しでも動いたら反応するようなボタンはできるかもしれない。もちろん、利便性は一旦無視した話ですけど。
――なるほど。日常的な使用が前提になったデバイスばかりですが、そういう部分を犠牲にすれば、より強力なデバイスが生まれる可能性はあると。
そう。始める前に絶対15分くらい時間かかる、みたいな(笑)。『エヴァンゲリオン』って、パイロットが搭乗するとエントリープラグがLCLで満たされるじゃないですか。とても気軽に乗れるものじゃないはずですけど、その結果考えたことが機体に反映される。人間の動きや神経をダイレクトかつ高速で反映させようと思うと、ああいう世界になっていくのかもしれません。もちろん、プロゲーマーのような「そういう制約も厭わない」という人に限った話として。
……まあ、プロゲーマーも日々の鍛錬が非常に重要なはずなので、準備に時間がかかるデバイスっていうのは実際は適さないとは思いますけどね。
――でも…プロがそういう“大掛かりなコックピット”のような中で操作していたら、ちょっとかっこいいかもしれませんね。
確かに(笑)。

