「逃げ」のリスカが自傷中毒を引き起こす

この研究により、自傷行為の背後にはストレスホルモンの分泌不足があり、自傷は偏桃体と前頭葉の接続を損なうことが示されました。
自傷行為によって分泌される大量のストレスホルモンは、ストレスと戦うための手段になりますが、慢性化すると自傷なしにはストレスに対処できなくなってしまいます。
また繰り返される自傷によって精神が消耗すると恐怖を司る偏桃体の働きが鈍り、理性を司る前頭皮質との接続も弱まり、正常な恐怖を感じることも難しくなる可能性があります。
結果、些細なストレスも大きなストレスとなり、ストレスを緩和するために自傷に至り、さらに脳への異常が蓄積していきます。
ある意味では自傷は覚せい剤のような働きを持っていると言えるでしょう。
簡単には癒えない心の傷を、ある程度は治ることがわかっている体の傷で埋め合わせようとする行いは魅力的だと言えますが、残念ながら長続きはしないようです。
統計的に自傷行為と自殺は深く結びついていることが判明しているからです。
強引な自傷という手段を用いたストレスからの逃げは一時的な対処に過ぎず、問題を先送りにして解決をより困難にするからです。
ただ幸いなことに、自傷をやめることで神経生物学的な異常は元に戻るとされています。
研究者たちは今後、自傷がどのような経緯で発生したかを調べていくとのこと。
いくつかの自傷は幼年期の虐待が原因であるとされており、虐待が脳の接続変化やストレスホルモンの分泌不良を起こした可能性があるからです。
もし詳しい仕組みが解明されれば、自傷がピタリと止まる薬が開発されるかもしれません。
参考文献
New study sheds light on the neurobiological mechanisms underlying non-suicidal self-injury
https://www.psypost.org/2021/11/new-study-sheds-light-on-the-neurobiological-mechanisms-underlying-non-suicidal-self-injury-62170
The Self-Harming Brain New research looks at the neurobiology of self-harm in teens.
https://www.psychologytoday.com/us/blog/domestic-intelligence/202001/the-self-harming-brain
元論文
Multimodal assessment of sustained threat in adolescents with nonsuicidal self-injury
https://www.cambridge.org/core/journals/development-and-psychopathology/article/multimodal-assessment-of-sustained-threat-in-adolescents-with-nonsuicidal-selfinjury/698AD1E73B8E0061BA9C48156F63AA40
Incidence, clinical management, and mortality risk following self harm among children and adolescents: cohort study in primary care
https://www.bmj.com/content/359/bmj.j4351
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

