20代から毎日酒を飲み、「酔っ払いゲーム実況者」として15年以上活躍しているたろちん氏は、ある日突然「重症急性膵炎」になり、死にかけた。そしてその壮絶すぎる闘病生活は彼の人生を大きく変えてしまった…。
『毎日酒を飲みながらゲーム実況してたら膵臓が爆発して何度も死にかけた話』より、一部抜粋、再構成してお届けする。
そして危篤へ……
入院から2週間ほどが経つと、いろいろと容態がわかってくる。僕は半分ラリりながら寝ていただけだけど、妻は当時以下のような説明を受けたという。
◎お腹の痛みはないが骨盤あたりまで広範囲に炎症が残っている。とはいえ以前と比べると炎症部分は膜に包まれてきて収束へ向かっている状態。
◎膵臓はほとんど壊死してしまっている。炎症が落ち着いたときにどれくらい機能が残っているか……というところ。
◎細菌等による感染の兆候はまだ確認できていない。感染が発覚次第、今後壊死組織や腹水を外に出す措置が必要になる。全身に菌が回ると大変危険なので注意深く観察している。
◎アルコール離脱症状はもう終わった。透析も鎮静も不要、人工呼吸器も負担が少ないタイプになったし、先週とはまるで状況が違う。
要するに「油断はできないけれど最大の山場は越えたね」という感じ。相変わらずしんどさはあったものの、最悪の状態は脱して、ようやく状態が上向きになりつつあるといえるようだった。
実際、ただ寝ているだけではなくリハビリも始まっていた。先生たちに支えられながらではあったけどベッドを下りて自分の足で立ち上がることもできた。その日の僕は「このままがんばれば自分の足でうんちをしに行けるかも!」と喜んでいた。
2日に1度のZoom面会も大きな支えになっており、妻や看護師さんたちもいろいろと励ましてくれた。「もう少しよくなったら水を飲んだり声を出したりすることもできるかも」と言ってくれて、僕も笑ったりピースをしたりして応えていた。
入院から約半月。みんなホッとしていたし僕もホッとした。その直後「緊急手術」が始まってしまうのだから人生とはわからないものである。
なぜ順調そうに思えていた中で、急転直下の緊急手術に至ったのか?
正直、僕はよくわかっていない。だってほぼ気絶してたから。毎日朦朧とする意識の中で病室の天井を見つめながら、ただ「生きる」をやっていただけだから細かい事情は知らないのだ。よくわかんないけど気が付いたらお腹を切られていた。
そんな病人の記憶は役に立たないので、ここは妻が記録していた闘病メモを紐解いてみよう。
感染性壊死性膵炎かつ、早期の外科的治療への発展など総合的に見て重症の中でもかなり悪い=一番生存率が低い病状に該当します。
(2022年11月12日 妻から友人への報告メモより)
田舎の玄関の鍵じゃないんだから
手術にあたっては手術の目的や内容が書かれた同意書が作られる。僕は気絶していたので家族である妻がかわりにサインなどをしたのだが、それには医者語でもっと怖いことが書いてある。こちらも参考に一部を引用してみよう。
◎急性重症膵炎後、後腹膜感染、敗血症性ショック状態、腹部コンパートメント症候群で、状態が悪いです。内科的治療を行っていますが、改善が乏しく、外科的治療が必要と判断します。
◎開腹して腹部減圧し、可能な限り後腹膜のドレナージを行います。本日の手術では減圧のために閉腹せずに、開放したままであり、状態改善時に閉腹手術が必要です。
何を言っているのかわからないと思いますが、要するに「ちょっとマズイから腹切るわ。で、しばらく開けっ放しにしとくわ」ということを言っています。怖すぎる。
当時の状態としては常に熱が38~40℃くらい出ていて、看護師さんから「お腹にでっかいメロンが入ってるみたいだった」と言われるくらい腹部がパンパンに膨れ上がっていた。さらに血液中に細菌も確認されていた。この感染が広がると体内の臓器が次々にダメになっていってしまうので結構マズイ。
もともと肺に水が溜まっている上に、腸がパンパンに腫れたことで物理的に息ができない状態になってしまった。しょうがないのでお腹を開けて物理的に腸を外に出しましょう、そのあと閉めらんないけど――というわけだ。田舎の玄関の鍵じゃないんだから開けたらちゃんと閉めてほしい。
細菌による感染あり、開腹手術ありというのは重症急性膵炎の中でも最悪のルートで、年に1人いるかどうかのレアケースらしい。パチンコがわかる人には、ケンシロウがキリン柄背景+赤文字で「お前はもう死んでいる」ってセリフを言ってきてるレベルとでもいえば、なかなかのアツさであることが伝わるかもしれません。
実際このときは三途の川をジェットスキーで爆走する勢いで死の淵までいっていたらしく、通常は面会謝絶のICUに家族が集められて「心の準備をしておけ」「最後になるかもしれないから顔を見ておけ」など、かなり強いことをいろいろ言われたそうだ。
当時僕の病気についてネットでかたっぱしから調べた妻いわく「敗血症性ショックだけでも死亡率30~50%くらいと言われているのでこの時点で突然心停止してもおかしくなかった」とのこと。パチンコ海物語だったら魚群が出たくらいの期待度ですね。
「そもそもお腹を切ったまま放置して人って生きてられるの?」という疑問もあるかもしれない。僕もそう思った。一応お腹にブヨブヨしたパッドのようなものを貼り付けて密封保護をしてくれるので、あんまり動いたりしなければ大丈夫らしい。
僕はこのあたりの事情をあんまり理解しておらず、なんか手術することになったらしい、と思って全身麻酔で気絶して気が付いたらもう“そうなっていた”という感じなのだ。
手術前に看護師さんが深刻な顔で手を握って「頑張ってくださいね……!」とか言うので、「頑張るのは僕じゃなくて医者では?」とぼんやり思っていた。頑張ってくれて本当にありがとうございました。
お腹の部分は怖くて自分でもちゃんと見れなかったのでどうなっていたのか、あんまり覚えていない。ただ、妻や家族は膨らませた自転車のチューブみたいな腸が腹の上にこんもり乗っている写真を見せられて「うわぁ……」と言ったらしい。すごいね、人体。
文/たろちん

