夏のオフの間、パリ郊外の地元で、自分が好きなチェスとバスケをミックスさせたイベント『Hoop Gambit』を開催するなど、革新的な試みを次々と世に発信しているヴィクター・ウェンバンヤマ(サンアントニオ・スパーズ)。そんな彼が、新シーズン開幕に先駆けて、また新たなアクションを起こした。
それは、スパーズファン内に、“ウルトラス集団”を結成すること。先日、スパーズが開催したSNS上でのライブセッションに参加した際、ウェンバンヤマがこの計画について語った。
「このアイデアは以前から考えていたものなんだ。だから、ただ待っていても意味がない。ここに来てから感じていたんだ。みんなが一番、熱狂的で忠実なファンだってね。でもそんなみんなに、十分にその思いを表現する機会を与えてあげられていなかった」
ウェンビー曰く、欧州育ちの彼にとって“ウルトラス”の存在は、ライブスポーツの現場では欠かせないものだった。
「ヨーロッパで育って、サッカーの大ファンだった僕は、ウルトラスがスタジアムやコミュニティをいかに盛り上げているかを目の当たりにしてきた。アメリカの文化ではあまり見られないことだけれど、今こそその時だと思う。NBAでそれが実現できる場所があるとすれば、それはここ、サンアントニオだ」
パリ近郊育ちのウェンバンヤマは、パリを拠点とするサッカークラブ、パリ・サンジェルマン(PSG)のファンであることを常々公言している。PSGの本拠地パルク・デ・プランスは、ゴール裏に陣取るウルトラスの熱狂的な応援も名物のひとつだ。
「フロストバンク・センターに、新たなサポーターセクションを作る。そこにファンコミュニティの中でも飛び抜けて熱狂的で賑やかなファンを集めたい。みんながクラブに注いでいる思いを存分に表現する場を提供したいんだ。それが僕たちにさらにエネルギーを与えてくれて、ホームで勝つための力になってくれると思う。だから我こそは、と思う人は、9月14日に集まってほしい!」
そして実際、去る9月14日に、フロストバンク・センターに隣接したホール内で初代ウルトラスの“トライアル”が行なわれた。
「自ら審査員を務める」と公言したとおり、ウェンビーも会場に登場。公開されたオーディションの映像を見ると、椅子に座って各サポーターのパフォーマンスを見つめるウェンビーは、演技に笑ったりしながらも、手に持ったノートブックに真剣にメモを取っている。
取材したレキップ紙特派員のレポートによれば、参加者たちに「なぜこのアドベンチャーに参加したいと思うのか? 」「15秒でなにかチャントを作れる?」「この新しいグループに名前をつけるとしたら?」といった質問を投げかけていたそうだ。
会場には、老若男女様々な年齢層の参加者が集まり、フェイスペイントをしている人や、かつらや派手な装束の人、鳴り物持参の人たちなど、多くの個性的なファンが詰めかけ、ウェンビー自らが太鼓を叩いてパフォーマンスを先導する一幕も。
イベント終了後には、集まった報道陣に「様々な年齢層の人々が、様々な目的で集まっていた。社会勉強をした思いだ」と彼らしいコメント。
「たくさんの人にびっくりさせられたよ。エネルギーと創造性にあふれていた。すでに気になっている人たちもいるけれど、まずはこれから映像を観直して、最終的にグループのリーダーと、70~150人のメンバーを選ぶ。そして彼らと一緒に冒険に出るつもりだ」と、ウルトラス誕生への抱負を語った。
『スパーズ・サポーター・セクション』という仮の名称がつけられている彼ら用の特別エリアは今季、1人あたり999ドルで年間パスを提供する模様。ホームゲーム41試合が観られるとなると、NBAでは破格の低料金だ。そのうちの5試合分はウェンバンヤマが自腹で負担しているらしいが、彼はこのプロジェクトが自分自身のものではないことを強調している。
「最初の時点から、これは僕のプロジェクトではないと繰り返し言ってきた。これはみんなのものだ。僕はただ、このコミュニティが一緒に何かを体験できるように、自分の力を使って物事を動かし、それを実現させようとしているだけだ」
スパーズの開幕戦は、10月22日に行なわれる敵地でのダラス・マーベリックス戦。本拠地フロストバンク・センターでの初戦は、10月26日のブルックリン・ネッツ戦だ。
この日、どんな“新生ウルトラス集団”が登場するのか楽しみだ。
「NBA全体に広めようとは思っていない。自分たちだってまだ始まったばかりだから」
謙虚なウェンバンヤマだが、やがてこれがNBAのスタンダードになる日がくるかもしれない。21歳のウェンバンヤマは、コート外においても、革新的なスーパースターだ。
文●小川由紀子
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