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<ウマ娘 シンデレラグレイ>欧州王者やオセアニアの英雄も…オグリの前に立ちはだかった「海外からの刺客」のモデルと史実での活躍

<ウマ娘 シンデレラグレイ>欧州王者やオセアニアの英雄も…オグリの前に立ちはだかった「海外からの刺客」のモデルと史実での活躍

オベイユアマスター(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より)
オベイユアマスター(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より) / (C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会(C) Cygames, Inc.

葦毛の怪物オグリキャップを主人公に描いたアニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」(毎週日曜昼4:30-5:00、TBS系ほか/ABEMA・ディズニープラス・Hulu・Lemino・TVerほかで配信)。11月9日の放送では第8回ジャパンカップの模様が描かれ、第2クールの大きな山場となった。作中では“欧州王者”トニビアンカ、“誇り高き美貌”エラズリープライドなど、個性豊かな海外ウマ娘たちも登場し、オグリキャップたちの前に立ちはだかった。本作のウマ娘たちは、別の世界の名馬の魂を宿した少女たち。ファンの間では「この馬がモデルだろう」と推測されているウマ娘も数多い。ジャパンカップに参戦した海外ウマ娘たちのモデルと推測されるのはどんな馬なのか。その元ネタとなったと思われる競走馬の活躍とネーミングの由来を紹介する。(本記事の内容は「ウマ娘」公式の情報ではありません)

■トニビアンカのモデル:凱旋門賞馬にして日本競馬界の恩人「トニービン」
トニビアンカ(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より)
トニビアンカ(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より) / (C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会(C) Cygames, Inc.


気品あふれる佇まいと圧倒的な実力。凱旋門賞を制した欧州王者として来日したトニビアンカ。彼女のモデルとなったのは、イタリアが生んだ歴史的名馬トニービンだろう。3枠6番、タマモクロスに次ぐ2番人気で、単勝オッズは3.9倍だった。

フランスで開催される凱旋門賞は世界最高峰のレースの一つに数えられ、凱旋門賞馬の称号はイコール欧州王者。現在ではヨーロッパのみならず、世界からトップホースが集まるレースとなっている。トニービンは1988年に、この凱旋門賞を制覇。イタリア調教馬としては27年ぶりの快挙だった。その勢いのまま、ジャパンカップに参戦。日本では史上初めてジャパンカップに出走した凱旋門賞馬としても知られている。

レースでは骨折のアクシデントがありながらも5着と健闘。このときの骨折が原因で引退した。しかし、トニービンの真価はここからだった。社台ファームに種牡馬として購入されたトニービンは、その後、ジャングルポケット(日本ダービー、ジャパンカップ)、ウイニングチケット(日本ダービー)、エアグルーヴ(オークス、天皇賞・秋)といった数々のGI馬を輩出。その血は現代の日本競馬に脈々と受け継がれており、まさに日本競馬界の「恩人」とも言える一頭になった。

キャラクター名の「トニビアンカ」は、トニービンの名前をほぼそのまま引き継ぎつつ、女性的な響きを持つイタリア語の名前「ビアンカ(Bianca)」を組み合わせたものだと思われる。「ビアンカ」はイタリア語で白を意味し、高貴さも連想させる。欧州王者としての気品あるキャラクター像を表現しているのかもしれない。

なお、名馬であるトニービンだが、セールでの取引価格は当時のレートで100万円以下。成績も4歳半ばまでふるわなかったが、そこからGIを連勝する最強古馬となった。

■エラズリープライドのモデル:オセアニアの英雄「ボーンクラッシャー」
エラズリープライド(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より)
エラズリープライド(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より) / (C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会(C) Cygames, Inc.


「誇り高き美貌」の異名を持ち、凛とした雰囲気を放つエラズリープライド。彼女の元ネタと思われるのは、その荒々しい名前とは裏腹に、ニュージーランド国民から絶大な人気を誇ったボーンクラッシャーだ。

「Bonecrusher(骨を砕く者)」という名の通り、そのレースぶりは激しく、オーストラリアンダービーでのライバルとの死闘は今なお語り草となっている。GI9勝を挙げ、「オセアニアの英雄」とまで称された同馬は、じつは1986年にも来日したが、肺炎のため無念の出走辞退。女性調教師が涙ながらにファンへ謝罪したというエピソードも残っている。

それから2年越しの雪辱を果たすため、1988年のジャパンカップに参戦。6枠11番、5番人気、単勝オッズは12.3倍。結果は8着だった。このときのボーンクラッシャーは7歳という競走馬としては高齢、すでにピークを過ぎた状態だった。それでも2年越しの挑戦は多くの競馬ファンの胸を打ち、記憶に残る名馬となった。

キャラクター名の「エラズリー」は、ボーンクラッシャーが制したニュージーランドダービーなどを開催するオークランドのエラズリー競馬場が由来だと思われる。「オセアニアの英雄」と呼ばれ、母国への誇りが名前に込められて、「エラズリープライド」になったのだろう。

■ミシェルマイベイビーのモデル:アメリカの巨神「マイビッグボーイ」
ミシェルマイベイビー(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より)
ミシェルマイベイビー(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より) / (C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会(C) Cygames, Inc.


195cmの長身と威圧感で「アメリカの巨神」と称されるミシェルマイベイビー。そのモデルは、名前の通り大きな馬体で知られたアメリカの競走馬マイビッグボーイと思われる。ジャパンカップでは4枠7番、4番人気、単勝オッズは9.9倍。馬体重は506kgにも達していた。これは500kgのゴールドシチーを超える、出走馬の中でもっとも大きな体格だった。

ジャパンカップ以前はGIは1勝だが、2着2回、3着1回の好成績を残しており、さらにダート主流のアメリカ競馬で芝を主戦場にしていたことでジャパンカップへの招待が決まったと言われている。レースでは優勝したペイザバトラーからわずか0.3秒差の4着に好走。海外馬最先着を果たしている。マイビッグボーイはその後も走り続け、通算成績は49戦10勝(海外)、1戦0勝(日本)。タフな馬として人気を集めた。

キャラクター名の「ミシェルマイベイビー」は、マイビッグボーイの逆変換だろう。「マイ(My)」を残しつつ、「ビッグボーイ(Big Boy、大きな男の子)」を「ミシェル(Michelle)」という女性名と「マイベイビー(My Baby)」に。これにより元の馬名の面影を残しながら、女性キャラクターとしての名前を成立させている。

「アメリカの巨神」という異名や、作中での195cmという長身、パワフルな設定は、ビッグボーイという名前と大きな馬体から由来するものだろう。

■ムーンライトルナシーのモデル:英国のステイヤー「ムーンマッドネス」
ムーンライトルナシー(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より)
ムーンライトルナシー(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より) / (C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会(C) Cygames, Inc.


「英国の貴婦人」と呼ばれ、ミステリアスな雰囲気を持つムーンライトルナシー。彼女のモデルは、イギリスの長距離路線で活躍したムーンマッドネスだろう。作中、前年の雪辱に燃えていた通り、1987年のジャパンカップにも参戦。5着に入着している。1988年は、8枠15番、10番人気、単勝オッズは17.9倍。東京競馬場の高速馬場に苦戦しながらも、下馬評以上の6着に食い込んだ。

イギリスのクラシック三冠の一つ、セントレジャーステークス(約2921m)を制し、フランスのトップレース、サンクルー大賞(2400m)でも勝利を挙げるなど、欧州の芝で確かな実績を誇った。

キャラクター名の「ムーンライトルナシー」は、ムーンマッドネスの「ムーン(Moon)」を「ムーンライト(Moonlight)」に変更し、「マッドネス(Madness、狂気)」を同じく狂気を意味する「ルナシー(Lunacy)」に置き換えたものだと思われる。「ルナシー」は月(Luna)とも掛けられており、ミステリアスな響きも持ち、「ムーン」との関連性も深い単語。元の名前の響きや意味合いを保ちつつ、詩的でキャラクター性を感じさせる秀逸なネーミングセンスと言えるものだ。

「英国の貴婦人」という異名は、英国貴族のラヴィニア・メアリー・フィッツアラン・ハワード・ノーフォーク公爵夫人の所有馬だったということに由来していると思われる。

■オベイユアマスターのモデル:米国の伏兵「ペイザバトラー」
オベイユアマスター(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より)
オベイユアマスター(アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」より) / (C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会(C) Cygames, Inc.


アメリカ出身のウマ娘「オベイユアマスター」のモデルと思われるのは、1988年のジャパンカップで日本中を驚かせたペイザバトラーだ。ペイザバトラーは、その競走生活において決してエリート街道を歩んできた馬ではなかった。

アメリカで生まれた同馬はフランスでデビューするが、初勝利まで5戦を要するなど、目立った成績は残せなかった。その後4歳でアメリカに戻ると、移籍初戦のGIIレッドスミスHで重賞初勝利を飾り、GIマンノウォーSレースでも2着に入る。しかし、GI勝利はなかったため、ジャパンカップでは9番人気の単勝オッズは14.9倍。

当時のレースはタマモクロスとオグリキャップという二頭の芦毛のスターホースの対決、凱旋門賞馬トニービンの参戦に注目が集まり、ペイザバトラーはまさに伏兵だった。しかし、レースではクリス・マッキャロン騎手の巧みな騎乗が光る。道中はインコースでじっと脚を溜め、直線で力強く抜け出すと、猛追するタマモクロスを抑え込み、見事1着でゴールイン。

当時の絶対的王者と見られていたタマモクロスを破ったこの勝利は、日本の競馬ファンに大きな衝撃を与えた。ジャパンカップを勝つために、マッキャロンはコースと出走馬、特にタマモクロスを徹底的に研究したと言い、執念がもぎ取った勝利と言えただろう。

帰国後はGIを連戦し、勝利こそないものの入着は残し、翌年のジャパンカップにも参戦。このときはホーリックスに敗れたものの、3着と健闘した。

ジャパンカップの衝撃から日本の競馬ファンの記憶にはペイザバトラーの名前は強く刻まれている。キャラクター名の「オベイユアマスター(Obey Your Master、主人に従え)」は、ペイザバトラー(Pay the Butler、執事に支払え)を意訳し、さらにその意味を反転させたものと考えられる。「執事」と「主人」という対照的な言葉を用い、命令の方向性を逆転させるという、「ウマ娘」ならではのユニークなネーミングセンスが光るものだ。

オグリキャップという怪物がいかに世界の強豪たちと渡り合ってきたか。「ウマ娘 シンデレラグレイ」は、史実を知ることで、キャラクターたちの背景にあるドラマや競走馬たちの魂をより深く感じることができる。ジャパンカップ後は有マ記念に向かうが、そこにはどんなドラマがあるのか楽しみなところだ。

◆文=鈴木康道

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