プロレスにおいて、選手への声援、コールは一つのバロメーターだ。どちらの選手が観客にインパクトを与えているか、どちらがより“勝ってほしい”と思われているか。評価、支持率のようなものが如実に表れる。
今年1月3日、マリーゴールドの青野未来は“白いベルト”ユナイテッド・ナショナル(UN)王座を桜井麻衣に奪われた。敗戦だけでなく、ショックだったのは桜井コール。
「あれがなかなか忘れられなくて。けっこう落ち込んだんです」
タイトルマッチは挑戦者に注目が集まりがち。なおかつ桜井はスターダム時代からファンと成長物語を共有してきた。師匠格のジュリアに「最初は何もできなかった」と言われるところから、少しずつ力をつけてのベルト奪取。観客としては感情移入しやすい。
青野はアクトレスガールズ出身。団体の方針が変わり“エンターテインメント”としてプロレスとは違うという打ち出し方をすると、多くの選手が離脱した。選手として本格化し、先輩レスラーたちに揉まれながら成長していくべき時期に、青野はエースに押し上げられ、悩みながら力をつけるしかなかった。そんな時代を、プロレスファンに見てもらうこともできなかった。
だから昨年5月、マリーゴールド旗揚げとともに移籍してきた時、青野は多くの観客にとっていきなり、ほぼ完成形で登場したという状況だったのではないか。最初から“できる子”だったと言えばいいだろうか。7月にはUN初代王者に。悩んだり苦しんだり試行錯誤する姿をファンと共有したとは言えなかった。
まして青野は積極的に主張したり、発言が物議を醸すようなタイプではない。淡々としているというイメージを持つ者も少なくないはずだ。だがそういう中でも、青野自身は手応えを感じていた。
「マリーゴールドに来たばかりの頃は、試されているという緊張感がありました。“アクトレスガールズから来た選手はどれだけできるんだ?”と。でも試合を重ねて、マリーゴールドの選手たちともお客さんとも信頼関係ができていきました。それにこれまでと比べて、マリーゴールドは試合数が多いので。たくさん試合をすることで成長できた部分も大きいです」
結局はメンタル、自分に自信が持てるかどうかということなのだろう。今では対戦相手への声援も気にならないし、腰にベルトがないことも「自由な感じがしますね」と前向きに捉えている。
タイトル挑戦などのアピールが少ないから、ファンに「最近どうしたんですか? またベルト狙ってください」と言われることもある。だが青野は自分にとってベストなタイミングが来るのを焦らず待っていた。
そして、そのタイミングがやってきた。シングルリーグ戦DREAM STAR GPで優勝。序盤は1敗1分と出遅れたが、それこそ慌てず騒がず勝ち星を重ね、UN王座を奪われた桜井とはドローで決勝へ。昨年は3勝1敗3分、今年は4勝1敗2分。わずか1勝の差だが、それが大きかった。
決勝ではキャリア2年弱ながら躍進を果たした20歳、ビクトリア弓月に勝利。フィニッシュはワンセコンドEXだった。5月に引退した“女子プロレス界の人間国宝”高橋奈七永の必殺技だ。
高橋の引退試合の相手を務めたのが青野だった。自ら名乗り出たのだが、プレッシャーは大きかったという。
「最後に奈七永さんとやりたいと思っていた選手はたくさんいるはず。私より関係性のある選手だっています。それでも名乗り出たからにはヘタな試合はできなかった」
練習でも若手以上に声を出し、誰よりも動く高橋はエネルギーの塊のような存在。引退試合で闘い、勝つことで青野も少なからぬ影響を受けたという。そして高橋から受け継いだワンセコンドEXが、リーグ戦決勝という大一番で青野に勝利をもたらした。
ベルトを失った時には不安があった。曰く「ベルトが自分を強くしてくれたと思っていたので」。しかしそうではなかったのだ。試行錯誤しながら、着実に強くなっていた。リーグ戦を前に、青野はこう言った。
「自分の中では気持ちも含めて強くなれてます」
優勝を決めた後のバックステージコメントでは「優勝するにはどうしたらいいのか、たくさん考えました」と語っている。その答えは団体への“愛”だった。
「マリーゴールドを愛する気持ち。それが一番だと思います」
青野はマリーゴールド旗揚げ以来、欠場なしの皆勤賞。トップ戦線の一角として常に体を張ってきた。悩んだこともあるし自信を失ったこともある。それでも安定した闘いで大会を盛り上げ、団体を支えてきた。
リーグ最終公式戦、決勝戦と2試合を乗り越えた青野には、満員となった後楽園ホールの観客から大コールが贈られた。これまでの青野の闘いぶり、その価値をファンは評価していたのだ。
試合後には林下詩美が持つワールド王座に挑戦表明。10月26日のビッグマッチ、両国国技館大会での対戦が決定した。
「マリーゴールドに対する愛は私が一番強いと自負しています。両国に向けてマリーゴールド愛をもっともっと大きくしていく」
ファンに心配されるほど自己主張が少なかった青野未来。しかしここぞという場面では、彼女ほど力強いレスラーもなかなかいない。
取材・文●橋本宗洋
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