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マクドナルドがセブンカフェからシェア奪回した100円コーヒーの攻防…消費者のある行動に着目した“味”の工夫とは

マクドナルドがセブンカフェからシェア奪回した100円コーヒーの攻防…消費者のある行動に着目した“味”の工夫とは

日本では当たり前になったコンビニやファストフードの「100円で飲める美味しいコーヒー」。しかしこの常識、海外のコーヒー関係者から見ればありえないクオリティだという。ブームの先駆者はマクドナルドだったが、そこにセブン-イレブンが参入し、市場は一気に塗り替えられた。100円コーヒー誕生の影で起きていた攻防を、マクドナルドのコンサルとして携わった著者が語る。

 

『教養としてのコーヒー』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全4回のうち2回目〉

コンビニコーヒーの裏側で何が起きていたのか?

いまやコンビニでコーヒーを買うのが当たり前の日本。日本全国におよそ5万7000店あるコンビニで、手軽に美味しいコーヒーを買うことができるようになっています。

コンビニコーヒーの流行を牽引したのは業界トップのセブン-イレブンでした。2013年1月、コンビニ業界で初めて、100円のプレミアムコーヒーをヒットさせたのが「セブンカフェ」です。100円でこんなに美味しいコーヒーが飲めるのかと驚いた人も多かったでしょう。

実際、日本のコンビニコーヒーのクオリティは、バリスタの私から見ても素晴らしいです。100円で提供できるなんてありえないレベルです。海外にも安いコーヒーはありますがクオリティが違います。美味しいプレミアムコーヒーがこの安さというのは見たことがありません。

だから海外からコーヒーの関係者が日本に来たときは、私は必ずコンビニに連れていきます。すると、たいてい「勘弁してよ、ヒデ。こんなところでコーヒー飲みたくないよ」と一度は拒否されます。「いいから飲んでみて」。さらにすすめると、しぶしぶ口にして目を見開きます。

「何これ、美味しい! こんなに安く提供する日本ってすごいね!」

そんなふうに必ず驚いてもらえます。これが、井崎流・日本のおもてなしです(笑)。

日本ではすっかり当たり前になってしまった100円コーヒーですが、世界からすると全然当たり前ではないのです。

いまではお忘れの方も多いですが、100円プレミアムコーヒーの先駆者は、日本マクドナルドです。2008年に100円で飲める本格コーヒーを提供し始め、大人気になりました。それまでより高品質のコーヒー豆を使用し、全店に専用のコーヒーメーカーを置き、大々的に宣伝したのです。これにより発売初年度は前年比3割増の2億6000万杯を売り上げたといいます。

当時、私もコーヒーのプロたちと一緒に飲みに行きましたが、「これはやばい」と衝撃が走ったのを覚えています。しかし、その後、日本マクドナルドは期限切れの鶏肉や食品への異物混入などのトラブルがあり、信用は失墜。そこへセブン-イレブンの「100円コーヒー」が登場し、完全に100円プレミアムコーヒーの市場は塗り替えられてしまいました。以降、100円コーヒーといえばセブン、というイメージが根付きます。

マクドナルドのコーヒーは何が違うのか?

危機に陥った日本マクドナルドでしたが、地道に信頼を回復するための手を打ち続け、2016年頃には業績も回復。再びコーヒーの品質改善に取り組みたいということで、ありがたいことに私に声がかかりました。

私がコンサルティングをする際は、まず現場に張りついてこの目で見ることから始めます。お客さんがどういうふうにコーヒーを飲んでいるか観察するところからスタートするのです。

マクドナルドの場合、現場を見る前は、お客さんはコーヒーを単体で飲むか、アップルパイなどの甘いものとペアリングして飲むかの2パターンが多いのではないかと思っていました。

ところが違いました。一番多いのはセットメニューでコーヒーを選ぶケースだったのです。マックでコーヒーを楽しむ人からすれば当たり前のことかもしれませんが、コーヒーの常識からはなかなか考えられないコンビネーションです。ということは、ハンバーガーやポテトを食べながら同時に楽しめるコーヒーにする必要があります。

次に多いのが、これは予想どおりですが、コーヒー単体でゆっくり過ごすお客さんでした。本を読むなどして比較的長い時間滞在しています。

これはコンビニコーヒーとはまったく違うところです。よって、味の設計はコンビニコーヒーと違うものになるはずです。時間が経っても味の変化が少なく、冷めても美味しいコーヒーであることが重要になります。

何度もいってきたように、味は主観的なものです。好みによって選択が変わるため、基本的には「どれが一番美味しいか」というのは難しい問題です。

もし私がマクドナルドの100円コーヒーを監修した際、手を抜いて、マクドナルド側の試作品をその場で飲んで「一番美味しいコーヒー」を決めていたらどうなっていたでしょうか。

おそらく、その「一番美味しいコーヒー」は「井崎英典にとって一番美味しいコーヒー」でしかなく、「マクドナルドユーザーが求めているコーヒー」ではなかったでしょう。

マクドナルドやコンビニチェーン各社のコーヒーの違いを比較して、優劣をつけているインフルエンサーなどもいますが、私にいわせればナンセンスです。それぞれの客層や企業側の狙いに合わせた、それぞれのバリューがあるのです。マクドナルドの場合は、ハンバーガーとポテトに合い、冷めても比較的味が落ちないコーヒーが必要でした。詳しくは伏せますが、さらにほかにも重視すべきバリューを洗い出して、開発は進みました。

結果的に、マクドナルドのコーヒーは劇的に変わりました。100円プレミアムコーヒーのシェアを大きく奪い返し、成功したのです。

コンビニコーヒーとマクドナルドのコーヒー、どちらが美味しいかということではなく、それぞれに合ったコーヒーがあり、きちんと価値を出せれば結果がついてくるのです。

もちろん、突き抜けたセンスがヒットを飛ばすこともあるでしょうが、基本的には、あらゆる商品・サービスの開発は、市場研究から入るべき、というのがビジネスの前提となる考え方です。

ヒットには理由があり、その理由を事前に仮説として立てるのがあるべき筋道です。

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