「途中まで勝てる気がまったくしなかった」
橋本大地は試合をそう振り返った。9月14日の大日本プロレス後楽園ホール大会。メインイベントで行なわれた世界ストロングヘビー級タイトルマッチだ。
今年5月、同王座3度目の戴冠を果たした大地。ここまでの防衛戦では岩崎永遠、レイトン・バザードと他団体、外国人選手を相手に勝ってきた。「身内とやってマンネリ化したくない」という理由からだ。
今回の挑戦者は石川修司。やはり他団体(Evolution)所属であり、なおかつキャリア最大の敵と言える相手だった。
石川はかつて大日本のリングで一時代を築いた。ストロング、デスマッチ両部門でチャンピオンとなり、激闘を展開。またDDTではKO-D無差別級王者、全日本プロレスでは三冠ヘビー級、世界タッグ、さらにチャンピオンカーニバル優勝と各主戦場でトップを張っている。
そんな石川が久々に大日本参戦を果たし、主力選手に連勝。タイトル挑戦は当然の流れだった。ただ、石川の目的はベルトを巻くことだけではなかった。
今の大日本・ストロング戦線を体感すること。自分が“モノサシ”となって選手たちの魅力と実力をより多くのプロレスファンに届けること。そこまで考えての大日本参戦だった。
関本大介や岡林裕二とベルトを争ってきた“かつての大日本”を知る石川は、観客動員で苦戦が続く今の大日本に刺激を与え、活性化しようとしたのだ。
だからこそ“今”を代表するチャンピオンとして大地は負けるわけにいかないのだが、石川はもうすぐ50歳とは思えない強さを見せつけた。
195cmの巨躯を自在に操り、ヒザを突き上げるとコブラツイストでスタミナを奪う。頭突きからエプロンでの変形パイルドライバーを決めると、大地は額のあたりから出血してしまう。本人以上に観客が「勝てる気がしない」と感じたのではないか。
それでも、大地の蹴りは石川に通用していた。エルボーの打ち合いも真っ向勝負。打たれた瞬間に打ち返す、得意の速射砲カウンターの連打だ。
必殺技のライジングDDTは形が崩れたものの、最後は「奥の手」だという三角絞めで“大巨人”をタップさせた。巨漢に勝つにはグラウンド。プロレスの鉄則と言っていい。
「最初はSTF狙ったんだけど、土壇場であれしかないと思って。あれでしか活路を見出せなかった」
そしてこの三角絞めは“父・橋本真也の技”と言ってもいいだろう。他団体の選手とのタイトルマッチで三角絞め......長くプロレスを見ている者なら、橋本真也が高田延彦からIWGP王座を奪った試合を思い出すのではないか。
デビュー当時から蝶野正洋のSTF、武藤敬司のシャイニング・ウィザードを使ってきた大地は、観客を“歴史との交信”に誘うレスラーだ。今回のフィニッシュもそうだった。もちろんそれは、大地が“七光”とは無縁のトップ選手だから。現在進行形だからこそ、見ている我々は気持ちよくノスタルジーを感じることができる。
大地は出血しながら石川の強烈な攻撃を受けまくった。受ければ受けるほど石川の強さが観客に伝わる。そんな石川に勝ったからこそ大地の評価も上がる。年間ベストバウト候補となるべき一戦だった。今の大地は、日本マット界を代表する凄味あるレスラーだ。
「限界まで闘って負けた」
石川は言った。それを伝え聞いた大地は「自分がやってきたことが正解だった」と喜んだ。
大地は自分の評価よりも「ベルトの価値が上がった」と誇らしげだった。
「今後、このベルトの価値を上げることに尽くしていきます。ちょっとずつお客さんが戻ってきてるから。大日本という団体がいろいろ現状を変えようとしている。その中で今日、一つの結果が見えたのは俺のモチベーションになるし。(防衛ロードは)たぶん間違ってないと思う。これからもそれを証明していかなきゃいけない。どんだけ体ボロボロになっても、俺チャンピオンだからさ。道を切り拓いていかないと」
大地は4月から佐賀の団体BURSTとの2団体所属になった。だが大日本のチャンピオンとしての自負、責任感は以前よりも増している。
そんな姿勢まで含めて、橋本大地は理想のチャンピオンに近づいている。本当に凄い選手になった。感服するばかりだ。
取材・文●橋本宗洋
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