高市早苗首相の台湾有事をめぐる発言に、中国側の怒りはエスカレートするばかりだ。中国の強烈な反応に日本のマスコミが引きずられ、「経済にマイナスだ」「高市首相は軽率だった」と非難がする声が出てきた。
だが、こうした批判は「おかしい」のだ。中国の現実を知っていたら、中国側の「怒りの正体」を簡単に見抜けるはずだから。
大事なことは、高市首相の「台湾有事」発言に飛びついた、中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事は退任を控え、出世の糸口を必死で求めていた人物であるという事実。
毛沢東の時代を超えたと言われるほど一党独裁色の強い習近平3期目の今、習主席の考えに反対できる共産党幹部は皆無だ。共産党のエリートであればあるほど、ライバルに先んじて習主席の顔色を読み取って発言をすることが出世と粛清の分かれ道になるため、幹部はご機嫌伺いに必死になる。
だから薛剣総領事の、習主席の腹を覗いた罵り発言に続いて、渡航自粛、留学禁止、在日中国人への帰国呼びかけなどが、次々に下される。
これは「習近平独裁」の下で繰り広げられている官僚生き残り戦争の「ごますり」の結果である。その証と言える現象が、中国での高市首相人気の高まりだ。
日本の政局に関心がある中国人は少ないが、10月初めに高市氏が自民党総裁に選出されると、中国のSNSの微博(ウェイボー)や百度などに、高市首相に関する情報を求める投稿が殺到した。
「女性首相誕生」に驚いたのは、中国のSNSだけではない。中国共産党の機関紙である「人民日報」をはじめ、系列の「環球時報」が「日本の右翼政治家の代表」「日本史上初の女性首相」として、驚きと好奇の目で報じた。中国共産党の機関紙が伝える高市像とSNSが伝える情報に、大きな差はなかった。
機関紙は靖国神社参拝、右派政治家という共産党らしい紹介をするが、それとともに見逃せないのが、学生時代にロックバンドを結成し、バイク愛好家であり、アメリカ留学中にアメリカ議会で働いたなど、人間を深掘りしていたことだ。
共通するのが、中国人は「日本は完全な男社会で、女性は影の存在」とみていたのに、現実の日本は変化していると、驚いていた事実。
そんな好意的な見方が、高市首相の「台湾有事」発言で、日本叩きへと急転換した。ところが中国世論をよく見ると、日本叩きに変貌したのは共産党の機関紙。逆にSNSでは高市首相を「すごい度胸だ」「習近平主席に媚びへつらわない」「立派である」という声が飛び出しているのだ。
こう伝えると、疑問に思う人は多いことだろう。しかし中国には、強い人を相手に戦う人物を評価する文化がある。実際に2010年、2012年に尖閣諸島問題の領有をめぐって中国で反日運動が燃え盛った時、中国人は国有化を言い出した石原慎太統都知事や、中国に逆らって靖国神社に参拝した安倍晋三首相を「偉大な漢」と称えていた。
そうした見地から、今回の高市騒動に「もうひとつの評価」があることを、知っておく必要があるのだ。
(団勇人)

