インドの首都ニューデリー行きの寝台列車に総勢40人の凶悪な武装強盗団が乗り込んでくる。
乗客から金品を荒々しく奪おうとする集団のリーダーは、大富豪タークル(ハーシュ・チャーヤ)とその娘のトゥリカ(ターニャ・マニクタラ)に目をつけ、身代金目的の誘拐をもくろむ。
ところが、トゥリカの恋人で対テロ特殊部隊に所属する隊員のアムリト(ラクシャ)も乗り合わせていた。恋人の危機に怒りが爆発したアムリトは、圧倒的に数で勝る敵との全面戦争になだれ込んでいく。
敵をとことん血祭りにあげる
国際インド映画アカデミー賞5部門を受賞、ハリウッド・リメイクも決定という大変な鳴物入りで、今まで見たこともない新種のインド映画が上陸してきました。
邦題の『KILL』は「斬る」が正しいんじゃ? と思うほど、殺って殺って殺りまくる。
花菱アチャコ風に関西弁で「どないなってんねや、もう無茶苦茶でござリまするがな」というバイオレンスぶりです。
私としては「どんな審査をすると5冠になるんだ?」と思わずにはいられませんが、かの国ではきっと優秀な映画と評価されているのでしょう。
ニューデリー行きの長大な特急寝台列車が40人の強盗テロリスト集団に襲撃され、乗り合わせた特殊部隊の戦士アムリトが同僚隊員と2人で立ち向かうというストーリー。同乗していた最愛の恋人、トゥリカに魔の手が迫るや、アムリトはブチギレて完全にリミットが外れます。
自分が「日本のチャンバラ映画のようだ」と思ったのには理由があります。
車内には両側に二段ベッド形式の寝台が並んでいるため、間にある細い通路で相対するしかないんです。だから常に1対1での闘い。
で、何もそこまでと思うほど敵を血祭りにあげるんです。切られ役にも美学を感じるチャンバラ映画とは、そこは異なりますね。
1本の映画に、チャンバラとスプラッターとパニック要素などを詰め込んだ感があり、ま、そういうのがお好きな方には“ご馳走”な映画じゃないかと思います。
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監督が乗った列車に強盗団が乗り込んでいた経験がきっかけ
ただ一つ、“んっ?”と思ったのは、武装集団にまで「家族やその一族の絆」を放り込んだこと。
自分の兄や父など身内がアムリトに殺られると嘆き悲しむとか、そんなヒューマンな気持ちがあるんだったら、そもそもテロ行為はやめときゃいいじゃないかという話。
この映画のきっかけは、監督が乗った寝台列車にダコイトと呼ばれる列車強盗団が乗り込んでいた経験から発想されています。
監督が穏やかに眠っている隣の車両で、乗客の金品が巻き上げられていたそうです。
ダコイトなんて名前が付いているくらいですから、かの国では知られた存在なのでしょう。
自分も海外の辺境地を旅する際に、特急寝台列車を利用することがありました。
多くの場合、日をまたいで車内で過ごすのですが、食堂車に行っていろいろ飲み食いするのが楽しいですね。
南アフリカでは列車のベッドが、あまりに気持ち良過ぎて眠りこけてしまい、「何のためのオールインクルーシブよ! もったいない」とカミさんに怒られてしまいました。
『KILL 超覚醒』
監督・脚本:ニキル・ナゲシュ・バート
出演:ラクシャ、ターニャ・マニクタラ、ラガヴ・ジュヤル
配給:松竹
11月14日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
「週刊実話」11月27日号より
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
