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「粒の揃ったユニゾンがとにかく美しい」キャンディーズ『アン・ドゥ・トロワ』

「粒の揃ったユニゾンがとにかく美しい」キャンディーズ『アン・ドゥ・トロワ』

キャンディーズ『アン・ドゥ・トロワ』
【スージー鈴木の週刊歌謡実話第15回】
キャンディーズ『アン・ドゥ・トロワ』作詞:喜多條忠、作曲:吉田拓郎、編曲:馬飼野康二、1977年9月21日発売

「ナベプロフォーク取り込み作戦」の総仕上げ

1970年代中盤、盤石だった歌謡界を根底から揺さぶる敵が現れました。

敵の名は「フォーク」。吉田拓郎と井上陽水をツートップとする戦後生まれの自作自演音楽家たちが、若者の心をつかみ、対して歌謡曲は、ちょっとイケてない音楽と思われつつあったのです。

当時の歌謡界といえば、渡辺プロダクション(ナベプロ)全盛期。若者の支持を急速に集めたムーブメント=フォークに対して、ナベプロは真正面からぶつかるのではなく、その勢いを自分たちの側に取り込むという作戦に出ます。

’74年の日本レコード大賞に輝く、森進一『襟裳岬』は吉田拓郎の作曲。’75年のレコ大=布施明『シクラメンのかほり』は、こちらもフォーク界で当時人気だった小椋佳の手によるもの。

また沢田研二『時の過ぎゆくままに』や太田裕美『木綿のハンカチーフ』(ともに’75年)もフォーク・ムードたっぷり。もちろん森、布施、沢田、太田は全員ナベプロです。

そんな「ナベプロフォーク取り込み作戦」の総仕上げとでも言えるのが、キャンディーズと吉田拓郎(作曲)のコラボなのでした。前年の『やさしい悪魔』に続いて、この『アン・ドゥ・トロワ』が2曲目のコラボ・シングルになります。

「『キャンディーズ』を大人にしてやってほしい」――石田伸也『吉田拓郎疾風伝』(徳間書店)によれば、吉田拓郎はナベプロ社長・渡辺晋(当時)にそう言われたといいます。

スージー鈴木の週刊歌謡実話】アーカイブ

大人っぽいサウンドでピンク・レディーと共存共栄

馬飼野康二のアレンジが洒落ているので、吉田拓郎っぽさを感じさせませんが、拓郎本人のバージョン(アルバム『大いなる人』-’77年-収録)を聴くと「あぁ拓郎節だ」と納得できるはずです。

喜多條忠による優美な歌詞もいい。「♪人は誰でも一度だけ すべてを燃やす夜がくる」というくだりに、私は当時小学5年生ながらドキドキしたものでした。

そして3人のボーカル。「キャンディーズ=ハーモニー」というイメージが強いかもしれませんが、ぜひサブスクなどで聴いてください。

この曲、ほとんどがユニゾン(同一音程)なのです。でも粒の揃ったユニゾンがとにかく美しい。今のアイドルの「機械処理ユニゾン」ではない「人力ユニゾン」が聴きどころ。

’77年の9月といえば、ピンク・レディーが『ウォンテッド(指名手配)』をリリースし、まさに最盛期に向かっている頃。

対してキャンディーズは、小学生を踊らせまくっている彼女たちとガチンコでぶつからず、この大人っぽいサウンドでひょいとかわしながら、大学生以上も射程に置いた別次元へと向かっていく。

そして’77年の9月といえば、日比谷野外音楽堂での「普通の女の子に戻りたい」発言から2か月ほど経った頃。「普通の女の子」、いや「普通の大人の女性」としての気持ちを歌ったこの曲を、ファンは熱烈に支持するのでした。

いよいよカウントダウンが始まっている。この曲のリリースから、あの後楽園球場での解散まで、あと195日。

「週刊実話」11月27日号より

スージー鈴木/音楽評論家
1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。
配信元: 週刊実話WEB

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