
雨清水タエ役を演じる北川景子さん(2018年12月、時事)
【画像】え…っ! 北川景子級? コチラが「松江藩随一の美女」と言われた「タエのモデル」人物の娘、実際の「小泉セツ」さんです
明治維新前は有力な親戚もいたが
2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)さんと、彼を支え、さまざまな怪談を語った妻の小泉セツさんがモデルの物語です。
第6週では主人公「松野トキ(演:高石あかり)」や養父の「司之介(演:岡部たかし)」が、松江を去っていたはずの親戚「雨清水タエ(※トキの実の母 演:北川景子)」と「三之丞(演:板垣李光人)」の窮状を目撃します。タエは道端で物乞いをしており、三之丞は司之介の職場の牛乳屋をはじめ、いろんな会社を回っては「雨清水家の人間としてふさわしい格があるから社長にしてください」と頼み、相手の怒りを買って追い返されていました。
ずっと上級士族の娘として誇り高く生きてきたタエや、三男という立場で父「傳(演:堤真一)」から何も教わって来なかった三之丞には、普通に働いて生計を立てることは無理だったようです。劇中では、ふたりは安来の親戚のところに身を寄せていたはずだと説明されていましたが、そこでも何かトラブルがあったのかもしれません。
予告されている30話のあらすじを見ると、「三之丞と再会したトキは、松江を離れたはずのタエと三之丞が再び戻ってきた経緯を聞くことになる」と説明されています。
SNSでは「三之丞とおタエ様、余りにプライド高くて働かないので、親戚宅追い出されたんだろうな」「松江を離れて、ご親戚を頼ったけど、たぶんおタエ様も三之丞くんも何もできずに、親戚ももう痺れを切らしたんだろうか、それで「松江なら雨清水の名で『社長』をやれるかも!」と戻ってきたんだと思うと、悲しくておかしくてつらい」「気位高くて嫌われたんだな、親戚にも。ブライドが邪魔してるよね」といった声が出ていました。
タエや三之丞に原因があるのは間違いないでしょうが、いったい親戚宅で何があったのでしょうか。史実を踏まえると、親戚たちも余裕がない状態だったのかもしれません。
トキのモデルである小泉セツさんの実母・小泉チエさんは、松江藩の家老を務めた塩見家の娘で、絶世の美女かつ気位の高い人物だったそうです。夫の小泉湊さんの機織りの会社がつぶれるまで生活に困ったことがなかった彼女は、1887年に湊さんが病死した後、小泉家の家財を売り払って暮らし、そのお金も尽きたあとは、物乞いをして生き延びていたという記録があります。
1886年には長男の氏太郎さんが家族を捨てて出奔、次男の武松さんが死去しており、さらに三之丞のモデルの三男・藤三郎さんは、鳥を捕まえて飼う趣味に没頭してろくに働きもしなかったそうで、チエさんは子供たちに頼ることはできませんでした。
また、チエさんの実家の塩見家や、小泉家の親戚で松江藩の中老も輩出した乙部家といった有力な親戚筋も、明治維新後には没落していたそうです。乙部家は1883年に第七十九国立銀行が経営破綻となった際、巻き添えを食らって財産を失い、武家の誇りである刀剣類まで売り払ってしまったといいます。
1886年5月18日の山陰新聞が掲載した「士族生活概表」によると、当時の松江近郊で暮らす士族のうち、資産が1000円以上ある、もしくは月10円以上の収入を得ている家は全体の8%しかありませんでした。小泉家、塩見家の親戚縁者は多数いたと思われますが、困窮するチエさんを救うことは難しかったようです。
頼るあてもなかったチエさんが松江を離れたという記録はないので、『ばけばけ』30話で描かれる安来の親戚の家でのエピソードは、オリジナルのものと思われます。タエたちに何があったのか、要注目です。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(著:長谷川洋二/潮出版社)
