「勝っても、1ミリもうれしくないんで......」
いつもの朴訥とした口調で、ポツリと彼が言った。
スコア的には6-4、6-1の快勝である。それでも錦織圭は、「内容がやっぱり伴ってない。不満は多い」と、言葉を選びつつも本心を紡いだ。
「でも、これをやっていくしかないので、しょうがないですけど」
そうも彼は、自分を説得するように続ける。
現在、慶應大学日吉キャンパスで開催中の「横浜慶應チャレンジャー」は、男子テニスツアーの下部カテゴリー。大会第1シード、世界ランキング158位の錦織は、2回戦で374位のシン・サンヒ(韓国)に勝利し、3回戦へと歩みを進めた。
今年8月以来、腰の疲労骨折のため戦線を離れていた錦織が、慶應チャレンジャーを復帰戦の場に選んだのは、回復のタイミングと合致したことが大きい。「一試合でもできるなら、来年のために」との思いもあった。ここから先を見据え、実戦に身体を慣らす意味合いが強かったはずの、日本大会。
だがやはり試合となれば、種々の葛藤やジレンマに襲わる。2回戦に挑むに際しては、どのようなプレーをすべきか、「めちゃくちゃ迷った」と打ち明けた。
「じっくりテニスをした方が、自分の調子が戻ってくるのかなと思った。なんだかんだ言っても、ラリーをしないことには多分調子が戻ってこないので、なるべくエラーを減らして、ゆっくり入ろうと思いながら試合に入りました」
はやる気持ちをなだめるように、「じっくり打ち合い」を選択して立った、2回戦のコート。それでもリターンで始まった最初のゲームは、相手のミスやダブルフォールトもあり、ブレーク発進となった。
続く自身のサービスゲームは、ミスが重なり0-30に。ただそこから、錦織のプレーや纏う雰囲気が、一気に変わった感があった。バックハンドの逆クロスから、前に出て決めるボレー。サービスからの3球目を、迷いなくストレートに打ち込むウイナー。そうして相手の意識を左右に振ってから、ネット際に沈める柔らかく残酷なドロップショット。最後もフォアハンドのアングルショットと、4連続ウイナーでキープした。 次のリターンゲームでは、バックサイドに来たボールを、軽快なバックステップでフォアに回り込み、目の覚めるウイナーを叩き込む。客席から一斉に沸き起こる、「おーっ!」という感嘆の声。迷いなく攻める錦織が、次々とポイントを重ねた。
当初の「じっくり打ち合う」というプランから、果たして変化があったのだろうか? 錦織が言う。
「じっくりいった結果、やっぱり自分のテニスを心掛けないと、なんとなく歯車が噛み合わなくなってくる。動きも悪くなってきて、自分のしたいことができなくなってくる。それで、変なミスも出てくるみたいな感じになった。なので攻める意識というのは、調子がいいか悪いか関係なく、持っとかないといけないなっていうのを再認識しました」
攻めの姿勢を貫いた結果、大きく広げたゲームカウント4-0のリード。
ただここから、本人いわく「リードすると気が抜ける僕の悪いクセ」が顔を出した。チャンスボールで攻めるフォアがラインを割り、じりじりと追いつかれる。それでも錦織が気持を引き締め、一段ギアを上げれば、地力や経験の差は明確だった。第1セットは、ゲームカウント4-4から抜け出し6-4。
第2セットでは、第4ゲームで4度のデュースを切り抜けキープしたのを機に、4ゲーム連取でゴールまで走り切った。
冒頭で記した「勝っても、1ミリもうれしくない」の言葉を試合後の会見で口にした時、錦織は「なんかこう......、大丈夫かな」と自分に問いかけた。
それは錦織にとって、「テニスが楽しい」と思えることが、何より大切だからだろう。ここ数年、「正直、身体はキツイ」ながらも「毎日、ジムや練習に行くのは結構楽しんでいる」とも言う。
そこがテニスコートである限り、大会のグレードや観客の数とは関係なく、彼が自分を測る指標は「テニスを楽しんでいるかどうか」だ。
3回戦での錦織は、求める「楽しい」気持ちを得られるだろうか? 相手は、IMGアカデミーの後輩でもある、内田海智。そのポテンシャルを錦織も認める実直なパワーヒッターは、自ずと、熱い思いを掻き立ててくれる相手でもあるはずだ。
取材・文●内田暁
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