
無念の退場、チームは3回戦敗退。一生忘れられない出来事。帝京大可児の守護神は、強くなった自分を証明するために再び、全国の舞台へ
「今は去年の借りを返しにいくステップの一つにまだ過ぎないんで、今日は喜んでみんなで終わりたいと思うんですけども、明日からまた切り替えて、緩めることなく積み重ねていきたいと思います」
選手権の岐阜県予選決勝、美濃加茂を相手に4-1の快勝を収め、7年連続12回目の選手権出場を決めた帝京大可児の守護神・水野稜は、引き締まった表情でそう口にした。
昨年度の選手権でチームは初戦となる2回戦の大分鶴崎戦で5-1の圧勝を収め、3回戦は、同大会で優勝した前橋育英に挑んだ。開始8分までに2点を先行されるが、前半のうちに2-2の同点に追いつく。
その後、一進一退の激しい攻防を見せ、後半36分に決勝ゴールを浴びて2-3の敗戦を喫したが、前橋育英の山田耕介監督は「負けてもおかしくない試合だった。本当に帝京大可児は強かったし、あのまま11人対11人で行っていたら、本当に分からなかった」と口にしたほどだった。
チームは前橋育英へのリベンジに燃えて1年間を過ごした。だが、水野にはそれだけではない特別な思いがあった。あの試合で大きな忘れ物をしていたからだ。
水野は昨年もレギュラーとしてゴールを守り抜いてきたが、前橋育英戦の33分に一生忘れられない出来事が起こった。
前橋育英が自陣からロングボールを帝京大可児の左サイドへ蹴り込んでいくと、そのボールに向かってFW平林尊琉が抜け出して加速してきた。危険を察知した水野はペナルティエリアを飛び出して足でクリアしようとしたが、一瞬だけ躊躇してしまったことで出足が遅れた。結果、先にボールに触れた平林を倒してしまう形となり、無情なホイッスルと共にレッドカードを突きつけられた。
「頭の中が真っ白になって、気がついたら涙が溢れていました。自分のせいで試合を難しくしてしまったと。周りから励ましの声をもらったのですが、申し訳ない気持ちが本当に強かった」
残り47分間を10人で戦わなければいけなくなったが、山田監督の言葉通り、ここからピッチに残った選手たちは下を向くことなく、前橋育英と真っ向からぶつかった。身体を張った守備をしながらも、ボールを奪ったら果敢に前に出て、エースストライカーの加藤隆成(現・明治大)にボールを送り込んで相手ゴールを脅かすシーンも作った。
勇猛果敢に王者に向かっていく姿に、溢れ出る後悔の念と申し訳ない気持ちと共に、「自分がもっとしっかりしないといけない」と、ここから這い上がるという強い想いが込み上げてきた。
「ゴールキーパーが自信を失ったら、本当にチームが崩れる。チームの持ち味はラインを高くして、コンパクトにして攻撃をしていく。ここで自信をなくさないで、自分の特長をもっと磨いて、新チームに貢献していかないといけないと思いました」
173センチとGKにしてはサイズが低い方だ。だが、水野にはハイラインを支える守備範囲の広さ、足もとの技術、スピードという武器がある。セービングなどに加え、この武器を磨き続けてきたからこそ、強豪校で2年生から正守護神の座を掴むことができた。
それをあの1回のプレーで、これまで積み上げてきたものを否定してしまうようなメンタリティになることが、一番良くないことだと分かっていた。
「自信を失わない。そのためには自信を積み重ねることをやり続けるしかない」
今年から筋トレとスプリント、そして課題だったクロス対応に徹底して向き合った。胸板と肩周りが分厚くなり、太腿もかなり太くなって、フィジカルは見違えるほどに向上。パワーシュートを正確に止めるセービングや、クロスを遠くに弾き返せるパンチングを身につけた。
迎えた選手権予選の決勝。水野は何度もビッグセーブを見せた。12分には右FKからの高い打点のヘッドに対し、スムーズなステップで反応してバウンド際をガッチリとキャッチ。弾いていたら、目の前に相手が詰めており、失点のリスクがあったシーンだった。
3-1で迎えた後半3分には、左からのクロスをファーで折り返され、中央で完全にフリーとなった美濃加茂のMF眞鍋永遠に強烈なハーフボレーを浴びるが、至近距離の弾丸ライナーに完璧に反応。左に飛んで伸ばした右手に当てると、ボールはコースが変わって右ポストを叩いた。同18分にはMF青山武尊に強烈な弾丸ミドルシュートを浴びるが、これも凄まじい反応でしっかりとボールの軌道を見極めてジャンプし、右手一本でゴールバーの上に弾き出した。
このプレーで両足がつって、無念の交代となったが、水野がこの1年間で身につけたパワーがチームを救った。その後は2年生GK原田修汰が落ち着いたプレーを見せて、試合をクロージング。これで昨年、忘れ物をした全国の舞台に戻ることができた。
「試合中に足をつることは初めてでした。いつも緊張しないタイプなのですが、今日はどこか硬さがあるなかでプレーしているなとは感じていました。貴重な交代枠をこんな形で1つ使ってしまったことや、まだまだひっくり返される可能性もあった展開だったので、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。でも、修汰は安心して任せられる存在なので、ベンチでは最後まで精一杯、声を出しました」
それだけ水野にとって選手権に戻ることは重要で、知らず知らずのうちに力が入ってしまったのだろう。想いの強さが表われていた出来事だった。
「いつでもあのシーンは思い出せるんですけど、そんなのでクヨクヨしていたら、チームとして目標にしている全国ベスト8の壁も越えられないし、日本一にもなれない。忘れるわけではないですが、引きずらずに成長した姿を見せられるように全国でも頑張りたい。今は勝ちたいという気持ちしかありません」
チームにとって正真正銘の守護神となるべく。水野は忘れ物を取りに行くだけではなく、1年間の想いをすべてぶつけるつもりで、強くなった自分を証明するリベンジの舞台に挑んでいく。
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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