☆鉄腕が12年のプロ野球生活に幕
「野球できるチャンスを頂いた横浜さんには感謝してますし、腕がちぎれてもいいぐらいの思いで死ぬ気で投げます」
2年前、DeNAベイスターズに入団が決まった際、力強い決意を表明していた森唯斗。今年限りでの引退を決断したが、ベイスターズでの2シーズンの働きは、その言葉に嘘偽りはないことを証明するに十分だった。
DeNAに在籍しての初年度は14試合に登板し1勝3敗、防御率7.52。今年は1試合のみで1勝をマークしたが、「この2年間何もできなかったので、1番最初に申し訳ないなという思いが残っています」と「もう一花も二花も咲かせたい」との思いを成し遂げられなかったことに自責の念を滲ませる。
しかし森の働きは、数字だけで表されるものではなかった。常勝ソフトバンクでセットアッパーから抑えの切り札へとステップアップし、4度の日本一に貢献。胴上げ投手も経験した右腕は「ブルペンにいる中継ぎピッチャーっている場所も違いますし、ゲームにあまり入れない」ことを常に感じており、肩を作る前はベンチに入ることを提案し、実行に移した。「僕はみんなで戦っていると思っていましたけど、(ベンチに)行くようにして、よりみんなで戦っているぞという雰囲気になるようにやっていました」と、とかく分かれがちな投手陣と野手陣の垣根を低くし、チームの団結力を高めた。
また今年はファームで33試合に登板。先発は6回でクオリティスタート3回の結果を残したが、その他は中継ぎとして奮闘した。そこには若い育成選手の先発の後を受ける役目や、ピッチャーが足りない台所事情を埋めるためにイニングイーターとしての登板など、難しい役どころも担っていた。「我慢するときは我慢できましたし、絶対にしっかりやっていればワンチャンスを掴めると思ってやっていました」と酷暑の夏でも決して下を向くことなく、自分の仕事を全うした。
そしてついに巡ってきた8月28日の阪神戦、チームは連敗して迎えた逆境のなかで先発した森は、5回を投げきり2失点でゲームメイク。「登板できる機会をいだだいて、正直これでダメならもう終わりという覚悟は自分にもありました。それが自分にもいい刺激になったのかなと思っていました」と背水の陣での力投は、待望の今季初白星となった。
チームにも大きな1勝。「気持ちを切らさずにやってこれたことが、一軍での結果につながったのかなと思います」と努力は裏切らないことを大舞台で見せつける姿は、見る者の心を打った。それは同時にファームでともに汗を流した若手たちへのメーセージの意味合いも持った。「ベイスターズの若い子たちは、いいポテンシャルを持っていると思っているので、まだまだ伸びると思います。ただちょっとした考え方だったり、まだやることはいっぱいあると思うので、言えることは言ってきたつもりではいるんですけれども」との親心にも似た感情から放たれた「若手はもっと突き上げなければいけないです」との言葉には、重みがあった。☆苦楽をともにしたコーチも感謝
若手に投げかけ続けたプロとしての心得。「それは彼らに聞いて下さい」と結んだが、森がソフトバンクに入団した2年目からの付き合いである入来祐作二軍投手コーチは、その答えを持っていた。
「二軍では本当に根気強く、泣き言、弱音を一切吐かずに、起用の仕方に関しても何も言わず、黙々と自分に与えられたところで全力で投げていました」と証言。「入来さん、僕どこやったらいけそうですか? どこやったら投げられますか? どこでもいいですからっていつでもチャンスを窺ってましたからね」とチームのためになるならば、貪欲に出番を探る姿勢を回想する。
「今年はキャンプから張り切ってやっていましたけれども、思うようにいかなかった。状態が上がってこなかったので、あいつも苦しかったと思うし、僕も近くで見ていて苦しかったですよ。僕には言わないですけれども、身体も絶対良くなかった。今年は後半、全力疾走している姿が見れなかったんです。でも一切泣き言は言わないでやり通しました。立派でした」と己を貫き通したと頷いた。
野球人としてのプライド。それはコーチ業を務める自身にも問いかけさせるきっかけとなった。入来コーチは、「全身全霊で自分のエネルギーを僕たちに発信してくれる野球選手はなかなかいないですよ。だから僕、彼が辞めるってなった時に、自分ですごくこれじゃいけないなと思ったことがひとつあって。俺、いまこういう選手を育てきれてないなって思ったんですよ」と胸に抱える想いを告白。
昨年DeNAに同時入団した2人。「1年目に彼ほどのインパクトのある選手がいてくれてありがたいなって。彼にちょっと甘えてた部分もあったかなと思います。彼みたいな選手がいてくれて助かるなと思ってたんです」と森の存在に頼っていた部分もあると吐露した。
「でもあいつが来年からいないわけでしょ。その時に彼ほどの選手になりそうな、そういう選手を俺まだまだ育てきれてないなって思ったんですよね。あいつに続く、ホントに全力で全身で自分の野球を全うしていて、それでいてあんなに頭の切れるやつっていう、そういう僕自身がコーチとして、こういう選手をこれから育てていかなきゃいけないなと思ったんですよね。これは俺、まだまだちゃんとやらなきゃいけないな。しっかりともっともっと選手たちに向き合って、もっとエネルギッシュに選手を育てていかないと、こんな選手は出てこないなって気付かされましたね」と、森が指導者としての指針にも影響を及ぼしたことを明かした。
「ここまで実際できるとは思っていなかったので、いい野球人生だったなと思います。本当に満足していますし、いい12年間でした」
そうプロ野球人生を総括した森。プロ12年、485登板、130ホールドポイント、127セーブ。ルーキーイヤーから7年連続して50試合以上登板の鉄腕は、選手だけではなく、チーム全体にポジティブな風を吹かせ、次のステージへと進んでいく。
取材・文●萩原孝弘
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