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タナカヒロキ「ひとつのことだけをやり続けるには、人生は長すぎるんです」、処女作「陽と月」筆を執った理由とは

タナカヒロキ「ひとつのことだけをやり続けるには、人生は長すぎるんです」、処女作「陽と月」筆を執った理由とは

LEGO BIG MORL タナカヒロキ
LEGO BIG MORL タナカヒロキ / 撮影=宇壽山貴久子

来年、結成20周年を迎えるロックバンド、LEGO BIG MORL。ダイナミズムと繊細さを併せ持った疾走感あふれるサウンドで、日本の音楽シーンにその名を深く刻んでいる。エッジの効いた歌詞の世界観にも定評があり、その言葉の表現を一手に引き受けているのが、ギタリスト・タナカヒロキだ。ここ数年は自らが抱えた吃音症をオープンにし、自身のWEBサイト「KITSU」でアパレルブランドを展開、吃音症への理解と支援を広める活動も行なっている。また、このサイトでは精力的にコラムの執筆を行っており、少なくともファンの間では、ヒロキ=ギターを弾く人=言葉を綴る人、という認識が浸透している。そんな彼が、ついに小説を書いた。小説投稿サイトmonogatary.comで連載される処女作「陽と月」は、私小説と言って差し支えないと思うが、バンドと友情をめぐる若き日の心の機微を丁寧に描いた、実に瑞々しい作品だ。今、何を想い、いかにして物語を綴ったのか。今日はミュージシャンではなく、作家・タナカヒロキに話を聞いた。

■僕の生きる上でのベースとなるものはやっぱり「言葉」なんだな
LEGO BIG MORL タナカヒロキ
LEGO BIG MORL タナカヒロキ / 撮影=宇壽山貴久子


───まず、ヒロキさんが小説を書くことになった経緯をお聞かせください。

タナカヒロキ(以下、タナカ) 僕はもともとバンドで作詞を担当していて、そのうち他のアーティストに歌詞提供という形で書かせていただくことも増えてきて。その活動のなかで、僕の生きる上でのベースとなるものはやっぱり「言葉」なんだなと思い至ったわけです。ただ、作詞は曲があってナンボ。衝動のままに言葉を綴れる場所が欲しくて、自分のWEBサイトの中でコラムを始めました。それはなかなかに手応えがあったし、そのうち「これをまとめて本にしませんか」という話がくるもんやと勝手に思ってて。でも、何十本書いても誰からも声がかからない(笑)。そこで知り合いを通じて編集の人を紹介してもらい、「じゃあ書いたらいいよ」と言ってもらえるまでになりました。でも、僕はてっきり今まで書いたコラムをまとめて書籍化してくれるもんだと思っていたんですけど、「そんなのダメだよ、ゼロから書かないと」と。

───そこで、何を書こうと?

タナカ いろいろな話を書けるような引き出しはないので、まずは僕の頭の中に映像が浮かぶことを書こうと。となるとバンドのことですよね。そして僕自身、自分の弱みやコンプレックスをさらけ出してる作品のほうが心に響くので、俺のコンプレックスは何やろなと考えたときに、吃音症だな、と。吃音症のバンドマンって、要は僕の話なんですけど、それしか書けないなと思いました。

───物語の登場人物や情景の描写がとてもリアルで、時にノンフィクションのようにも感じられます。

タナカ もちろん創作物ではありますが、骨組みになっているのは僕の日記みたいなものなんです。何より恵まれているのは、僕の周りに魅力的な人が多かったこと。その人をそっくりそのまま描いたわけでではないですが、あいつの面白いところとこいつの面白いところをこのキャラクターに落とし込もう!みたいなことは大いにできました。

───エモーショナルで瑞々しい、青春小説ですよね。主人公の月が終始ひとり相撲している感じがもう、たまらなくて(笑)。

タナカ そうそう、ひとり相撲(笑)。僕がそもそもそういうタイプなんで。カッコつけて美化するのがいちばんダサいと思ったので、なるべく月がダサくなるように書いたつもりです。ダサいというか、ずるくて情けないヤツなんです。私小説に見られるだろうなという要素がたくさんあるのは自覚していたので、だからこそ気をつけようと思って。

───文章を綴ること以前に、もともと言葉が好きなんですよね。

タナカ 実家の近所にTSUTAYAがあって、そこに毎週いろんなアルバムの歌詞カードのコピーがテイクフリーで置いてあったんですよ。それをいつも取りに行っては、好きな言葉を書き写したりしてました。音楽という観点から自分の人生を振り返ったときに、原風景として浮かぶのがそれなんです。ギターじゃない。僕はだから、歌がうまかったらボーカルやってたと思うんですよね。

LEGO BIG MORL タナカヒロキ
LEGO BIG MORL タナカヒロキ / 撮影=宇壽山貴久子

■僕、35歳ぐらいからやりたいことをやろうと決めたんです

───では、小説もすんなりと?

タナカ いや、めちゃめちゃ難しいです。歌詞はメロディが助けてくれますけど、小説はストーリー上で誰も助けてくれない。だから終わらない。これも書いといたほうがいいかな、こう思われたら嫌だからちょっと説明しとこうかな、そういうのでどんどん長くなってしまう。僕は日常でも、会話が人より何ラリーか多いらしいんです。たとえば奥さんが「明日6時から仕事やから」って言うと、反射的に「朝の?」って聞いちゃうんですけど、うちは奥さんもミュージシャンなので「朝から仕事なわけないやろ」って(笑)。これは吃音症が関係あると思ってて、人にうまく伝わっていないという前提で話をする癖がついてしまっているんですよね。歌詞でも小説でも、だから必要以上に説明してしまうところがあって。渋谷を表現するのに「人が多い」で済むところを、いらんことを長々と書き連ねてしまうんです。

───でも、小説とはそういうものでは?

タナカ ただね、僕はせっかちでもあって。自分で書くと無駄に長いくせに、人の本読んでても、そんなカッコつけんでええから早く本題に入れ、って思うんです。そういう自分の矛盾と折り合いをつけるという意味でも難しいですね、小説書くのは。小説を書く人生は、さすがに想像してなかったですしね。

───コラムをまとめて出版する人生までは想像できていたのに(笑)。

タナカ そこまでは本気で願ってましたけど(笑)。でも僕、35歳ぐらいからやりたいことをやろうと決めたんです。それまではLEGOがすべてで、それ以外はやっちゃいけないと思ってた。でも、ひとつのことだけをやり続けるには、人生は長すぎるんです。他のワクワクで時間を埋めていきたいなと思ったときに、やっぱり言葉を綴って形にすることは、やりたいことの筆頭に上がりました。

LEGO BIG MORL タナカヒロキ
LEGO BIG MORL タナカヒロキ / 撮影=宇壽山貴久子

■言葉が踊るような感じを味わってもらえたらいいなと、そう思っています。

───主人公の月に起こる出来事としてバイク事故の描写がありますが、あれはヒロキさんの実体験なんですよね。事故で死に目に遭ったことは、今のその人生観に影響していますか?

タナカ はい、めちゃめちゃ。バンドをもうやれないと思っていたんで。でも、あれ以来、言葉に説得力が増した気がします。デビューしてからずっと、歌詞には生き死ににまつわることを多く描いてきましたけど、実際に自分が死にかけるとそりゃあ重みが出ますよね。

───ただ、「陽と月」の清々しい読後感は、つらい描写も死の影も見え隠れしながら、最終的に生きることにフォーカスしているポジティブな世界観ゆえだと思います。

タナカ それはたぶん、書き始めた頃から今に至るまで、ずっと隣に「生」があったからじゃないかな。今、娘が1歳と1カ月で、この作品はちょうど奥さんのお腹の中にいる頃に書き始めたから……なるほど、僕も今気づきました。

───青春小説として楽しむことはもちろん、LEGOの歌詞も多く引用されているので音楽への入り口になってほしいなと思いますし、吃音症への理解も深まるといいですね。いずれにしろ、タナカヒロキという人間の本質がしっかりと投影された作品になりました。

タナカ 小説はフィクションではありますけど、バンドマンであることも吃音症であることも事実なので、そのリアリティと、僕やからできる表現も端々にあるとは思います。そして、言葉にリズムがあるねと褒めていただくことがよくあるんです。それは歌詞をずっと書いてきたことで身についたものかなと思うので、ミュージシャンの端くれとしてはそこも意識して読んでもらえたらうれしいな、と。言葉が踊るような感じを味わってもらえたらいいなと、そう思っています。





■「陽と月」作品あらすじ

バンドで成功することを目指し、夢と現実の狭間を生きる、吃音症のバンドマン・月。
太陽のような性格で天然だが、音楽の才能に溢れている親友のバンドマン・陽。
対照的な2人のバンドは、当初はどちらも華々しくデビューした。
しかし両者はその後、まったく違う道を歩んでいき……
夢は叶わなかったら不幸なのか。売れたら本当に幸せなのか。
そんな想いの中で揺れ動きながらバンドマンとして進んだ先に2人が見たものとは。
吃音症でもある「LEGO BIG MORL」のギタリスト・ヒロキが描く、実話をもとにした音楽小説。

インタビュー・文 斉藤ユカ






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