中国外務省が日本への渡航自粛を呼びかけたのに続き、中国教育省は日本への留学に慎重を期すよう注意喚起。さらには中国文化観光省が日本への旅行自粛を重ねて呼びかけるなど、中国は「日本の治安が悪化している」との「虚偽情報」に基づく報復措置をエスカレートさせている。
高市早苗総理による「台湾有事と存立危機事態」発言に、習近平国家主席率いる中国が、こうして高圧的な反発の度を一段と強めているのが現状だ。
ところが、である。理不尽を振り回すことすら厭わない中国の強硬姿勢には、いささか腰の引けた「奇妙なチグハグさ」が随所に垣間見えるのだ。
そもそも独裁者として君臨する習近平自身が高市発言に対する批判を全く口にしておらず、ヒステリックな反発の狼煙を上げているのは、取り巻き幹部の茶坊主連中ばかりなのである。要するに、茶坊主に命じて猛反発のポーズを取らせているように見えるのだ。
このような印象を抱くのは、筆者ばかりではない。実は少なからぬ中国専門家が「習近平は内心では、高市発言に頭を抱えていた」との分析を口にしているのだ。いったい、どういうことなのか。習近平政権の内情に詳しい国際政治学者が舞台裏を明かす。
「中国経済は今、不動産バブルの崩壊に続いて、トランプ関税が追い打ちをかける形で大失速の危機に瀕しています。このままでは致命的な経済破綻を招きかねない。そこで習近平は日本との戦略的互恵関係を再構築することで中国経済を立て直す、というシナリオに舵を切り直した。そこに飛び出したのが今回の高市発言でした。これを看過すれば独裁者としての自らの権威が弱体化しかねない。さりとて戦略的互恵関係の芽を潰してしまえば、経済の立て直しがままならなくなる。習近平はそうしたジレンマに陥ってしまったのです。目下、薄氷を踏む思いで思案をめぐらせているといいます」
加えて今回、高市発言に対する抗議デモは鳴りを潜めている。2012年に日本政府が尖閣諸島を国有化した際には、中国各地で猛烈な反日デモが見られのに…。国際政治学者が続ける。
「中国国内で行われる抗議活動の大半は、当局が動員をかけて仕組んだ官製デモで、2012年の反日デモもまたしかりです。ところが今は、国内情勢が一変している。経済が急失速する中、中国人民は職を失って流浪し、若者の就職難は過酷を極めている。習近平が高市発言を機に反日デモを仕組むのは容易なことですが、国内状況は反日デモが反政府デモに発展しかねない惨状に見舞われています。天安門事件のような暴動の拡大は、政権転覆につながりかねない。習近平はそれに恐れおののいているのです」
戦略的互恵関係の再構築は、日本にも大きな経済的利益をもたらす。独裁者の足元を値踏みしながら、中国の譲歩をいかに引き出すか。高市総理には冷静で巧みな交渉術が求められることになる。
(石森巌/ジャーナリスト)

