
雨清水タエ役を演じる北川景子さん(2018年12月、時事)
【画像】え…っ! 「見てらんねえよ」「美しいままなのがつらい」 こちらが『ばけばけ』タエ様の“物乞い姿”です
モデルの小泉チエさんは高い教養を身に着けていたが
2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)さんと、彼を支え、さまざまな怪談を語った妻の小泉セツさんがモデルの物語です。
第6週28話では主人公「松野トキ(演:高石あかり)」が、松江を去ったはずの実の母「雨清水タエ(演:北川景子)」が、街中で物乞いをしているのを目撃してしまいました。さらに29話では、タエの息子「雨清水三之丞(演:板垣李光人)」が、いろんな職場を回って「雨清水家の人間としてふさわしい格があるから社長にしてください」と頼み、追い返されている姿も描かれています。
「雨清水傳(演:堤真一)」が亡くなり機織りの会社がつぶれてから、ふたりは落ちるところまで落ちてしまいました。上級の武家の娘として生きてきたタエや、何も教わらずに育った三之丞には、普通に働いて生活するのは難しいようです。
タエ役の北川景子さんは29話放送後、X(旧:Twitter)で
「手元に残った大切な三之丞を1人で立てる人間にするためにも、タエなりに生きる選択をしました。独り身であれば自決していたでしょう。誇りは捨てませんが、柔軟に、泥臭く。息子のために。たとえ間違ったやり方でも。時代に取り残されても。」
とつぶやいています。
また、『ばけばけ』公式サイトのインタビューでは、北川さんは働こうとはしないタエの心情に関して
「時代が変わり、夫の傳も亡くなって働かなくてはいけなくなりますが、突然言われても生活能力がないし、やり方が分からないし、そもそもやりたくもなかったのではないでしょうか。誇りを捨てて泥臭くお金を稼ぐなんて、タエにとっては死ねと言われたのと一緒。」
と語っていました。
上級士族の娘としてのプライドが捨てられないタエは、働くよりも物乞いになるという選択を選んだようです。三之丞の仕事の選択肢が「社長」しかないのも、タエの影響かもしれません。
トキのモデル・小泉セツさんの実母である小泉チエさんは、1837年に松江藩家老の塩見増右衛門の娘として生まれました。増右衛門さんは、松江藩主の松平出羽守斉貴公による、藩の財政を圧迫するほどの法外な贅沢三昧を自身の死をもって諫め、「名家老」と呼ばれた人物です。
そんな家老の娘として育ったチエさんは松江藩随一の器量良しといわれるほどの美人で、武家の娘のたしなみとして華道や三味線の高い腕前も身に着けていました。また、江戸時代の小説類をたいてい読んでいるほどの読書家で、教養面でも優れていたそうです。
そのチエさんは、1887年に夫の小泉湊さんが亡くなり、機織りの会社がつぶれた後は、物乞いをして暮らしていたという記録が残っています。働く気があれば、華道の先生などの仕事もあったはずですが、タエのように物乞いの道を選んだようです。
セツさんとラフカディオ・ハーンさん、そのほか周辺人物に関して事細かく記されている評伝『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮出版社)を書いた歴史家の長谷川洋二さんは、同書のなかで当時の「姫様育ちの武家の奥方」の特徴について、
「彼女たちは、一方において、一度大事が生じた場合は、血に怖じず、死を恐れず、敢然と事に処することが出来るように、子供の頃から厳しく教育されたが、他方、日常生活の面では、姫の身にふさわしく、自分の住まいの所在ですら説明できないくらいがよいとして、育てられた女性たちであった」
「彼女たちは、生と死が入り乱れる事態に処して示す、冷静さ・決断力・行動力といった点では、人を感嘆させ、感服させることが出来た反面、普通世間との交渉ですら、全く覚つかなかったのである」
と、記していました。
そして、長谷川さんは家老の娘として育って上士の小泉家の奥方となり、新しい社会になじむのが難しい年齢で夫を失ったチエさんに関して、「彼女は、いわば極端な零落に至るすべての条件を満たしていたと言えるであろう」と述べています。
働くことはできずとも、残された三之丞のために必死で生きているタエの今後の注目です。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
