
秋元康氏プロデュースのもと、2023年に開催された「IDOL3.0 PROJECT」大型オーディションを経て結成されたアイドルグループ「WHITE SCORPION」。彼女たちは国内発の「NIDT(Nippon Idol Token)」という暗号資産を用いた資金調達によって生まれたグループとして、従来のアイドル運営とは一線を画すweb3戦略に取り組んでいる。そんなWHITE SCORPIONを2025年春からスカパー!がバックアップしている。現在、スカパー!では彼女たちの冠番組「WHITE SCORPIONのSCORPISM」が放送されているほか、定期公演のスポンサード、web3事業での協業など、多角的な取り組みが行われている。なぜ放送事業者がアイドルと連携するのか。そして、ファンも知っているようでよくわからない人が多いであろう暗号資産「NIDT」とWHITE SCORPIONが目指すweb3戦略の現在地と未来について、プロジェクトを率いる株式会社オーバース代表取締役の奥秋淳氏と、協業のパートナーであるスカパーJSAT株式会社 メディア事業部門長補佐 兼 新領域事業部長 石田亘氏に、その狙いと展望を聞いた。

■放送事業者とアイドル運営、異色のタッグが生まれた経緯
ーー本日はありがとうございます。まずはお二方の担当業務と、WHITE SCORPIONとの関わりについて改めて教えてください。
石田:スカパー!の石田です。当社は放送事業を開始して来年には30周年を迎えますが、成熟した放送事業に加えて新規事業にも力を入れています。その中で注目したのが、web3技術を利用した新たなユーザー体験の創出です。単純に放送を届けるだけでなく、ファンが参加できる仕組みを作れないかと考え、「スカパー!投票」というプロダクトを展開してきました。そうした中で、web3アイドルとして革新的な活動をされていたオーバースさんとWHITE SCORPIONの存在を知り、ぜひご一緒できないかとお話をさせていただいたのが協業のきっかけです。
奥秋:オーバース代表の奥秋です。オーバーズはIDOL 3.0 PROJECT発のグループ「WHITE SCORPION」と「Rain Tree」の所属事務所であり、暗号資産「NIDT」の発行体です。私はそこで両グループの活動全般を見つつ、NIDTに関する取り組みの統括をしています。
ーーオーバースさんはweb3戦略を掲げる革新的な取り組みをされていますが、スカパー!さんとの協業はどのような経緯でスタートしたのでしょうか。
石田:もともとオーバースさんがweb3を活用したファンとの新しい関係構築を目指されていたので、そこに対して「我々も一緒にやらせてください」とお話ししました。放送事業者として冠番組を制作するといった従来の形に加え、NFTのデジタルアイテムなども絡めた総合的な取り組みをしたいという思いがありました。リアルのアイドル活動とデジタルのweb3、この両方を掛け合わせることで、ファンとの新しい関係性やエンゲージメントを高める仕組みをご一緒できるのではと考えたのです。
奥秋:我々が本格的にタッグを組ませていただいたのは、今年(2025年)の3月から始まった定期公演からです。
石田:そうですね。毎月開催している定期公演のタイミングから、より深くご一緒させていただいています。
■暗号資産から生まれたアイドル「WHITE SCORPION」の成り立ち

ーー奥秋社長、WHITE SCORPIONがweb3戦略に取り組むことになった背景を改めて教えていただけますか。
奥秋:他のアイドルとは全く異なるグループの成り立ちから説明が必要ですね。2023年4月に、私たちは「NIDT」という暗号資産で資金調達を行いました。そして、その資金で「IDOL3.0 PROJECT」オーディションを実施し、NIDTを保有している方々の投票で最終的なメンバーを選んでいただきました。つまり、ファンの方々が初期からプロジェクトに参加し、共にグループを育てていくという思想が根幹にあります。
ーーファンがメンバー選考から関わるというのは画期的ですね。
奥秋:そうなんです。そのための仕組みとして「NIDTポータル」というサイトも用意しました。NIDTの保有量などを登録することで「ファンランク」が決まり、ランクが高いほどライブで良い席が取れたり、投票で推しメンバーの活躍の場を提供したりなど、特別な体験ができたりします。ファンであり、プロデューサーでもある、というこれまでにない“共創関係”を築くことを目指しています。こうした背景があるので、web3の技術やツールを活用して活動の幅を広げていくことは、我々にとって最も重要なテーマの一つでした。
ーーグループの成り立ちから、これまでも独自でNFTの展開などをされてきた中で、今年始まったスカパー!さんとの協業にはどのような期待を?
奥秋:自社で実績を積み重ねることも大事ですが、新しい領域で共に歩んでくれるパートナーの存在は不可欠でした。幅広いエンターテインメントファン層に支持されているスカパー!さんがweb3のプロダクトをお持ちで、我々の活動に深い理解を示してくださったことは、まさに「渡りに船」でした。非常に親和性が高いと感じ、ぜひご一緒したいと思いました。
■協業で生まれた熱狂と、ライブという「実験場」

ーー協業がスタートして半年以上が経ちますが、現在感じている手応えや成果についてお聞かせください。

石田:定期公演『ホワイトスコーピオンBASE Live』について春から開催協力をしていますが、公演を重ねるごとに、ファンの皆さんの熱量がどんどん上がっていくのを肌で感じます。そこに我々が関われることは非常に大きいです。また、冠番組だけでなく、ショートドラマ「いじめっ子の11転生」の制作(※11月14日からTikToKで配信中)など、一つの形に留まらずデジタルとリアルを融合させながら展開を拡大できていることに手応えを感じています。今後は、スカパー! のアニメ専門チャンネル「アニマックス」なども含め、さまざまなリソースを活かして、さらに多くの人にWHITE SCORPIONを知ってもらうきっかけを作っていきたいです。

奥秋:定期公演は「BASE Live」と名付けていますが、グループにとって土台であり、ファンの方々も含めたホームのような位置付けです。実はこの「BASE Live」は、我々にとって新たな試みの“実験場”でもあります。例えば、ファン歴の浅い方向けの「ビギナーズライブ」や、ファンランクが高い方にはプレミアムな体験ができる「NIDT保有者限定ライブ」など、さまざまな試みを行っています。
特にファンの方々から熱狂的に支持されているのが「サソリの十戒」という演出です。これはメンバーがステージを降りて、客席を割ってファンの方々のすぐ近く、距離にして数十センチくらいの場所でパフォーマンスをするというものです。この距離感と熱気は、他では絶対に味わえない体験だと思います。9月のワンマンライブ「連撃」ではその拡大版で客席を十字に割って、ぐるっと回転させるという、説明してもよくわからないような(笑)ライブ演出をしています。私も見た時は「何をやっているんだこれは!?」というくらい本当に驚きました。定期公演の名物になって、ファンの方はこれが見たくて来ていただいている人も多いです。ぜひ定期公演「BASE Live」、アイドルファンの方たちには見ていただきたいですね。
こうした実験的な試みを定期公演で繰り返し、そこで得たものをワンマンライブでさらに昇華させていく。このサイクルを通じて、メンバーのパフォーマンス、演出、そしてメンタル面も、この1年で飛躍的に成長したと感じています。
■web3戦略の現在地と「共創」の未来

ーー今後のweb3戦略について、より具体的な展望を教えてください。
奥秋:まずNFTに関しては、ファンの方々が「web3だから」とか「ウォレットが」といったことを意識せずに、自然に触れていただけるような形を目指しています。例えば、定期公演ではメンバー自身が選んだライブ写真をNFTとして販売したり、個別握手会では「デジタルブロマイド」という形でNFTを販売し、それを購入すると握手ができる、といった仕組みを取り入れています。
そしてweb3戦略の核となるのは、やはりファンコミュニティの活性化、つまり「共創」です。web3の世界は、運営側が一方的に発信するのではなく、ファンの方々がコンテンツを生み出し(UGC/User Generated Content)、広めていくことで熱量が生まれます。そして、その貢献に対してトークンやNFTなどでインセンティブが還元される。そうした双方向の関係こそが理想です。
ーーUGCとなると、例えばファンがWHITE SCORPIONの楽曲や映像・画像を使ってコンテンツを作るなどは、権利関係の点で実現にはハードルもありそうですね。
奥秋:おっしゃる通り、著作権などの問題もあり、我々権利者側がコンテンツを完全に自由に解放することは難しいのが現状です。しかし、時代は変わり、公式か海賊版かも曖昧なデジタルコンテンツが世の中には溢れています。それならば、一定のルールの下で画像や動画を使ってもらい、そこで生まれた収益の一部を権利者側に還元してもらう、といったweb3的な仕組みも可能ではないかと考えています。まだ道半ばですが、そうした新しいモデルに挑戦していきたいです。
■NIDTはアイドルの未来を変えるか 「NIDTフェス」構想も
ーーファンの方からは「NIDTはどうすれば買えるのか」「持つとどんないいことがあるのか」という声も多いようです。
奥秋:NIDTは現在、SBI VCトレードさんとBACKSEAT暗号資産交換業(旧coinbook)さんという2社の暗号資産交換業者で購入可能です。実はWHITE SCORPIONのメンバーが卒業する際、その活動への貢献度に応じてNIDTで退職金が支払われる仕組みになっています。NIDTを持つこと・使うことの直接的なメリットとして、NIDTの価値が上がることが、メンバーへの直接的な応援に繋がるんです。他にも、特定のグッズの売り上げの一部がNIDTでメンバーに還元される仕組みもあります。
ーー今後、WHITE SCORPION以外のアイドルがNIDTの仕組みに参加することは可能なのでしょうか。
奥秋:それは我々も考えているところです。実は過去に、ラフ×ラフさんのライブチケットをNIDT決済で販売したことがあります。将来的には「NIDTフェス」のようなものを開催したいという構想もあります。出演するアイドルのチケットもグッズも、会場で使うお金もすべてNIDTで決済する。そんなイベントが実現できたら面白いですよね。「NIDT」は「ニッポンアイドルトークン」という名前を掲げている以上、日本のアイドル文化全体に貢献できるような存在に成長させていきたいです。
■3年目の挑戦 アイドル業界に変革を起こす存在へ
ーー最後に、3年目を迎えるWHITE SCORPIONに期待することをお聞かせください。
石田:我々スカパー!はスポンサーというより、あくまで協業パートナーです。WHITE SCORPIONという強力なIPと共に、我々が展開するweb3事業を成長させていきたい。彼女たちの人気が拡大して、ファンの方々が喜ぶ姿が増えること・そしてそれを見ることが我々の喜びでもあります。これからもさまざまなチャレンジを共に仕掛けていき、アイドル業界、そしてエンタメ業界全体を盛り上げる存在になってくれることを期待しています。
奥秋:リアルな活動としては、WHITE SCORPIONのライブの魅力、パフォーマンスの熱量を、まだ届けられていない方々にしっかりと伝えていきたい。11月には初の海外開催となる香港公演も控えています。国内はもちろん、世界に向けてもその魅力を発信していきます。そしてweb3の視点では、デジタル、NFT、メタバース…いろいろなキーワードがありますが、そこに「リアル」のアイドルというIPコンテンツで、我々が参入するということが面白い取り組みだと思っています。先陣を切って新しいムーブメントを自ら作り出す存在でありたいですね。
現在のアイドルシーンは“カワイイ”が大ブームで主流ですが、我々はパフォーマンスや独自の世界観、そしてweb3という新しい武器で勝負していく。WHITE SCORPIONが、誰も見たことのない新しいアイドルの形を提示できればと思っています。その挑戦を、ぜひ見守っていてください。そして、WHITE SCORPIONもすごく“カワイイ”のでぜひチェックしてください。

