「お金を稼ぐ」だけじゃない。ある依頼者が教えてくれた「対価を受け取る」ことの意味
離婚を機にレンタル彼女の活動を本格化させたよもぎちゃん。最初は派遣の仕事と掛け持ちしていましたが、「そろそろいけるかな」と思い切って独立したところ、コロナ禍が直撃します。

「レンタル彼女なんて不要不急の外出の極みですから。『あ、脱サラのタイミング間違えた』って本気で思いました」
当時は月に2〜3件しか依頼がなく、アルバイトをしながら生計を立てていたと言います。
「もう『レンタル彼女としてやっていけるかな』なんてレベルじゃなく、不安しかなかったです。夜も眠れなかったし、『人生終わった』と思っていました。でも脱サラしちゃったから、やるしかなかったんですよね。本当に踏ん張るしかなかった」
そうして諦めず活動を続けてきたよもぎちゃんは、徐々に依頼数を取り戻していきました。特に、依頼者とのエピソードをSNSでイラスト付きで丁寧に紹介するようになってからは、「話を聞いてほしい」という依頼が増えたそうです。
そんなある日、40代の男性依頼者が仕事で受け取ったという日雇い給料5万円が入った封筒から、3万円をレンタル料として彼女に渡します。この時の経験が、はたらくことに対するよもぎちゃんの価値観を大きく変えました。

「今まで当たり前のようにレンタル料を受け取っていたけど、『この人ははたらいて手に入れた大切なお金を、私のために払ってくれているんだ』と衝撃を受けました。“お金の重み”を目の当たりにしたというか。『仕事でお金をいただくのことが当たり前だと思っちゃいけないな』とあらためて感じました」
それからは、依頼者との時間をより一層大切にするようになったと言います。彼女にとってレンタル彼女という仕事は、単なる収入源を超えた意味を持つようになりました。
「いろいろな人のいろいろな話を聞けるのは、シンプルに楽しいですね。みなさん、他の人には言えないような話を持ってきてくれるので、すごく濃い話がたくさん聞けるんです」
“彼女”として3,000もの人生に寄り添い、その一期一会の関係から生まれる特別な信頼関係が、彼女自身の人生をも豊かにしています。
自分らしくはたらきたい。でも「周りの目が気になる」人へ

よもぎちゃんは、10年間のレンタル彼女としての経験をこう振り返ります。
「ずっと『これを手放したら、私には何もない』と思っていたから、しがみつくしかなかったんですよね。この道を選ぶか、落ちぶれるかの2択だって、今思うと極端な考え方をしていました。でもそれくらい、この仕事は私のアイデンティティみたいなものだったので、これまで周囲からどんな意見を言われても気にしなかったですし、気にしたら負けだと思っていました」
一見すると孤独に決断を下してきたようにも見えるかもしれません。しかし、よもぎちゃんは自分軸で選択をしてきたから、かえって自分らしいはたらき方を見つけられたと語ります。
「総務や秘書をしていた時も悪い環境じゃなかったんですけど、私、変化がないとすぐ飽きちゃうタイプなんですよね。そこから自分が熱中できる仕事に注力しようと思い切って独立して。コロナ禍という厳しい状況ではあったものの、だからこそ『自分にとって“はたらく”とは、“人と関わること”』だと気付けました。レンタル彼女の仕事をする選択をしていなかったら、こんなにも多くの人と出会える人生はなかったと思います」
最後に、はたらくことにモヤモヤを抱える若者へのアドバイスを伺いました。

「やっぱり大事なのは、周りの意見を無視することですね。大体の人は“守り”の意見をくれるので。やりたいことがあるなら、まずは自分でやってから周りに言うのがいいと思います。やらなかった後悔って、やった後悔より絶対に大きいから」
まだやりたいことが見つからない人にも、よもぎちゃんはこんなメッセージを送ります。
「たくさんの人に会って、いろいろな話をして、さまざまな価値観を取り入れるといいんじゃないかな。『今日はハズレだったな』と思う日もあるけど、数を打たないと当たらないから。ぜひもっとフットワーク軽くなってみてください」
レンタル彼女という一般的には珍しい仕事を通じて、よもぎちゃんは自分だけの「はたらく幸せ」を見つけました。よもぎちゃんは今日も笑顔で誰かの“彼女”になりながら、本当の自分で生きています。
(「スタジオパーソル」編集部/文:間宮まさかず 編集:おのまり)

