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舘ひろしインタビュー 藤井道人×木村大作と向き合う現場は“挑戦の連続”だった 『港のひかり』

舘ひろしインタビュー 藤井道人×木村大作と向き合う現場は“挑戦の連続”だった 『港のひかり』

『新聞記者』 (2019) で最優秀作品賞、『正体』(2024) では最優秀監督賞を日本アカデミー賞で受賞した藤井道人監督。そんな藤井道人監督と、舘ひろしが『ヤクザと家族 The Family』(2019) ぶりに再びタッグを組み、更に日本アカデミー賞最優秀撮影賞を5回も受賞する木村大作が撮影となる『港のひかり』。孤独な元ヤクザの漁師が目の見えない少年との出会いから、運命が劇的に変わって行く人間ドラマです。今回は、主演の舘ひろしさんに撮影現場での様子やご自身の活動について、そして俳優という仕事での変化を伺います。

――『港のひかり』の制作に至る過程を伺っていいですか。

以前、映画『ヤクザと家族 The Family』という作品で藤井道人監督とご一緒して、これまで僕がご一緒したことがない新しいタイプの監督だったんですね。“藤井監督ともう一度、どうしてもやりたい”と思って、その時のプロデューサー、河村光庸さん (2022年6月11日死去) にお願いしたんです。そうしたら、医者や先生役とか、いくつか候補が出てきたものの、僕は非日常を映画として描きたくて、“やっぱりヤクザがいいんじゃ?”と伝えました。それで元ヤクザという男の物語を描いて頂きました。

――歳の離れた尾上眞秀さんや眞栄田郷敦さんとの共演はいかがでしたか。

眞秀くんはやっぱり歌舞伎役者の血筋というか、ほっといてもお芝居が出来てしまう。目の見えない少年の役なのですが、素晴らしかったです。僕がもし、今の年齢で「目の見えない老人の役を演じてください」と言われてもあんなに上手くできないと思っています。上手いんですよ。郷敦くんは本当にイイですね。僕の推し!の俳優さんです。最近、“推し”って言葉を知ったばっかりなんです (笑) 。とにかく彼の目がイイんですよ。彼は撮影中に芝居のことをあまり喋らないのもイイ!僕はお芝居の話が苦手なんで (笑) 。それとスクリーンを支える力が彼にはあると思ったんです。

――そんな藤井道人監督と巨匠・キャメラマンの木村大作さんとの撮影で驚いたことはありますか。

驚きの連続でしたよ。やっぱり、木村大作さんのカメラが何といっても驚きでした。何台ものカメラが同じ方向を向いていて、“あんな風にして撮影出来るのか ? ”と。だって4台、5台のカメラが同じ方向から撮っているんですよ。それに今回は、フィルムで撮ったんですけど、今はモニターで撮っている映像を見られるようになっているのに、大作さんは撮っている画を絶対に監督にも見せないんですよ。僕が俳優になったばかりの頃の往年のキャメラマンスタイルなんです。やっぱり雨のシーンと最後の雪のシーンは、木村大作ワールドですよね。

――となると藤井監督はきっと大変でしたよね。

藤井監督は凄く不自由だったような気がしています。モニターを見られないから、画を確認できない。それにすべての画を木村大作さんが決めるので、藤井監督は自分で画を決められない。藤井監督は演出をするしかないんです。ずっとカメラのそばでこちらを見ているのですが、僕は敢えてその不自由さが今回、監督にとって凄く良かったのではないかと思っています。

――確かにこれまでの藤井監督作品とは、画が違うテイストというか。

たぶん、今までの藤井監督だったら“カメラはこっちから入って”と考えて撮影しているんですよ。けれど今回は彼の頭の中にあるものを、大作さんにすべて否定されているみたいなもんですから。藤井監督の思っている画よりも、それに達していない画もきっとあると思うんですけれど、藤井監督の想像を超える画もある。最終的に編集は藤井監督がしているわけですから、そこはある意味、藤井監督にとっても初めての挑戦だったし、別のものが生まれた気がしますね。

――舘さんが今回の撮影で一番手こずったシーンはどこですか。

んー、手こずったシーンはそんなにないです。ただ辛かったのはラストシーンです。寒い中、水をかぶってね。最初に入れ墨を見せるシーンがあるじゃないですか、それでヤクザとわかる。それで後半でもあるんですが、あれは僕から「入れ墨を見せたい」と言ったんです。藤井監督とお話をして決めました。僕はスーツを着て椎名(桔平)君演じる河村組・組長【石崎剛】の所に行きますよね。その時に「スーツを脱がされて、白いシャツに水をかけられて、入れ墨が浮かび上がるというのをやりたいんです」と提案したんです。それでやったんですけど、いやぁ寒かったです (笑) 。

――あれ、舘さんの提案だったんですね!確かに印象的なショットでした。あと、斎藤工さん達との乱闘シーンもあったじゃないですか。

あれは痛いだけだから、大丈夫 (笑) 。

――舘さんは「現場は楽しくが大事」とよく仰っていますが、今回の現場ではどんな楽しみがありましたか。

今回は楽しいというか。大作さんって現場で口癖みたいに「バカヤロー」とか言うんです(笑) 。昔のキャメラマンですから。僕は以前から大作さんのことを知っているので、「まあまあ」と (笑) 。

藤井監督はそういう現場を経験したことがないので、きっと驚いたかもしれない。だから僕の使命は藤井監督をお守りすることではないかと思って、大作さんをなだめながら一方で「藤井監督、モニターがないこの現場で不自由だと思いますけど、頑張ってください」と言ってました。ある意味、僕にとっては楽しい現場でした (笑) 。

――舘さんが仲人みたいな役割 (笑) 。今回の映画は、撮影後に被災地になってしまった能登半島が舞台です。2024年の2月には撮影地の石川県輪島市や氷見市へ舘プロとして行かれて、自ら炊き出しもされています。

僕にはそのくらいしか出来ないから。

――なぜ、被災地での炊き出しを続けようと思われているのですか。

それはやっぱり石原プロの伝統であり、石原プロの良き伝統は繋いでいきたいと思っているからです。

―― 一番最初に炊き出しを経験されたのはいつですか。

元々は撮影現場に行くと、亡くなった石原プロの小林専務が、昼飯を炊き出しで作っていたんです。最初はとん汁ぐらいかな、それを皆で食べていたんです。それから撮影が進むうちに「今日はイイ肉があったから、ステーキにしよう」とか、そんなふうにドンドンと増えていったんです。

それで1995年に阪神淡路大震災があった時に、小林専務が「炊き出しに行こう」と言い出して行ったんですよ。渡 (哲也) さんの出身地が神戸だったこともあり、全員で行ったんですけど、僕は丁度その時に、NHKドラマの撮影で行くことが出来ませんでした。2011年の東日本大震災の時にまた炊き出しに行って、その時は僕も参加させて頂きました。その後も熊本地震の時も行ったりしましたが、石原プロが無くなっても続けて行くべきと思っていて。でも炊き出しに行ったからと言って、僕らが何か出来るというわけではありません。ただちょっと元気づけに行くぐらいしか出来ませんが「やらないよりはやった方がいい」と思ってやっています。

――尊敬しかないです。舘さんは芸能生活50年を迎えられています。俳優として映画に関わる中で、昔と今で気持ちにいい意味での変化はありましたか。

あまりありませんが、最近は台詞を覚えるようにしています (笑) 。

僕が東映でデビューした時に俳優科というのがあったんですけど、そこの偉い人が「舘くん、舘くん、台詞は覚えて来なくていいからね」と言ったんです。

――何故、今は覚えようと思われたのですか。

周りの皆が台詞を覚えて来ているからね。一度、凄くショックというか“台詞を覚えないといけない”と思った出来事があったんです。それは倉本聰先生の『玩具の神様』(1999) というドラマをやった時に、10ページ近い台詞があって、中井貴一君とのシーンだったんです。僕は例によってカメラとか色んな所にカンペを貼りっぱなしだったんですが、そこに倉本先生が来て、そのままチラッと僕の方を見たと思ったら、何も言わずに帰って行かれたんです (笑) 。

もちろん、中井貴一君は台詞が全部、頭の中に入っています。その時、“まずいかな?”と思ったんですけど。その後、倉本先生に「舘くん、舘くん、台詞はどうでもいいから」と言われました。あの「テニオハ一つ変えてはいけない」と言われている倉本先生にですよ!きっと「こいつはダメだ」と思われたんだと思います (笑) その後、倉本先生と仕事をした時、渡 (哲也) さんとのシーンで6~7ページの台詞があったんですけど、それは流石に覚えて行きました。

――本当に驚くお話しを毎回、舘さんと一緒に出演させて頂いているBS10「舘ひろし シネマラウンジ」でも、いつも楽しく聞かせてもらっていますが、舘さんはあの番組はいかがですか。

楽しいですよ。ちょっと喋り過ぎているのではないかと、もう少し俳優らしい佇まいでいたいと思っているんだけどね。さとりさんが聞き出すのがお上手だから、ドンドンと喋らされている感じです。責任とってよね (笑) 。

――そんな (笑) 。あのギャグセンスに感服です。コメディを演じられる時には、魅力がさく裂されていると思います。

いやいや (笑) 。先日、コメディを撮ったんですけど。僕はアイデアは、ドンドンと浮かぶんです。でも僕が演じるより恭サマ (柴田恭兵) が演じた方が絶対上手いんですよ!『あぶない刑事』の撮影はそうでした。僕が浮かんだアイデアを恭サマに話して、代わりに演じてもらうと完璧に演じられるんです。恭サマは本当に上手いんです。

――また次の作品で舘さんの魅力が爆裂するのを楽しみにしています (笑) 。

洋画好きの舘ひろしさんとBS10「舘ひろし シネマラウンジ」で一緒にお喋りするようになり、もうすぐ1年となります。毎回、美味しい差し入れと豪快すぎる石原プロ時代の撮影エピソードと共に、映画の知識を語り尽くしてくださる舘さん。カメラの動きや画のこだわりに目を向ける舘さんだからこそ、今回の藤井道人監督と木村大作キャメラマンのタッグにワクワクされたのは納得でしかありません。孤独な元ヤクザの漁師・三浦が他人であるはずの目の見えない少年・幸太にそっと寄り添い、愛情を注ぐ姿に人間力を感じる『港のひかり』。哀愁漂うヒューマンドラマです。

取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦

作品情報 映画『港のひかり』

漁師として暮らす元ヤクザの三浦は、ある日事故で視力を失った少年・幸太を見かける。幸太は両親を交通事故で亡くし、引き取った叔母らに虐待されていた。どこにも居場所がなかった者同士、いつしか年の差を超えた特別な友情を築いていくが、幸太の目を治すための手術の費用を残して、突如三浦は姿を消してしまう。時は流れ、12年後。無事に目が見えるようになった幸太は、警察官として活躍する傍ら、恩人である三浦を探していくうちにある秘密を知る。

監督・脚本:藤井道⼈

撮影:⽊村⼤作

出演:舘ひろし、眞栄⽥郷敦、尾上眞秀、⿊島結菜、斎藤⼯、ピエール瀧、⼀ノ瀬ワタル、MEGUMI、⾚堀雅秋、市村正親、宇崎⻯童、笹野⾼史、椎名桔平

配給:東映、スターサンズ

©2025「港のひかり」製作委員会

2025年11月14日(金) 全国公開

公式サイト minato-no-hikari

配信元: otocoto

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