2025年シーズンが終わろうとする中、MotoGP界隈の注目は次の2026年シーズンさらには2027年シーズンに向けられてきている。
特にレギュレーションが一新される2027年に向けては、各チームのラインアップがどうなるかという点が注目されている。年々ライダー移籍市場が動き出す時期は早くなりつつあり、2027年に向けても、年明け早々には動き始め、ヨーロッパラウンドに入る5月頃には大方の陣容が定まっているだろうという予想もある。
現状に満足しているライダーもいれば、あるいは単純に将来の安定のために残留を目指すライダーもいるだろう。一方で、躍進すべく上位チームへのステップアップを目指すライダーもいる。
その中にあって、キャリア最大の岐路に立たされているのが、現在ヤマハに所属するファビオ・クアルタラロだ。28歳となる2027年、ライダーとして最も脂が乗る時期に、どのマシンに跨っているのか? 彼は今、その“運命の選択”を迫られている。
この18ヵ月間、クアルタラロが発してきたヤマハ側への厳しいメッセージのすべては「環境の変化」を示唆している。しかし彼のフラストレーションも理解できる。彼の最新の勝利は2022年ドイツGPまで遡らなくてはならないからだ。2021年にヤマハで王者になったものの、現状では移籍という選択肢を選びたくなっても不思議ではない。
クアルタラロほどのライダーなら、好きなチームに入れるだろう……と大抵の人は思うかもしれない。しかし現実的に見れば、彼が求める“勝てるマシン”が保証される選択肢はかなり狭まっている。
「すべてのテストでトップ3に入れるようにしたい」とクアルタラロは語る。
だがそれは、今ヤマハが開発中のプロトタイプ(アウグスト・フェルナンデスやアンドレア・ドヴィツィオーゾの協力で進められているV4エンジンプロジェクト)では、まだ到達できないだろう水準だ。
クアルタラロは本心ではヤマハに残りたいと考えていても、それは勝てるバイクがなければだめだ。しかし彼は、自分を中心に築かれたチームに深い愛着を持っているし、チームもまた彼を理解し、支えようとしている。たとえしばしば周囲の忍耐を試すような言動を見せていてもだ。
「ヤマハがここ数年できなかったことを、数ヵ月で達成してくれることを願っている。だって、もう僕には時間が残されていないからね」
クアルタラロはオーストラリアGPの際にそう語った。
「移籍市場の動きは年々早まっている。ぼんやりしていたら取り残される」
そう警告するように話し、何年も前からそうしてきたようにチームの反応を待ち続けている。
クアルタラロの“駆け引き”は、セッション後のメディアの前での発言だけにとどまらない。より繊細な兆候……たとえばチームウェアを着ずにパドックを歩くなど、些細だが挑発的とも取れる仕草が増えている。なにより年間約1000万ユーロ(約17億)の報酬を支払う企業から見れば、これは”契約違反”とも言える行為だ。
ヤマハ内部の関係者によれば、かつての「明るく親しみやすい少年」が、今では「やや陰りを帯び、距離を置く存在」になっているという。その変化はチーム内でも明確に認識されている。1年前ならば問題は無かったかもしれないが、パオロ・パヴェジオがリン・ジャービスの後任としてマネージングディレクターに就任して以降、状況は大きく変わった。
パヴェジオは元々ヤマハのマーケティング部門出身で、MotoGPよりもWorldSBKプロジェクトとの関わりが深かった人物だ。彼のアプローチは、クアルタラロをロッシの後継者として抜擢したジャービスのような判断ではなく、より実務的で現実的なものだ。
もちろんパヴェジオもクアルタラロと契約を延長したいと考えている。具体的には、2028年末までの契約を結ぶことを目指しているようだ。しかしmotorsport.comの調べでは、このパヴェジオは、クアルタラロがいかに重要だったととしても、中長期的なプロジェクトの方を優先しているようだ。
「パオロとはあまり話をしない。僕にとって大事なのは、ガレージにいる人たちだ」と、クアルタラロはオーストラリアで語った。
ヤマハはMotoGPへの投資を拡大しているが、クアルタラロの辛辣な発言や態度は、彼を支えるスタッフの士気を損なっていると感じている。約2週間後、クアルタラロは自身のキャリアの“次章”を占う重要なテストに臨む。しかし、その鍵となるV4エンジン搭載型M1は、まだ決して希望的な兆しを見せてはいない。
それでも、開発側には焦りの色はない。
「正直、上層部は不安そうにしていないよ。誰も心配はしていない。このバイクは成長していくだろう。既に2月のシェイクダウンに向けて改良の計画が進んでいる」
テストを担当しているフェルナンデスは、そう語る。
ヤマハは、冷静に長期計画を進めている。今最も“神経を尖らせている”のは、他ならぬファビオ・クアルタラロ自身なのかもしれない。

