先週と今週にまたがる国際Aマッチウィークに行なわれたワールドカップ欧州予選、ジェンナーロ・ガットゥーゾ監督率いるイタリア代表は、アウェーのモルドバ戦に2-0で勝利を収めたものの、ホームでの最終戦でグループ首位のノルウェーに1-4という完敗を喫して2位で全日程を終了。12年ぶりのW杯出場は3月に行なわれるプレーオフ(準決勝と決勝それぞれ一発勝負)に委ねられることになった。
この代表ウィークを迎える時点ですでに、たとえノルウェーに勝ったとしても得失点差で2位となることが事実上見えていたため(試合開始時点でノルウェーの得失点差は+29、イタリアが+12)、イタリアにとって今回の2試合は、目先の結果以上に3月のプレーオフに照準を合わせてチームを固め、完成度を高めて行くことが重要だった。その観点に立てば、強敵ノルウェーとの直接対決は「力試し」としてまたとない機会。ガットゥーゾ監督がモルドバ戦を控え選手で構成されたメンバーで戦うことで主力を温存し、ノルウェー戦にベストメンバーで臨むことを選んだのも、まさにそれゆえだった。
モルドバ戦(11月13日)のスタメンは以下の通り。
GK:ヴィカーリオ
DF:ベッラノーバ、マンチーニ、ブオンジョルノ、カンビアーゾ
MF:オルソリーニ、クリスタンテ、トナーリ、ザッカーニ
FW:スカマッカ、ラスパドーリ
この11人中、本来のレギュラーは中盤のトナーリのみ。そのトナーリは累積警告で出場停止にリーチがかかっており、もしノルウェー戦でイエローをもらったらプレーオフ準決勝に出場できなくなる。その事態を避けるためこちらに回った格好だった。
そのモルドバ戦は、ベタ引きで守備を固める相手に対して、再三チャンスを作りながら、アシストやフィニッシュに精度を欠いて後半残り5分を切るまで0-0のまま。88分にようやく、前線に攻め上がったCBジャンルカ・マンチーニがフェデリコ・ディマルコのクロスに頭で合わせて均衡を破り、アディショナルタイムに入った93分にフランチェスコ・ピオ・エスポージトがやはりクロスをヘディングで決めて2-0として帳尻を合わせた。
そして迎えた11月16日のノルウェー戦のスタメンは以下。ガットゥーゾ監督は就任からここまでの4試合、明らかな格下相手には2トップ・2ウイングの攻撃的な4-4-2/4-2-4、そうでない時にはそこからウイングを1人削り、中盤を1人増やして3バックとした3-5-2の配置を採用してきた。この試合で用いられたのは当然ながら後者である。
GK:ドンナルンマ
DF:ディ・ロレンツォ、マンチーニ、バストーニ
MF:ポリターノ、フラッテージ、ロカテッリ、バレッラ、ディマルコ
FW:レテギ、エスポージト
「本来の」レギュラーで欠けているのは、前述のサンドロ・トナーリに加えて、故障で招集を外れたFWモイゼ・ケーンとCBリッカルド・カラフィオーリの3人のみ。それぞれに「替えの効かない」クオリティーを備えた重要な主力選手だが、その程度の穴も埋められないほど選手層が薄いのだとしたら、それはそれで重大な問題である。
対するノルウェーは司令塔マーティン・ウーデゴーを故障で欠いている以外はフルメンバー。事実上の消化試合にもかかわらず、6月に続いてもう一度イタリアを叩きのめしてW杯出場を祝おうという意気込みが表われていた。システムはCFを本職とするアレクサンデル・スルロットを右ウイングに置いた4-3-3/4-1-4-1。ウーデゴー不在時には、スルロットを前線に上げ右ウイングにドリブラーのオスカー・ボブを入れたより攻撃的な4-4-2/4-2-4で戦った試合もあったが、ストーレ・ソルバッケン監督はより攻守のバランスがいい中盤の厚い本来の布陣を選んできた。
GK:ニーラン
DF:リエルソン、アジェー、ヘッゲム、ウルフ
MF:ベルグ、ベルゲ、トルストベット
FW:スルロット、ハーランド、ヌサ
試合は立ち上がりから、6月に0-3で完敗を喫した借りを返したいという、さらに高いモチベーションを持ったイタリアが攻勢に立つ展開となる。その大きな理由は、ノルウェーがハイプレスを行わず、4-5-1のミドルブロックを構えて受けに回ったこと。
左CBアレッサンドロ・バストーニ、WBディマルコ、MFニコロ・バレッラというインテルトリオの息の合った連携を活かし、そこにアンカーのマヌエル・ロカテッリやFWエスポージトが絡む形で左サイドに人数をかけ、数的優位を作り出して前進。数的優位を生かしたコンビネーションで左サイドをディマルコが縦に抜け出す形、あるいは相手を左に寄せたところから一気にサイドチェンジし、右サイドで幅を取るマッテオ・ポリターノがドリブルで仕掛ける形を作って、そこからのクロスで一度ならず危険な場面を作っていく。
7分にサイドチェンジを受けたポリターノがクロスを入れ、そのこぼれ球にディマルコが合わせて最初の決定機を作ると、10分には左へのサイドチェンジから先制点が生まれた。ノルウェーの守備ブロックの外側を大回りしながら左右にボールを動かして揺さぶり、一旦右に開いたところから、ロカテッリが大きなサイドチェンジを左サイド深いゾーンに送り込む。
ボールに先に追いついたのはノルウェーの右SBユリアン・リエルソンだったが、その軽率なトラップミスにつけ込む形でディマルコがボールを奪い、そのままレテギとのワンツーでエリア内に侵入してゴール前中央のエスポージトにアシスト。DFを背負いながら絶妙なトラップで反転した20歳の新鋭ストライカーは、そのまま間髪入れずに2タッチ目をねじ込んだ。
イタリアはその後もボールと主導権を手中に収めて、受動的な4-5-1ミドルブロックの秩序を保ってゾーンディフェンスを続けるノルウェーを自陣に押し込める。とはいえ、そのブロックをこじ開けてペナルティーエリアに侵入する場面は多いとは言えなかった。ポゼッションで守備ブロックを左右に揺さぶり、逆サイドで浮いたWBにサイドチェンジを送り込み、そこからクロスを折り返すのがほぼ唯一の攻め手だった。
右のポリターノにしても左のディマルコにしても、サイドチェンジを受けたところから質の高いクロスをゴール前に送り込むことはできるが、1対1や1対2の状況からドリブル突破で相手を剥がしてエリア内に侵入し、シュートやアシストで決定的な仕事をするまでのクオリティーは持ち合わせていない。ノルウェーのように高さと強さを備えたDF、MFが揃うコンパクトなローブロックを攻略するには、攻め手にやや欠けることは否めない。
それでも36分にはこの試合初めて、ブロックの中央を割る縦パスがジョバンニ・ディ・ロレンツォから前線のダビデ・フラッテージに通り、それに続く中央でのコンビネーションから左サイドに展開してフリーのディマルコがクロスを折り返す形を作る。しかしこれに合わせたエスポージトのヘディングシュートは枠を外れ、2-0と突き放す絶好のチャンスは実らずに終わった。
1-0で折り返した前半のボール支配率はイタリア61%に対してノルウェー39%。シュート数7-1、ゴール期待値(xG)0.63-0.01という数字が示す通り、ノルウェーはほぼ守勢一方で、イタリアゴールを脅かす場面はゼロ。世界最強ストライカーのアーリング・ハーランドも、6月の対戦時に強力なドリブルでイタリアを翻弄しまくった20歳のアントニオ・ヌサも、ほとんど試合から消えていた。しかし後半に入ると、ノルウェーは一気にギアを上げてアクセルを踏み込み、イタリアを窮地に陥れることになる。
後半開始直後の46分と48分、ロングボールを競り合ったこぼれ球を拾ってヌサに預け、そこからドリブルで仕掛けて一気にゴールに迫るという、最も得意とする形を立て続けに作り出し、スルロットが二度の決定機を得る。シュートはいずれも枠を捉えずに終わったが、これがまさに反撃の烽火だった。
ノルウェーはイタリアのビルドアップに対しても、前半は中盤ラインに留まっていたMFクリスティアン・トルストベットとパトリック・ベルグが積極的に前に出て、ハーランドとともにイタリアの3バックにマンツーマンでハイプレスを仕掛け、新たな困難を作り出していく。こうした唐突な変化に気圧されるように、イタリアは振る舞いが徐々に消極的になっただけでなく、前半の落ち着きを失って小さなミスが目立つようになった。
63分には、徐々に強度が落ちてきていた中盤でのプレスが後手後手に回り、2ライン(MFとDF)間が大きく開いた結果、アンカー脇のスペースをうまく使ってパスを受けたヌサに前を向かせ、ドリブルでのエリア侵入を止められないばかりか、そのままシュートまで許して同点ゴールを決められてしまう。こうして、相手の一瞬の油断を突いたワンプレーで決定的な違いを作り出せるスーパーなタレントを(ハーランドやウーデゴー以外にも複数)擁しているところがノルウェーの強みであり、またイタリアとの大きな差である。
試合を決定づけたのは、78分に喫した1-2の逆転ゴール。プレスの秩序が失われ陣形が間延びして、ノルウェーのポゼッションを分断することすらままならなくなり、左右に揺さぶられた末に、やはりヌサの仕掛けから右サイドを崩され、途中出場したもうひとりの若きドリブラー、ボブのクロスからハーランドに左足ボレーで叩き込まれた。
本来あってはならないことだが、イタリアはこれで完全に集中力を失い、続くキックオフの戻しを受けたCBバストーニが、自陣からの縦パスを相手にプレゼント。一気に逆襲を喰らってハーランドに1-3の決定的なゴールを許してしまう。この時点で試合は実質的に終わったと言ってよかった。90分を回ってから決まった4点目は、圧倒的な強さでグループ1位を勝ち取り28年ぶりのW杯出場を決めたノルウェーの「祝砲」であると同時に、逆転された後にまったくと言っていいほど反発できなかったイタリアへの「罰」でもあったと言えるかもしれない。
後半のボール支配率はイタリア55%対ノルウェー45%。シュート数8-12、ゴール期待値0.67-1.58と、完全にノルウェーが優位に立っていた。90分トータルのゴール期待値は1.39-1.59なので、1-4というスコアは「出来過ぎ」だが、総合的に見てノルウェーがイタリアを上回っていたことは否定のしようがない。
後半開始直後からの唐突なギアチェンジを見ると、前半のノルウェーは意に反して押し込まれていたというわけではなく、あえて受動的に振る舞ったのではないかという「疑い」も浮かび上がってくる。ほかでもない「森保ジャパン」が4年前のカタール・ワールドカップや先日のブラジルとの親善試合で見せたように、前半と後半でまったく異なる2つの試合を戦う「戦略」は、とくに対戦相手の研究と対策が進んだ現在においては、予期せぬサプライズ効果を創出する手段として、かなりの有効性を持っている。
ノルウェーにとってこのイタリア戦が事実上の消化試合だったことも考慮に入れれば、ソルバッケン監督がW杯本番に備える形で、前半は受動的な4-5-1ミドルブロックの耐性を、後半は能動的なハイプレスからのトランジションサッカーをそれぞれ試した可能性もないとは言えない。それが意図的だったかどうかにかかわらず、結果的にはこの唐突なギアチェンジが非常に大きな効果をもたらしたことは確かだ。
試合後、ガットゥーゾ監督は「3月のプレーオフに向けては、この試合の前半を出発点にしたい」と語った。もちろん、前半の戦いぶりは評価に値するものだが、今後に向けた「出発点」とするべきは、むしろ後半の方かもしれない。相手がアグレッシブに前に出てきて1回、2回チャンスを作っただけで、それまでの落ち着きと秩序を失い、感情レベルで困難に陥ってしまったように見えるからだ。戦術的な困難(プレス強度の低下、陣形の間延びなど)は、その結果としてもたらされたと考える方が理にかなっているように思われる。
今予選でもイスラエル戦などで何度か見られた、受動的な戦いを強いられた状況でのメンタル的、感情的な不安定さは、近年のイタリア代表が抱える小さくない問題だ。上で触れた、絶対的な個のクオリティーを備えたタレントの不在は、一朝一夕で解決できる問題ではない。それと比べればこちらの側面にはまだ解決の余地が十分に残されている。指揮官ガットゥーゾ、そしてそれを支える代表選手団長ジャンルイジ・ブッフォン、アシスタントコーチのレオナルド・ボヌッチといったレジェンドたちのリーダーシップに期待したい。
文●片野道郎
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