コメ余りなのに価格は高止まりしている。令和の米騒動は、生産者、流通業者、消費者の間を不器用に行き来するコメの“窮状”を浮き彫りにした。日本で稲作が始まったのは約3000年前。主食として長い間愛されてきたコメを取り巻く現状に、明らかに歪みが出てきている。いったい何が起きていて、問題の根はどこにあるのか。流通の最前線で日々消費者のニーズにアンテナを張り、的確な分析力に定評のあるスーパーアキダイの秋葉弘道社長(57)に聞いた。
「コメの売上げは落ちていません」「外国米を購入する層が大多数ではない」
秋葉氏は1992年に東京都練馬区関町に1号店を出店、現在は都内に9店舗を構えるまでに育てたカリスマ経営者だ。まず、最近盛んに「コメ余り」が報じられているが、実際に店頭でもコメはダブついているのだろうか。
「新米が出たばかりのこの時期にスーパーや量販店にコメが山積みにされているのはごく普通のことです。
むしろ、この時期に店頭の棚にコメがない状況のほうがおかしいですから。ウチで言えば、コメが極端に売れなくなったなんてことはありませんし、通常通りに売れていますよ。
問題は、高くても売れているから高値を更新し続けているということだと思いますね。一時的にコメが高いからうどんやパスタに切り替えるという発想はあったと思いますけど、やはり令和の米騒動で手に入らない時期があった影響から、『おコメ人気』が今でも続いていると思います。実際にコメの売上はまったく落ちていません」
消費者にコメ離れが進んでいると見る向きもあるが。
「そのような状況は現場では感じません。ただ、少しでも安いコメを求める方が多いのは事実です。ウチでもよく売れるのは、直接農家さんと契約してやり取りしているコメです。仲介業者を挟まない分、200円~300円ほど低い価格で店頭売りできるので、選ばれているようです。
ウチでは特にコシヒカリと同等以上の品質と評判の埼玉県産『彩のきずな』(5kg3980円)が売れています。この流れを見ても、消費者はより安いコメを選ぶ傾向にあり、『コメの価格は高い』と感じながらもなるべく『日本のおいしいお米を食べたい』という思いの方が多いのでしょう。
安いからという理由で外国米を購入する層が大多数という状況にはなっていないと思います」
「適正な価格帯は5kg3000円前後」「高値更新が続くと来年の価格が…」
とはいえ、高値が続けば消費動向にも影響が出ることは必至だ。適正な価格帯はどのあたりとみているのか。
「数十円単位で高値更新をし続けている今の価格は、安値で苦しめられてきたコメ農家にとっても『(高くて)ありえない』水準でしょう。底値から2倍近くの価格になり、コメ農家の収入も1.5倍ほどになっているそうです。
それゆえ、ほとんどの生産者がどこかで暴落することを懸念しているし、最も警戒しているのは消費者が日本のコメを敬遠するようになるまで高値更新が続くことでしょう。そうなれば輸入米が割り込むスキになるわけです。
不思議なもので、コメに関して消費者は一度食べつけた銘柄を買い続ける傾向があるんですよ。今はまだ日本のコメが売れているようですが、輸入米に舌が慣れ始めたら、かなりの層がそちらにシフトしていく可能性はあります。
だから、生産者と消費者の視点からバランスのとれた価格に早く落ち着くことが非常に大切ですね。今の価格は家計を直撃しているのは間違いないです。僕はバランスがとれている価格帯は5kg3000円前後なんじゃないかと思いますね」
均衡の取れた適正な価格帯にコメを引き戻すことは可能なのか。
「異常気象などがなければ来年の秋の新米は3000円前後にはなる可能性はあるでしょう。ただ高値更新が続いて本当にコメ離れが起こってしまった場合、来年の初夏に今年の新米の価格がガタガタと落ちることも考えられる。
例年、6月後半くらいにコメの価格を下げて特売をやろうという話が出るんですよ。これは新米出荷に向けて業者が倉庫の在庫をある程度減らしたいという思惑からやることが多いんです。ここ最近はなかったんですが、異常高値が続けば特売、さらに暴落もあるかもしれません」
過去には実際、消費者のコメ離れが取り沙汰された。今回はどうか。
「10年以上前、朝食は米食よりパン食の方が多いという統計が出て、そのあたりからコメの消費が底値を這うようにしてずっと推移してきました。少子化の進行でおコメを食べる人の母集団が減り、若者の間で炭水化物抜きダイエットが浸透していったということも大きいと思います。
それが令和のコメ騒動を経て、コメは手に入りづらい『高価な食材』という印象に変わりつつあります。以前よりも圧倒的に贈り物としてコメが喜ばれるようになった。それだけ価値のあるモノという認識が広まったんだと思います」

