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『サザエさん』のタラちゃんは現代では夢のまた夢? 若者が「子どもを持てない」と怯える現代日本の家族構造が招く育児リスク

『サザエさん』のタラちゃんは現代では夢のまた夢? 若者が「子どもを持てない」と怯える現代日本の家族構造が招く育児リスク

「できちゃった婚」と若年出産のリスク構造

2000年代以降、「できちゃった婚」という言葉が一般化した。いわゆる「妊娠先行型結婚」である。かつては結婚前に子どもを授かることは外聞の悪い緊急事態とされていたが、時代は変わった。ブライダル業界も「おめでた婚」「授かり婚」などの言葉を造り、ポジティブなイメージを前面に打ち出し、世間体の悪さを払拭した。

この「できちゃった婚」はあらゆる年齢層で増加したが、特に20歳未満の結婚において多い。実に20歳未満の結婚の5割は、妊娠先行型結婚である。逆に浮上するのは、はたして彼らは妊娠をしなくても結婚しただろうかという問いである。

誤解しないでいただきたいのは、私は妊娠先行型結婚や若くして母となること自体に、異議を唱えているわけではない。むしろシングルマザーや未婚の母でも、きちんと子を養育できるよう社会が支援すべきだと思っている。それが少子化を救う一つの手立てだとすら思っている。

問題は「若くして母になる」ことや「未婚で母になる」こと、「シングルで子を育てる」ことではない。「子を産むこと」そのものが、時に貧困に直結しかねない「リスク」として存在している社会システムのほうである。

「日本性教育協会」は、1974年に当時の総理府からの委託を受け、そこからほぼ6年おきに、「青少年の性行動全国調査」を実施している。2023年の結果によると、2000年頃をピークとして、大学生・高校生・中学生すべてにおいて、キスやデート、性交渉の経験値が大きく下がっていることがわかる。

特に、女子大学生の性体験率が、著しく減少している。若い人が恋愛に消極的になったと捉えることもできるが、「結婚前の性交渉はリスクが大きい」と考える人が増えていることも関係しているだろう。

ここにひとりの女性がいるとしよう。彼女は大学を卒業して無事就職はしたものの、まだ社会人1年目で仕事にも慣れていない。これからキャリアの土台を築くには、最低でも3年くらいはかかるだろう。当然、この間に結婚しようとは思えない。彼女の夢は専業主婦ではなく、自立して生計を立てられるキャリア人材になることだからだ。

まだ仕事も覚えていないのに、今結婚をしたら数年のブランクが出る。仕事復帰後も時短勤務が数年続くと考えると、結婚は最低でも30歳前後でないと難しい。まずは働いて、仕事を覚え、給料をもらい、自活スキルを身につけていく。結婚はその次だ。そんな若者の心を裏づけるように、2021年の男女の平均初婚年齢は30歳前後となっている(厚生労働省「人口動態統計」)。

最後の砦としての「家族」

もっともこの「平均値」には、初婚の中高齢者の結婚も含まれている。そうした層を抜いた初婚年齢でもっとも多いのは、女性は26歳である。かつて女性はクリスマスケーキに喩えられ、24歳を過ぎると「嫁のもらい手がない」などと言われたものだが、現代(特に都心部)の大学卒の女性は、25歳以降に結婚するのがふさわしいと考えている。

一方で学歴が高くない女性ほど、若年での結婚・出産が高い傾向が見られる。早く社会に出ているから、早く結婚したい気持ちも出るのかもしれない。だが高校卒業したて、あるいは在学中に出産すれば、キャリアとしてはアルバイト程度の経験しか積んでいないことになる。そうした女性が出産・育児後に社会に〝復帰〞しようとしても、働き先はパートかアルバイト、非正規雇用の道しかない。

あるいは若年のまま結婚・出産に至った男女の場合、まだ年若い父親が、もう一度人生を生き直そうと母子の元から去るケースも少なくない。取り残された母親は、幼い子を抱えて、どんなキャリア構築を目指せるだろうか。

日本では、シングルマザーが無職のまま子育てをできるようなサポート体制は敷いていない。必然的に彼女たちは働かなくてはいけないが、働いている間の子どもの面倒は誰が見るのか。保育園などを利用しつつも、いざとなれば頼るべきは母親の両親であることが多い。離婚家庭でも、離婚後、母親は実家に身を寄せることが多い。ここでも最後の砦が「家族」になっていることに注目したい。

文/山田昌弘

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