ヤジを飛ばすのは技術がいる
10月21日、国会で「首相指名選挙」が行われ、自民党の高市早苗総裁が内閣総理大臣に選出された。
高市首相は就任早々に外交の機会に恵まれて、来日したトランプ米大統領と並んでスピーチしたり、ASEAN関連首脳会議に出席して各国首脳と会談を行っていたけど、そのときの振る舞いについてさまざまな意見が出ている。
俺はいいスタートを切ったと思うけどね。前任の石破(茂)さんみたいに、首相になってから意見がブレないのもいい。
高市首相が国会で所信表明演説をしたとき、他の議員からのヤジがひどく、国民から批判の声が上がった。
実は、ヤジを飛ばすのは技術がいる。場の空気を読まないといけないし、その上で適切なタイミングで適切な言葉を、適切な声量で発しないといけないんだよ。
昔はプロレス会場に下手なヤジを飛ばす客が大勢いた。だいたいガラが悪い風体で、試合をしている選手に向けて「もっと本気でやれ!」「俺のほうが強いぞ!」なんてわめいている。
そういうやつらが会場の空気を悪くしていたら、俺が若手のときはとっ捕まえて追い出すという役割もあった。
昔は野球でもよくヤジが飛んでたけど、今はマナーがよくなったのか、あまり聞かなくなったよね。海外だと、ヤジというかブーイングがすごい。ほぼ全お客さんが一斉に声を出すから、会場を揺らすくらいの迫力がある。
【蝶野正洋の黒の履歴書】アーカイブ
「声を出すなら周りを納得させて、流れをつくる意識がないとダメ」
先日、メジャー・リーグのワールドシリーズでブルージェイズ本拠地のトロント(カナダ・オンタリオ州の州都)で試合が行われたとき、観客からドジャースの大谷翔平選手に対して大きなブーイングが飛んでいたけど、このブーイングは対決を盛り上げる役割がある。
あと、アメリカではお客さんも積極的に声を出して、能動的にイベントを楽しむ意識も強いんだよ。
それにブーイングというのは、その選手に対する一種のリスペクトでもある。大谷選手のブーイングは、「お前、強すぎるぞ」という意味だからね。
アメリカのプロレスで本当に試合がしょっぱいとき、観客はブーイングじゃなく「boring(つまらない、退屈という意味)」と言い始める。
「退屈だ!」「つまらねぇぞ!」と声を上げて、お客さんが選手にダメ出しをするんだよ。これが始まると選手もやりにくい。会場のムードが一気に悪くなるからね。
とはいえ、誰も声を出さないのも盛り上がらない。そういうときは、試合をしていない選手らに役割があって、リング上の選手が苦しそうなときに「頑張れ!」「返せ!」などと声をかけて、試合のムードを伝える。
他にも「ハシモト!」とあえて名前を出すと、初めてプロレスを見に来たお客さんも「あれが橋本選手なんだな」と気づいてくれる。
エプロンをバンバン叩いてエールを送るのも、お客さんの拍手するタイミングを作ってる。いわば応援団長というか、お客さんが声を出す呼び水になるということだね。
だから、自分が言いたいことだけを言うヤジは三流なんだよ。
声を出すなら周りを納得させて、流れをつくる意識がないとダメ。もしそのタイミングが分からない政治家がいるなら、俺に声をかけてくれ。そしたらいつでも「正しいヤジのやり方教室」を開いてやるよ。
「週刊実話」11月27日号より
蝶野正洋(ちょうの・まさひろ)
1963年シアトル生まれ。84年に新日本プロレス入団。「nWo JAPAN」を率いるなど“黒のカリスマ”として活躍し、2010年に退団。現在はプロレス関係の他に、テレビやイベントに出演するタレント活動、「救急救命」「地域防災」などの啓発活動にも力を入れる。
