NBAでは“プロ3年目がキャリアの分岐点”とされる。ここまでに飛躍できればスターへの道が開け、平凡なままならフェードアウトしていく――そんなジンクスだ。
マイケル・ジョーダンが初の得点王に輝いたのも3年目で、シャキール・オニールも同様。コビー・ブライアントも3年目で先発に定着した。
その3年目に、サンアントニオ・スパーズのヴィクター・ウェンバンヤマは最高のスタートを切った。10月22日の開幕戦、ダラス・マーベリックス相手にいきなり40得点、15リバウンド。自身3度目の40-15で開幕すると、続くニューオリンズ・ペリカンズ戦では9ブロックを決め、5試合目までは平均30.2点、14.6リバウンド、4.8ブロックを記録していた。
11月2日のフェニックス・サンズ戦で相手の徹底的なマークを受け9得点、9リバウンドに抑え込まれ、続くロサンゼルス・レイカーズ戦も八村塁相手に苦戦してファウルアウトを喫したが、すぐに調子を取り戻す。8日のペリカンズ戦は18得点、18リバウンド、10日のシカゴ・ブルズ戦も38得点に加え12リバウンドを奪った。
ディフェンスでも12試合を終えた時点で平均3.58ブロックはリーグ1位。ペイント内で許した得点は100ポゼッションあたり32.5点しかなく、10試合以上出ている中では最も低い。レイカーズのJJ・レディックHC(ヘッドコーチ)は「彼がカバーできる範囲はとんでもなく広く、同時にふたつの場所にいるようにすら思える」と評している。
ルカ・ドンチッチ(レイカーズ)の「3年目でMVPレベルのプレーをしているなんてとんでもないことだ。彼を相手にガードするのも、攻撃するのも、とても難しい」との感想には、リーグの全選手が同意だろう。
ウェンバンヤマに牽引され、スパーズも8勝4敗でウエスタン・カンファレンス6位。2018-19シーズン以来7年ぶりの勝率5割、プレーオフに進むだけでなく上位シードも狙える位置につけている。
アマチュア時代から10年に1人の大器と目されたウェンバンヤマは、23年にドラフト全体1位指名され、鳴り物入りでスパーズに加入。評判通り1年目は新人王を受賞、2年目の昨季も右肩に血栓が発生して最終30試合を欠場したが、このアクシデントがなければ最優秀守備選手賞候補の最右翼に位置していた。
幸い血栓症の影響は最小限にとどまり、オフシーズンはコスタリカや東京でサッカーに興じ、母国フランスではチェスの大会を主催するなど大忙し。中国では鄭州の少林寺で10日間にわたって精神修養を積み、丸刈りで拳法の形を取っている映像は、まるで映画『死亡遊戯』のカリーム・アブドゥル・ジャバーのようだった。
もちろんトレーニングも怠りなく、伝説のセンターであるアキーム・オラジュワンの門を叩いてワークアウトに励んだだけでなく、メンタル面を鍛えるため、同じく殿堂入りのビッグマン、ケビン・ガーネットにも教えを乞うた。
「この夏、僕ほどトレーニングしていた選手は他にいないだろう」と自負するくらい、心身ともに充実してシーズンを迎えた成果は間違いなく現れている。
周囲の選手たちとの息も合っている。昨季の新人王ステフォン・キャッスルとのコンビは、彼の背番号5とウェンバンヤマの背番号1を併せて“エリア51”の異名がついているが、12日のゴールデンステイト・ウォリアーズ戦では2人とも20得点以上のトリプルダブルを記録。これはリーグ史上5組目という快挙だった。
11月8日に正司令塔のディアロン・フォックスも戦列に復帰したので、彼とのコンビネーションも、実戦でのプレーを積み重ねていくことで熟成されていくはずだ。
昨季からの明白な相違点は、3ポイントを打つ機会が少なくなっていることだ。全シュートの47%が3ポイントという、身長224cmの巨人らしからぬ数字だったのが、26%と半分近くまで減っている。
通常、ビッグマンのシュートレンジが広ければ広いほど相手は守りにくいので、一定の成功率があるならば、試投数は多い方が望ましい。ただしウェンバンヤマの場合、昨季これだけの本数を打っていたのは、シュートレンジを広げる練習を実戦で積んでいるという側面もあったようだ。
より確実性を求めた結果、今季はフィールドゴール(FG)成功率が50%を超えていて、1試合あたりのダンクの本数も2.0本→2.8本と増えている。ただ、潜在能力からすればFG成功率はこれでも低すぎる。身長に比較するとまだまだ体格は細いので、敏捷性を失うことなくビルドアップに成功すれば、オラジュワンとニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)をミックスした怪物にすらなり得る。
今のところはまだ、ウェンバンヤマはシェイ・ギルジャス・アレキサンダー(オクラホマシティ・サンダー)、ヨキッチ、ドンチッチらを抑えてMVPを手にするほどではない。だが、この21歳の成長スピードの速さを考えれば、シーズン終盤を迎える頃にはその中に割って入ってくる可能性も、十分あるだろう。
『ジ・アスレティック』のザック・ハーパーはこのように予想している。
「今は相手ディフェンスがあらゆる方法を試し、何が効果的か判断している段階だ。けれども、いずれはどうやっても止められなくなる時期が来るだろう」
文●出野哲也
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