昨年12月に54歳の若さで亡くなった中山美穂に、インタビューしたことがある。1985年7月だった。6月に「C」という曲でアイドルデビューした直後のことだ。
筆者はスポーツ紙の芸能担当となって1年ほど、もっぱら新人歌手を取材していたのだが、中山は過去に取材したどんな新人歌手とも違っていた。キュロットスカートにTシャツ姿という愛らしいファッションで取材に応じた中山は当時、まだ15歳。なのに、10年以上もこの世界で生きてきたような風格があった。なにより、目力があった。
新人歌手といっても、彼女はこの年の1月から始まったドラマ「毎度おさわがせします」で主演し、全国的に知られた存在。場数を踏んでいるだけあって、多くのの新人歌手が見せる緊張感はなく、愛想笑いもなく、ドンと構えていた。
口数は少なく、通り一遍の筆者の質問に退屈そうな顔をして「はい」「うーん」「そうですね~」と素っ気なく答えるだけだった。唯一、記憶に残っているのは「アイドルとして大事にしていることは?」という質問に対する答えだ。彼女はちょっと考えてから、
「ファンの方です。応援くれるファンは大切にしたい」
インタビューを終えると、筆者の会社の総務部の女子社員2人が「大ファンです!」と言って、彼女にサインを求めた。するとインタビュー中には見せなかった満面の笑顔で、サインに応じる。これはちょっとショックだった。
彼女が亡くなってから、長年「ファンを愛している」という言葉を口にしていた…とのエピソードを知った。そのせいか、彼女の名前が出るたびに、15歳の少女が笑顔でサインに応じていたあの光景が、強烈に思い浮かぶのだ。
(升田幸一)

