自らに義務付けた事務折衝への出席
会長に就任するにあたり、宮本が自身に課したことがひとつあった。それは毎月行われるNPBとの事務折衝の場に必ず出席するということである。
「古田さんは頭がよかったから、折衝は代理人の弁護士さんがやって、終えてから古田さんに説明をすれば、話はそれで伝わったと思うんです。
ただ僕の場合は、そこまで頭が追いつくかどうか。そう思ったときに自分がその折衝現場にいることで、解消しようと思ったわけです。経営者側、選手会側、それぞれの考えを生で感じることで自分の中でしっかり理解していこうと考えたのです」
選手会とNPBの選手関係委員会の折衝は月に一度、試合の無い月曜日に行われていた。移動日であれば遠征先で会合がセットされることになる。
レギュラーならオフには休息を取り、身体の手入れに注力したいものであるが、宮本は3年間この会合に出続けた。当然、心身ともにストレスはかかる。
それでも皆勤したのは、宮本自身の改革ビジョンが明確にあったからである。
巨人・清武代表との定例会食
まずはドラフト制度。前年から2年間の暫定措置ということで導入されていた新ドラフトによる希望入団枠制度は、自由競争である分、契約金にコストがかかり過ぎていた。
ドラフトの改革については、構造改革協議会という委員会が立ち上げられて議論が重ねられていたが、宮本は2006年4月の経済界のインタビューで次のような発言をしている。
「この枠で選手を獲得するためには、高額な契約金が必要になります。過去にはこれだけで足りなくなるケースも珍しくありませんでした。
リーグ戦は資金的に潤沢な1、2の球団で成り立つものではありません。中小クラブに対する合理的な戦力補強を認める意味でも、希望入団枠に代わり、その年の下位球団から順番に指名していく完全ウェーバー制を導入するほうが妥当ではないかと思います。
選手会ではこのほか、強いチームは高校生を先に獲得でき、弱いチームは即戦力の社会人から獲得できるといった改革案を提案しています」「選手会では、まずは戦力の均衡から始め、長期的なプランでは世界に通用するようなチームをつくることを目標にしています」
選手会としては球団経営の観点も取り入れた上で、その年の公式戦で順位が低かった球団から順番に指名できる完全ウェーバー方式を要求し、戦力の均衡も念頭に置いていた。
そしてセットとして提案したのが、FA権取得期間の短縮である。ウェーバーで球団の負担を軽減するが、それだけであれば、入団する選手の希望が叶えられないケースもある。それについてはFAを早めることで好きな球団に行ってもらう。ウェーバーとFAをリンクさせての交渉であった。

