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慶應生&東大生研究チームが徹底分析!テニスの競技成績を飛躍的に向上させるヒント【ブレークスルーの鍵:第9回】<SMASH>

慶應生&東大生研究チームが徹底分析!テニスの競技成績を飛躍的に向上させるヒント【ブレークスルーの鍵:第9回】<SMASH>

どうすればテニスで一段上のステージへ行けるのだろうか?日々練習に打ち込み、試合にも出場している方であれば、誰でも一度は思うことでしょう。

 この謎に迫るべく、飛躍的に競技成績が向上する現象を「ブレークスルー」と名付け、過去にブレークスルーの経験があり、全国大会で上位進出経験のある8名の選手にインタビューを行ない、その内容を徹底分析しました。

 第9回は、競技力を高めていくために重要となる「誤った思い込みから脱すること」について解説していきます。

■「思い込み」が書き換わると、プレーが大きく変化する

「競技力の向上」と聞くと、練習やトレーニングを通してコツコツと技術を積み上げていくようなイメージが思い浮かびます。こうした積み重ねは、ブレークスルーの実現にとって欠かせないものですが、その一方で、選手のなかにある「前提となる思い込み」が覆されるような気づきを得たとき、プレーが一気に変化することがあります。

 たとえるなら、日々の練習やトレーニングは、「お皿の上に何かを積み重ねていく」ようなイメージですが、思い込みが書き換わるというのは、「お皿そのものが入れ替わる」ようなイメージです。

 ある選手の具体的な例を見てみましょう。その選手はパワフルなストロークを武器にしていましたが、その分ミスが多く、格上の選手になかなか勝てない時期が続いていました。そんな当時を振り返り、「以前は、自分が攻撃することが良いプレーで、相手に攻められたら良くないプレーをしていると思い込んでいた」と語ります。

 こうした「思い込み」の背景について、「昔からプロの試合を見るのが好きだったけれど、基本的にハイライトされるのはウィナーのポイント。だから無意識のうちに『攻めることが良い』というイメージが自分の頭のなかでつくられていたのだと思う」と振り返っています。

 そんな中、選手はプロの試合のスタッツ(統計)、すなわち試合に関する客観的な情報を見るなかで、テニスの試合のほとんどがミスによって成り立っていることを知りました。この経験を通して、「自分はなぜこんなにもウィナーにこだわっていたのだろう?」という「揺らぎ」が起こり、「自分が理想とする攻めのプレーで取った1点も、何とかボールを拾い続けて最後に相手がミスしてくれるのも、同じ1点なんだ」ということに気づいたのです。

 それ以前は、自分のストロークの調子が良ければ勝ち、悪ければあっさり負けるという、いわゆる「自分本位な試合」を繰り返していたのに対して、「どうすれば相手のミスを引き出せるのか?」という新たな視点がインストールされてからは、「相手との駆け引きができるようになった」と語っています。

 ここまでは戦略面の思い込みを例に挙げましたが、具体的な技術面に関しても、特に初心者の方であるほど、誤った思い込みを持っているケースは少なくありません。

 たとえば、「強いボールを打つには腕に力を入れた方が良い」という思い込みは、その典型です。実際には、テイクバックの段階から力を入れすぎるとスイングスピードが落ち、かえってボールが走らなくなってしまいます。

 また、「サーブは上から下に打ち下ろすものだ」というのもよくある思い込みです。物理的には、下向きに打ち下ろす軌道ではネットを越えることはできません。実際には、サーブは上に打ち出して、回転と重力によって落ちてコートに入るのです。

 ここまで挙げた思い込みの例は、言葉にしてしまえばどれも当たり前のように聞こえます。しかし、それを自分ごととして、実感を伴って理解することは簡単ではありません。なぜなら、思い込みは経験を通して形成され、自分に深く根づいた「信念」のようなものであるためです。だからこそ、それが書き換わったときにプレーが大きく変化するのです。
 ■ 誤った思い込みから脱するにはどうすればよいのか?

 思い込みの厄介な点は、それが自分にとって当たり前のものであるため、自覚しにくいところにあります。そもそも、自分の思い込みを「これは思い込みだ」と自覚できた時点で、それはもう思い込みではありません(ややこしいですが)。

 したがって、ここで考えたいことは「誤った思い込みから脱する方法」というよりも、「自分の思い込みを思い込みとして認識できる確率を増やす方法」です。以下では、自分自身で実践できること、コーチなどの他者との関係性のなかで実践できることの両面から考えていきます。

① テニスに関する客観的な事実を学ぶ

 これは、自分自身で実践できることです。テニスに関する客観的な事実を知ることで、誤った思い込みから抜け出すきっかけを得られることがあります。先ほど紹介した選手のように、プロの試合のスタッツを確認してみることもその一例です。

「競技力を高めたい」と考えるとき、オンコートでの練習やトレーニングを行うことをイメージするでしょう。しかし、コートから離れたところで、「そもそもテニスとはどのようなスポーツなのか」、「どのような能力が求められるのか」、「それをどのように身につけていけば良いのか」といった知識を理解することも、成長につながる鍵となり得るのではないかと考えています。

 一般的には、こうした知識はコーチに求められるものであり、コーチはそれを選手に伝える「伝達者」の役割を担っているとされています。しかし、筆者個人の意見としては、選手もこうした知識を自ら学ぶ機会を持つことが理想的なのではないかと感じることがあります。

 なぜなら、筆者自身も競技者を引退してから、テニスの指導教本をはじめとするコーチ向けの書籍を読む機会が多々ありますが、「選手の頃に読んでおけば良かった」と感じる場面に多く出会うためです。客観的な事実と、自分の経験から形成された「持論」の乖離に気づくことで、誤った思い込みから脱するチャンスが増えるのではないかと考えています。
 ② フィードバックを受け取る「コーチャビリティ」を高める

 次は、他者との関わりのなかで自分の思い込みに気づく方法を考えてみます。そもそも「気づき」を引き出すのは、コーチの重要な役割の一つでもあります。筆者自身、コーチングに関する研究を通じて、コーチがさまざまな工夫を凝らしながら、選手の気づきを引き出そうとしていることを知りました。

 たとえば、練習の動画を撮り、客観的にプレーを見せることで気づきを促したり、あえて少し難しめの課題を提示し、失敗を通して弱点に気づかせたりするなど、優れたコーチはさまざまな引き出しを持っています。

 こうしたコーチからのフィードバックを受けることは、気づきを得るうえでとても大切です。一方、いくらコーチが優れたコーチングスキルを持っていても、選手にそれを受け入れる能力がなければ、気づきは生まれないという側面も忘れてはなりません。

 こうした「コーチから学ぶ力」は、「コーチャビリティ」と呼ばれることがあります。コーチャビリティとは、他者からのフィードバックを受け入れ、実行し、成長へとつなげていく能力として捉えられます。さまざまな要素があるなかでも、コーチからフィードバックを受け入れる「素直さ」、すなわち「オープンマインド」であることは特に大切な要素です。

 ただし、ここでいう「素直さ」とは、言われたことを何でも鵜呑みにすることではありません。コーチとのコミュニケーションは、一方的に「アドバイスを受け取る」形になりがちですが、コーチャビリティの高い選手は、腑に落ちるまで質問を重ね、対話を通して理解を深めていきます。こうしたやり取りのなかで、コーチ側も「この選手はこんな風に考えていたのか」と新たな発見を得ることがあり、その気づきがより効果的なアドバイスへとつながっていくのです。

 また、コーチャビリティの高い選手は、フィードバックをもとに行動を変化させたうえで、「これは自分には合わない」と判断し、取捨選択する能力も兼ね備えています。つまり、他者からの意見を受け入れる「素直さ」と、自分のテニスを貫く「信念の強さ」の両立こそが、成長を支える鍵なのです。


解説=日置和暉
2000年生まれ。慶應義塾体育会庭球部を経て、慶應義塾大学大学院に進学。慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師。プリンス契約コーチ。2023年、日本テニス学会研究奨励賞。

解説=發田志音
2000年生まれ。慶應義塾体育会矢上部硬式庭球部を経て、東京大学大学院に進学。国際テニス連盟のコーチング科学誌で論文審査を担当。2018年、日本テニス学会研究奨励賞。

構成●スマッシュ編集部
※スマッシュ2024年10月号より抜粋・再編集

【画像】なかなか見られないトッププロの練習やテニス教室の様子

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配信元: THE DIGEST

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