野生のクマが市街地に現れて自宅にいた高齢者など10人以上が死亡、100人以上が負傷するというクマによる被害が多発している。緊急事態に対応するため、警察官のライフル使用が許可され、自衛隊も投入された。
警察のライフル銃使用はハイジャックなどを想定したもので、極めて異例の物々しい措置だ。AIでクマを識別するシステムなどクマ対人間の仁義なき戦いは総力戦の様相を呈してきた――。
7月4日朝、岩手県北上市の民家で住人の女性(81)が自宅の居間で血を流して死亡しているのが見つかった。
女性の身体には多数の引っかき傷があり、室内にはクマの体毛や足跡が残されていた。自宅でクマに襲撃され死亡するという衝撃的なニュースは驚きをもって受け止められたが、これは序章に過ぎなかった。
1週間後の7月12日未明、北海道福島町の住宅街で新聞配達員の男性(52)がヒグマに襲われて死亡。4年前に70代女性を死亡させたヒグマとDNA型が一致している。
10月には、宮城県栗原市でキノコ狩りをしていた女性(75)や、岩手県北上市の温泉旅館で露天風呂を清掃していた従業員の男性(60)がクマに襲われ死亡。岩手県一関市でも、住人の男性(67)が自宅の庭で遺体となって発見されている。
環境省のまとめによると、今年度のクマによる死者数は4月以降、過去最多となる13人(11月17日時点)に達した。
岩手県が最も多く5人、次いで秋田県4人、北海道2人、宮城県1人、長野県1人となっている。死者を含む被害者(4~10月)は196人。秋田県56人、岩手県33人、福島県30人、長野県15人などだった。
出没件数(4~9月)は2万792件で過去最多に達しており、最も多いのが岩手県で4499件と最も多く、秋田県4005件、青森1835件などと続き、東北6県で全体の6割超を占めたという。
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クマ出没で私生活に大きな影響も
全国のクマの推計頭数はヒグマが約1万2000頭、ツキノワグマが約4万2000頭以上で、分布域が人の生活圏周辺にまで拡大し、個体数は増加傾向にある。
エサとなる堅果類(どんぐり)の凶作などにより、クマが市街地に出没するケースが増加しているのだ。
クマの出没により生活にも影響をきたしている。
北海道や東北、新潟、長野などの小中高校では休校が相次ぎ、秋田大学や岩手大学ではキャンパス内や周辺でクマが目撃されたため、講演会中止や休講措置も。
「長野県飯田市で1948年に始まった『風越山トレイルマラソン大会』や、富山県上市町の『つるぎリレーマラソン&健康ウオーク大会』が中止に追い込まれました。
秋田市の東北高等学校駅伝競走大会は、近くの山でクマの目撃情報が相次いでいたことから路上で襷をつながずに、トラックを走ってタイムを合計する方式に変更したほどです」(スポーツ紙記者)
近年のクマ被害増加に対応するため、ハンターが市街地で猟銃を使用しやすくできるよう鳥獣保護管理法が改正され、9月に施行されたばかり。
しかし、地元の猟友会だけでは対処しきれない事態となっているため、ついに警察や自衛隊が出動することになったのだ。
警察庁は、警察官がライフル銃でクマを駆除できるよう国家公安委員会規則を改正し、11月13日から運用をスタート。ライフル銃の使用はこれまで、「ハイジャックの対処等」「重要施設の警戒警備」「凶悪な犯罪の予防・鎮圧、容疑者の逮捕」に限られていた。
「警察は秋田、岩手両県に他県警から機動隊の銃器対策部隊を特別派遣しました」(全国紙社会部記者)
自衛隊は、銃でクマを駆除することはできないが、罠の設置や駆除したクマの輸送などの後方支援を担う。自衛隊OB、警察OBにも協力を求め、狩猟免許取得を促進するなどの対策を取ることになった。
「民間企業の『ほくつう』(石川県金沢市)や『北陸電力』(富山県富山市)などが開発した害獣の自動検出AIの“Bアラート”に注目が集まっています。カメラの画像からAIでクマなど特定の害獣を検出し、自治体や警察・消防などに通報するシステムです」(AI事情通)
また『エゾウィン』(北海道標津町)の野生鳥獣対策DXソリューション“クマハブ”は、ハンターや警察、自治体職員などの関係者が無線ではなく、リアルタイムに位置情報や状況を地図上で共有できる統合プラットフォーム。安全確保と危険回避に有効な手段とされる。
政府はクマ被害への対応を関係省庁連絡会議から関係閣僚会議に格上げ。
関係閣僚会議議長の木原稔官房長官は11月14日の会合で「まずは個体数の削減に取り組むことが重要」として、春季のクマ捕獲を強化し、生活圏周辺の個体数を削減するなどの「クマ被害対策パッケージ」を取りまとめた。
11月16日、秋田県鹿角市では田んぼの中で倒れている高齢女性が見つかり、死亡が確認されている。
女性の頭や顔などには引っかかれたような傷が多数あったという。また同日、秋田県能代市の中心街にある『イオン能代店』の店内にクマ(体長約80センチ)が入り込み駆除された。
生活圏からクマを排除、削減し、人とクマの棲み分けという以前の姿に戻すことはできるのか。日本初の女性首相、高市早苗政権挙げての人間VSクマの戦いは緒に就いたばかりだ。
「週刊実話」12月4・11日号より
