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「久しぶりに、こんなに硬くなった」――1セットダウンから本領発揮。慶應CHで錦織圭が刻んだ“復帰の第一歩”<SMASH>

「久しぶりに、こんなに硬くなった」――1セットダウンから本領発揮。慶應CHで錦織圭が刻んだ“復帰の第一歩”<SMASH>

対する錦織は試合後の会見で、「久しぶりに、こんなに硬くなった」と明かした。同時に、ツアー離脱の原因となった腰の痛みも、「全力で動くと出る」ことも認める。その上で、極めて申し訳なさそうに肩をすくめて、こうも言った。

「正直なことを言うと……、ちょっと加減しながらでもいけるかなと思って、試合に入ったんです。ほんと、すみません」
 
 そんな淡い期待は、序盤の市川のプレーの前に、吹っ飛ぶ。

「このままじゃ、確実に負ける」と気持ちを引き締めた錦織は、第2セット以降は早いタイミングでボールを叩き、ストレートに、そして逆クロスにと広角にボールを打ち分けた。

 第2ゲームをブレークし、第5ゲームでは飛び上がりながらフォアを打つ、通称“エアK”も飛び出す。その展開の早さに、市川の打球への入りが一歩、二歩と遅れ始めた。それは単に、展開の速さや球威のためだけではない。

「打球のコースを隠すのが、すごくうまい」

 それが対戦を終え、市川が実感した錦織の強さ。第2セットは6-1で、錦織が取り返した。
  太陽を覆っていた雲が晴れ、気温も急上昇した第3セットでは、錦織はレギンスを脱ぐ。身体も温まり、動きも一層切れ味を増した錦織は、立ち上がりから4ゲーム連取。終わってみれば、4-6、6-1、6-1のフルセットながら、試合時間は1時間21分。勝利の瞬間に錦織が見せたのは、安堵の表情だった。

 今回、慶應チャレンジャーへの出場を決めたのは、ケガの回復には時間が何より必要ななかで、「タイミング的に合ったから」だという。痛みの理由は、本人いわく「疲労骨折みたいな、骨の問題」であり、「休まない限り治らない」状態だった。

 今大会も、「出ないという選択肢もあった」という。

 それでも最終的に出ると決めたのは、「一試合でもできるなら、来年のためにと思った」から。次につながる一歩を、まずは蝮谷テニスコートに刻んだ。

取材・文●内田暁

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 慶應義塾大学・日吉キャンパスには校門がなく、小高い丘の斜面に広がるキャンパスは、開放感に溢れている。

 伝統のテニスコートは、その丘を越え、急こう配の階段を下りた低地にあった。誰が呼んだか、“蝮(マムシ)谷テニスコート”。かつては水田や沢のある湿地帯で、多くのマムシが生息していたことが、その名の由来だという。

 その蝮谷テニスコートのスタンドは、チケットを購入できた幸運な観客たちで埋まっていた。コート後方の丘の上にはテレビ中継カメラが設置され、コートサイドにもフォトグラファーたちのレンズが並ぶ。

 そのコートに、元世界ランキング4位の錦織圭が、階段を降り姿を現した。足首まで覆う黒いレギンスは、寒さ対策のためだろう。観客たちは熱狂するというよりも、固唾を飲んで、一挙手一投足に目を凝らしていた。

 錦織の公式戦出場は、今年8月の「シンシナティ・オープン」(ATP1000)以来。日本での試合は、昨年10月の「ジャパンオープン」(ATP500)以来。そして日本でのATPチャレンジャー出場となると、2006年3月の「島津全日本室内テニス選手権大会」まで遡る。11月17日開幕の「横浜慶應チャレンジャー国際テニストーナメント」が、錦織の復帰戦の舞台となった。
  第1シードとしてコートに立った錦織が、初戦で当たったのは市川泰誠。現在のランキングは793位で、今大会では予選を突破し錦織への挑戦権を手にしていた。

 24歳の市川と錦織の足跡が、最も接近したのは、2018年の全米オープンだったろう。その大会で錦織はベスト4入りし、市川はジュニア部門でベスト8に進出していた。会場で短いながらも言葉を交わし、世界最大のテニス専用アリーナで準決勝を生観戦した市川にとって、当時の錦織は「すごく遠い存在」

 その錦織との初対戦を「ものすごく楽しみにしていた」という市川は、喜びを全身からほとばしらせるように、コートを駆けた。コイントスに勝ちリターンを選ぶと、立ち上がりから錦織のセカンドサービスを果敢に叩く。寒さのためか緊張のためか、硬さの見える錦織を左右に振ってミスを誘い、いきなりのブレークに成功。その後は自分のサービスゲームで、錦織にチャンスを与えない。「第1セットは、ほぼ記憶にない」というほどに集中した市川が、第1セットを6-4で先取した。
配信元: THE DIGEST

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